168: お帰りなさい⑧ ~皆さん帰ってきた~
それから、私に礼を言ったバルカンさんは、ゲイルさんにファンタズゲシュトル亜種の脅威を軽く説明した。新種の魔物を倒すのに、時間をかけざるを得ない理由についてもだ。
新種の魔物が膝をつき、私がファンタズゲシュトル亜種を捕らえたことで、話す余裕が生まれたからだろう。
「……だから慎重に倒さねぇといけねぇ。勝手に突っ走るなよ、ゲイル。――ともあれお前ぇ、王都行って『雪辱』って言葉覚えてきたんだな?」
それも今聞くことなんだ、と私は思ったけども……。
「ほっほっ、お帰りゲイル。それとの、雪辱を『はらす』ではなく『果たす』じゃな。ちと甘いのぅ」
ツッコまれてもいるし。
「何が『英雄』だい。本当の英雄は、わざわざ自分から言わないもんだよ。でもお帰り」
マルタさんは呆れている。
「お帰り。王都から帰ってきても、さほど変わらなかったな……」
「お帰りなさい、道に迷わなかったのは偉いわ。フフ」
仲間たちは警戒を解かない状態を保ちながら、ゲイルさんを迎えた。
そんな彼は急いで駆けつけたにもかかわらず、元気で楽しそうだ。
「迷わなかったのは、ここまで馬車で来たからだぜ~! なんとっ、うちの領主が用意してくれたんだよ! だから王都に行った皆と帰ってこれたんだー!」
「確か、近隣の町からの道はどこも閉鎖していたと聞いたが、そういうことか。ありがてぇ!」
そのとき森の北側で、一筋の光が走った。
雨雲や雷雲が迫ってきていたわけではない。
誰かの――王都から帰ってきた冒険者の一人の放った攻撃に違いない。
森が燃えている様子もないし、何より『探索』スキルで確認したところ、次々と魔物の反応が消えていき、その方向から、さっきまではなかった歓声も聞こえてくるのだから。
今回の戦闘では、不安要素があった。人数不足がまさにそれだった。
個人の能力値を測定する魔道具の計測実験で、E~Sランクの人たちが王都へと赴いていたからだ。
アーリズに二人しかいないSランクの冒険者たちもそこへ向かったので、なおさらだ。
けど、――帰ってきた。
ゲイルさんと同じBランクの人たちも全員帰ってきていて、それぞれ自分の仲間たちがいる方へと駆け寄っている。
皆、この窮地に急いで帰ってきてくれたのだ……!
……ん? 冒険者以外の反応もあるけど、こちらは……。
「リーダー! 実はな~、貸してくれただけじゃなくて、領主も一緒に帰ってきたんだぜー!」
「……はぁ? 一緒に? こんな、魔物の大群に襲われてるってぇときにか……?」
あ、なるほど。冒険者以外の反応は領主様方のものか。
私たちの周囲にいた騎士たちも伝令が来たようで、領主様の帰りを喜んでいる様子が窺える。明るい声がこちらにも聞こえてきた。
騎士団全体の動きも変わったような……。『探索』でわかる範囲では、より整然としてきた。
「……こんな大変なときに戻ってくる行動力があるってぇのは、この町にとって嬉しい領主かもな。……さぁ、お前ぇら。――やるぞ」
ここまでゲイルさんから話を聞いていたバルカンさんたちだったけど、ただ話しているだけではなかった。
膝をついた新種の魔物を取り囲みながら、目や手振りで合図しながら、魔物との距離を詰めながら話していたのだ。
ゲイルさんが今帰ってきたばかりだというのに、まるで最初から作戦を立てていたかのようだ。
「――よしっ、かかれぇ!!!」
バルカンさんの号令で、『羊の闘志』たちは一斉に攻撃を開始した。
新種の魔物もその声に必死の抵抗を見せるけど、片腕をなくした状態では、満足に反撃はできないだろう。
それにファンタズゲシュトル亜種の応援(という力アップボイス)もない。
必ず、『羊の闘志』は倒せる。
――でも。
でも、私は気を抜かない。
新種の魔物が倒されて、それを彼らが喜んでも、私は……『鑑定』スキルを使う私だけは、気を抜かない。