166: お帰りなさい⑥ ~お返し??~
――ンギィィエエエアアアア!!!――
新種の魔物の左腕が、先ほどの斬撃で地に落ち、転がった。
悲鳴が響き、膝をついたことで地面が揺れる。
いったい何が起きたのか。
木の陰から一気に距離を詰めてきた彼――ゲイルさんが、バルカンさんを掴んでいた魔物の左腕を薙ぎ払ったのだ。
新種の魔物は木のてっぺんに届くほどの体長があるので、腕の位置も当然高い位置にある。
それでも腕を狙えたのは、この魔物が先ほど暴れ、よじ登ろうとして失敗したことにより斜めになった木を、彼が一気に駆け上がり、飛び上がって切りつけたからだ。
前方に集中していた新種の魔物は、横から来た彼を察知することができなかった。
「俺の腕やりやがったお返しだ~! あのときの雪辱をはらしてやったぜ~!!」
帰ってきて早々、魔物の腕を斬りはらった彼は自身の剣を新種の魔物に向け、得意げな顔をした。
王都から帰ってくるという情報はあったけど、まさか戦いの最中に帰ってきてくれるとは。
なんて嬉しく、ありがたい状況だろうか。
「……あれ? 前に俺の腕をやりやがったヤツかと思ったのに、それよりかわいい顔して、毛むくじゃら……だぞ~?」
ゲイルさんは、「なにか別の魔物」と勘違いしていたのかな。新種の魔物をまじまじと見て、首をひねっている。
そんな彼にバルカンさんは近づいた。
バルカンさんは先ほどゲイルさんの攻撃によって地面に落ちるも、何事もなく立ち上がって普通に動いていたのだ。
この新種の魔物は手も長かったから結構な高さから落ちたはずなのだけど……、マルタさんが「頑強」と言うだけあってすり傷さえしていない。
「……こんなときに、お前ぇ、よく帰ってきてくれた。だがな、建国祭に出たあれとは別だぞ?」
「ええ~っ!? 前の町で聞いた魔物の特徴が、建国祭のときのとそっくりだったんだぜ? リベンジできると思ったのにな~」
どうやらゲイルさんは、建国祭のときに出た不思議な魔物と勘違いしていたらしい。
その町でどんな特徴を教えられたのかは知らないけど、「今まで見たことのない魔物」などであれば勘違いするのも無理はないかも。
だから「腕の雪辱云々」などと言っていたのかな。確かにあのとき大変だったよね……。
「ゲイル、もう少しこっちに寄りな! ファンタズゲシュトルにやられるよ!」
マルタさんは膝をついた魔物の陰から出てきたファンタズゲシュトル亜種から離れつつ、ゲイルさんの立ち位置を鋭く注意する。
まだ月は出ているのに、さすがにボスの劣勢には黙って隠れていられないらしい。
それでもゲイルさんは話し続ける。
「だからきっと『羊の闘志』が先に戦ってると思って、位置を騎士団から聞いて急いで来たんだぜー!」
「いいから、早くしなよ!」
ゲイルさんはここに来たばかりだし、前の町でも知り得なかった情報だろうから、ファンタズゲシュトル亜種の特異性がわからないに違いない。
マルタさんの注意にまったく興味がなさそうにしている。
近くのバルカンさんが、動かないゲイルさんの襟首をつかんで後ろに引っ張った。
しかしファンタズゲシュトル亜種は口を大きく開けて、チャンスを活かそうとした。
でもそれは、私も同じだ。




