167: お帰りなさい⑦ ~ほほえみ~
元々ファンタズゲシュトルは「ちょっと邪魔なオバケ」程度にしか思われていない魔物だ。
ゲイルさんがどれだけ仲間に注意されたとしても軽く考えてしまうのは仕方ないけど、これではせっかくの好機が失われてしまう。
――と、ならないように対策していたのが私だ。
「――おオおオおオお――!」
そのファンタズゲシュトル亜種は、野太い混乱ボイスを「苦ぢ~」と悶えているゲイルさんに向けてかけてきた。
タチアナさんと城壁の上にいたときは、小ばかにした笑い声のような響きだったのに、今のそれは、新種の魔物が――自分のボスが攻撃されたことに憤っているかのように聞こえた。
威力はどんなものだったのだろうか。
通常よりも強力で治しにくいものだったのか、それともただの感情的な声であって威力は変わらないのか。
しかし、もう確認しようがない。混乱状態にはならないのだから。
「――はい、残念でした!」
混乱ボイスを障壁で防いだからだ。
防いだだけではなく、ファンタズゲシュトル亜種をきっちり囲んだ。
上から下、前から後ろ、左から右、と隙間を作らないよう細心の注意で閉じ込めたのだ。
さっきまで新種の魔物の背後にぴったりくっついていたことで、なかなか手が出せなかったファンタズゲシュトル亜種がゲイルさんに――ちょうど障壁を張りやすい空間に、のこのこやってきてくれたということだ。
私も囲みやすかった。
ファンタズゲシュトル亜種はせっかくの混乱ボイスが効かない様子に、少し周りを見渡して、自分が捕らわれた事実に気づいた。
隙間はないか、どうにかして出られないかグルグルキョロキョロ探す。
「――うあァあァあァあァ――!!」
しかしほんの少しの隙間もないことを理解すると、私のほうを向き、全力で混乱ボイスをかけてあがく。
もちろん、どうがんばっても届かない。
まるで悔しそうな、やけくそ交じりの叫びだ。
ファンタズゲシュトルは元々表情が細やかだけど、亜種でもそれは変わらないのは面白い。
「障壁の中の居心地はどうですか? ふふ~」
この個体ではないけど、ファンタズゲシュトル亜種たちは城壁の上でさんざん私たちを混乱させて、小ばかにし、楽しんでいたのだ。
私とタチアナさん以外は混乱状態だったから、当事者である城壁担当の皆さんは覚えてなさそうだけど(タチアナさんはそれどころじゃなかったけど)、私はしっかり覚えている。
やっと優位に立てたようで嬉しい。
私の隣に移動させたファンタズゲシュトル亜種に、勝利の笑みを送った。
「お~、シャーロットもいるじゃん!」
今もさして緊張感のないゲイルさんが、バルカンさんの手から放れて危機感なく手をひらひらさせる。
「ゲイルさん、お帰りなさい!」
「ただいまー! 久々に会ったと思ったら、あくどい笑顔になってるな~!」
「え?」
ゲイルさんの顔にはまったく悪気がなかった。
はて。私、ファンタズゲシュトル亜種を相手にそんな悪そうに笑っていましたか?
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10/22金、chapter41が更新されました。
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(コピペのお手間をかけます)