178: 再戦⑧ ~まるで悪役の立ち位置~
真上にいるファンタズゲシュトル亜種の嘘泣きはうっとうしいけど、さっきのやかましい笑い声よりマシだ。向こうが新種の魔物を討伐するまで、そこで待っていてね~。
ファンタズゲシュトル亜種の体力も『鑑定』で確認した。
今この快晴の満月の下で消滅する心配はまったくないし、嘘泣きの声量もさっきより上がっている気がする。このまま放っておいてよさそうだ。
すると、前方から慌てた声がした。
「あ、こいつ! どこに向かって……」
「おいっ、囲みに抜けを作るなって!」
「いや、こいつがうまく木を使って、……あ! 後ろに回り込まれるぞ!」
私はファンタズゲシュトル亜種を相手にしていたから、新種の魔物の戦況までは詳しく把握してなかった。どうやら冒険者さんたちは、新種の魔物に逃げられないように周りを囲みながら戦っていたようだ。
でもその囲みの隙をみつけて、縫うように抜けたらしい。
道に並ぶ木を使って隣の木へ、そのまた隣へと猿のように伝っていく。――って、新種の魔物は猿型なので得意技なのだろうけど、使われた木はその魔物の体重に耐えきれず折れたか曲がった。
しかも折れた場合は冒険者さんたちが追えないよう、後ろに倒していた。
それによって新種の魔物は囲みを逃れてしまう。
もちろん囲みが崩れたときのために、少し離れて待機していた魔法使いたちも魔物に攻撃するけど、それも新種の魔物が木を使って防御した。
この動きは、冒険者たちの背後を取ろうとするものだろうか。
「くそっ、こっちの背後狙いじゃねぇ、シャーロットだ。そっち行ったぞ! 気をつけろ!!」
バルカンさんが、鋭く叫ぶ。
なんと、新種の魔物はこちらを目標にしたようだ。
冒険者の皆さんがなるべく私や、復活前の新種の首から離そうと誘導しつつ戦っていたので距離は離せている。
それに私も、こういった事態になることをまったく考えていなかったわけではない。慌てふためくことはない。
新種の魔物はまっすぐこちらに、若干下りてくるように向かってくる。ここは少し傾斜になっているからだ。
そこを、本当の猿のように手を前足のように使って、猛スピードでこちらに走ってくる。
視線は……ん? 上? 私の真上にいるファンタズゲシュトル亜種を見ていた。
そのファンタズゲシュトル亜種は目をうるうるとさせ、「――ぴえ~ん――」と泣いている……ように見える。
それから新種の魔物は私を見て、敵意をむき出しにした。
「――ギャーーーッ、ギィィィーー!!」
ついでに歯茎もむき出しにして、憎悪の表情で迫ってきた。
ん? この状況……まるで私がか弱いオバケ姫(いや、おっさん顔だけど)を人質(幽霊質?)に取っている悪役で、新種の魔物はそれを助けに来た勇者みたいじゃない?
いや、勇者じゃなくて魔物だけど!
シャーロット「魔物が飛びつくくらい面白い!
『転生した受付嬢のギルド日誌』コミック3巻は、本日、発売!」