182: 私は、やってない③ ~彼らの手柄にするために~
私はつい今しがた新種の魔物を倒した二人を見た。
心なしか気落ちしているように見える。
『復活』スキルは一度使われると、復活後には消えてしまうスキルなので再々戦することはない。もう本当に、これで戦闘は終わったということだ。
だから「障壁の角に頭をぶつけたことで死んでいた」となった場合、彼らは名前を残せないことになる。
――でも、大丈夫ですよ!
「私は、ちゃんと見てました! 障壁にぶつかった魔物の様子を! あのとき、まだ新種の魔物は生きてました!! だから仕留めたのはそちらのお二人です!!!」
明言したからこれで解決だ。――と私は満足したものの、周囲の反応は懐疑的だった。
「『見てました』って……、ホント?」
「シャーロット、放心してたよな? ペリドットしか見てなかったんじゃ……」
あとから参加したパーティーリーダー二人が、訝しげな視線を送ってくる。
なぜ、一番近くで見ていた私の目が疑われるのだろうか……?
「放心……? いえっ、見間違いじゃありません! 誰よりも間近で見ていた私が証言します。新種の魔物は障壁に頭をぶつけて虫の息でしたが、ばっちり生きてました。だからお二人がとどめを刺した――つまり三つのパーティーが、新種の魔物の初討伐者として『魔物図鑑』に載る、ということです!!」
ここにいる全員に聞こえるように、はっきりと証言する。
……なのに、それでも彼らは黙っていたり、仲間同士で目を合わせたりとするだけだった。
「え……あの、皆さん……? 本当に、本っ当に、私は倒してないのですが……」
「…………」
沈黙が広がる……。
…………。
まぁ、ここまで自信を持っているかのように証言しているけども……、実は私も、正直なところ本当に見たのか、根拠があるかと問われると……。
――まったく、ない――!
確かに壊れたペリドットをじーっと見てはいたけど、頭をぶつけた直後の新種の魔物の様子はよく見なかった。
何より、肝心の体力の値をまったく確認していない。
『鑑定』に記載されている情報が一番確実なのに、それを見てないなんて……!
だから確証はない。
ない……けど、それでも、私が倒したことにはしたくない。
だから二人が倒すまで生きていたことにする!
「本当に、本っ当に! 障壁に頭をぶつけても、新種の魔物は生きてました!」
――『魔物図鑑』に私の名前が載るようなことには絶対させない――!!
「……まぁ、いいんじゃねぇか?」
私の主張に、冒険者の皆さんが困っていたところ、一人が私に賛同してくれた。
「シャーロットがあぁまで言ってくれてるわけだし、お前ぇらのパーティーが討伐したってことで、もういいだろ」
空気を変えてくれたのは、バルカンさんだった。
「それに、普通は逆だろ? 『自分が討伐しました!』って主張するじゃねぇか? そこをシャーロットは自分はやってねぇって、確信を持って言ってくれてんだ。俺もさっきはシャーロットがやったかのように言っちまったが、よく見りゃぁ、こんなに頭がへこんでいても動き出していた可能性もある。そうなる前に二人で、二パーティーでとどめを刺した。――それでいいじゃねぇか」
二つのパーティーリーダーはバルカンさんのはっきりとした後押しによって、お互い頷き合う。
「それもそうだね。二つのパーティーが新種の魔物との再戦で制した……」
「『羊の闘志』たちと俺らが――同時討伐――ってことで喜ぼうか!」
二人のリーダーの言葉で、その仲間たちも雄たけびを上げた。
とどめを刺した二人は、握手している。
虎獣人さんと人族の男性、彼ら冒険者二人はお互い肩を叩いて褒めたたえた。