177: 再戦⑦ ~オバケにわからせてあげた~
私は転がっている首へと近づく。
その首はちょうど断面が地面についた状態で、背の高い木の近くに転がっていた。
「よかった……、こっちのペリドットは傷がない!」
――ブーッフふフふフ――。
急いで障壁を張った。
これで万が一、新種の魔物と戦っている人たちから流れ矢などが飛んできても大丈夫だ。
この奇麗な状態のペリドットを傷つけさせるようなことはしない! させない!!
「もぐらの一匹も中に入れないようにしないと!」
――ブッひゃっヒャッひゃっ――。
いくら外側を障壁で囲んでいても、地面についている首の下に障壁を張ることはできない。地面を潜って進むようなモグラが、うっかり侵入しないように気をつけないと。
そうだ、入ってきてもすぐ対処できるように、私も中に入っておこう。……血なまぐさいけど。
「『探索』スキルでは……うん、いない。近くにもぐらはなし! ……匂い、意外と籠るなぁ」
――プぷプぷプぷ――。
……それより、あ~、なんでこんなことに……。
新種の魔物は何を考えているんだろ!?
障壁を割りたいからって、なぜ頭突きを選択したのだろうか……!?
これでは、タチアナさんに怒られてしまう。フェリオさんにだって睨まれる!
「あ……ゲイルさんが薙ぎ払った腕も、ちゃんと障壁に閉じ込めないと。えーと……近くにあった。これはこれで囲んで……って、さっきから何? この笑い……あ!」
――プーッ、くすクスくすクス――。
隣からやけに忍び笑いをしていたのは、先ほど障壁で囲んだファンタズゲシュトル亜種だった。
「――ブーーッ! ファーーッふぁファふぁファふぁファ――!!」
オバケは私が振り返ったことで「やっと気づいた~?」と大爆笑した。
そのおっさんの表情たるや、今までで一番のバカを発見したかのようだった。
「…………」
私はファンタズゲシュトル亜種入りの障壁を高く、高~く、上空に上げた。
月が出ていても、木のかすかな影があれば結構元気なようだ。
では、その影が一切入らない場所で満月の光が当たれば、どのくらい静かになるのか? 実験してもいいだろう。
このあと『魔物図鑑』に載せるのに、様々な状況下での魔物の動きを観察しておくことはとても重要な作業なのだから。
「――ぎゃっ、ヒー……ひ~……ヒー……ひ~……――」
ファンタズゲシュトル亜種は月に背を向け、下に逃げ込もうとするように障壁の底面に顔をこすりつける。
ファンタズゲシュトルは実体がないし、血ももちろん通ってない。
こちらの亜種も、顔を下に向けても頭に血がのぼるはずもなく、苦しくもなさそうだ。
表情はまるで泣いているかのようだけど、声に波があるから間違いなく混乱ボイスを使っている。
泣きマネだ。体力は半分も減っておらず、まだ余力がある。
ファンタズゲシュトルの体力の増減の仕方は、他の魔物や私たちのような人とは異なる。
魔物や人は、疲れや攻撃されるなどして体力が減るけど、ファンタズゲシュトルは暗いか明るいかで増減するのだ。
今は満月の光に当たって体力を減らしているけど、「泣いててかわいそうだな~」と同情して木の影など暗い場所に移動させると……。
「――ふぇ~フェ~ん……ふ? ……、フふフふ、フヒョー、ふひょ~~――!」
体力が回復して元気になるのだ。――やはり泣きマネだった。しおらしく泣いていたおっさん顔は今、見下した表情で笑っている。
城壁の上で光魔法を当てて倒していたけど、あれは光を当てることで一気にファンタズゲシュトル亜種の体力を0にし、倒していたということだ。
0にできなかった場合、周囲が暗ければ回復し、倒し損ねるという結果となる。
さて、おっさんのニタニタ顔が近くにあると邪魔だ。
私はさっき『羊の闘志』の皆さんが倒した新種の魔物の首をがっちり守らなければならない。
気が散っては大変だから、しばらくは上空で待機してもらおうかな。
ファンタズゲシュトル亜種も、上にいたら存分に私を見下せて嬉しいだろう。
「――フヒョー、ふひょ……っ!? フィ~ン、ふぃ~ん、フィ~ン……――」
私はさっきよりも高く、近くの木の一番高い枝よりも上に、ファンタズゲシュトル亜種を入れた障壁を上げた。
それぞれのトップも一言あるようです。
鳥団長「コミック三巻読んでみましたが……、どうも騎士団の威厳が感じられない場面が多いようですね……!?」
クママス「明日発売だそうだが、↑見てのとおり、本日発売しているところもあるようだぞ!! どうもありがとうな!!!」