169: お帰りなさい⑨ ~オバケと一緒に見物する~
新種の魔物は残った片方の手で反撃するも、その手はゲイルさんが剣で軽々と払う。
魔物の爪とゲイルさんの刃のあいだに一瞬火花が散った。
そこから彼は、さらに新種の魔物へ近づいた。
「ゲイル、近寄りすぎるな! 奴ぁ手の使い方が器用だ。片腕だけでも油断するな!」
「大丈夫、大丈夫~! もう片方の腕も、俺が切り落としてやんよ~! これがっ、王都で感覚を掴んだ『魔力を力に変換』スキルだぜーー!」
それをバルカンさんが注意するも、ゲイルさんは気にも留めない。
(この感じ、相変わらずだなぁ。……ん? おっ、おおっ! ゲイルさんがスキル名を叫んだら、魔力の四分の三が力の値に振り分けられた!)
これはゲイルさんが意図してやった、ということだよね?
王都に行く前は、「魔力」を全部「力」に変換したせいで気絶したこともあったのに……。
王都へは能力値を測定する魔道具の件で行ってもらったけど、何がしかの過程を経て、自身の魔力をどのくらい力に振り分けたら気絶しないのか学んだ――つまり感覚を掴んだってことかな?
能力値測定の魔道具については、本当に測れるのか、むしろ人体に影響が現れるような怪しい魔道具ではないかと不安に思っていたけど、杞憂だったようだ。
ゲイルさん自身に変な状態異常もついてないし、雰囲気もアーリズを出たときから変わってない。特に変なことはされていないようだ。
測定魔道具と『魔力を力に変換』スキルとの関わりはどういうものだったのか、それに関連して何か訓練をしたのか、あとで教えてもらいたいなぁ。
だけどとりあえず今は、新種の魔物との初戦を終わらせることだ。
この魔物は、ゲイルさんの「力」が上がったとわかったのか、それとも先ほどのトラウマもあったのか、後ずさった。
――というのは、フェイントだった。
後ろに下がったと思われた新種の魔物は、重心を後ろに下げず、上半身を前傾させ、残った片腕を振り上げ、ゲイルさんに襲いかかる。
「やべっ!」
調子に乗って新種の魔物の間合いに入ってしまったゲイルさんは、それでもどうにか仲間の魔法の援護で逃れることができた。
それを見たバルカンさんは叱る。
「ゲイル! 近寄りすぎるなって言っただろうが!」
「ひえ~、失敗失敗~! もっかい挑戦するぜ!」
「そうじゃねぇ! 相手の動きをよく見……あ、おい、単純な動きはやめろ! かぁ~っ、やっぱり素直に言うこと聞ゃしねぇ!」
ゲイルさんが突撃する様子にバルカンさんは頭を抱えた。
仲間たちも「王都ではスキルの使い方は覚えても、賢さは学べなかったか……」とため息をついているようだ。
確かに王都に行く前のゲイルさんは、知力が24で、今も……24だ。
力や速さ、耐久の値は少し上がったのに対し、知力だけは上がらなかったようだ。――あ、でも「賢さ」ってそういうことじゃないか。
それにしても、このやりとりがとても懐かしく感じる。
私は戦いに参加させてもらえないので、邪魔しない場所で彼らを見守った。
もちろん、捕まえたファンタズゲシュトル亜種も一緒だ。
「しぃ~ネーしぃ~ネー、しぃ~ネーー!!」
私の障壁に阻まれて、くぐもった混乱ボイスが隣から聞こえるんだけど、恨みが籠っているような……?
気のせいだね、うん。