161: お帰りなさい① ~落下~
――――。
――――ひっ、――。
……ぇぇぇぇぇ――!!!!
オチ、おちおちおち――、
落ちてる――!!!
「…………いいいぃぃぃぃ――!!!!」
い、急いで下に障壁をっっ――!!
し、下。
下って?
どっちだっけ??
暗い、わからな……!
落ちてもすぐ治癒魔法をかければなんとかなるだろうか。腕を治したときみたいに……。
い、痛すぎても治せるのだろうか……?
というか、治すには生きてないといけないわけで……。今は痛くないけど。
い、痛くない?? まさ、か……。
――し、死んでる――――?
私は、もう、死んでるのだろうか……。
だから痛くないんだ、暗いんだ……。
死んだ…………?
魔物にやられることはいつかあるかもと思ったこともあるけど、まさか、不注意で死ぬなんて……。
おかあさんにも言われたことがあったっけ。「どんなに強い人でも、一つの、ほんのちょっとの油断で簡単に命を落としてしまう」って……。
小さい頃から来たかったフォレスター王国にせっかく来たっていうのに、二年しか経たずに終わるなんて……。
やり残したこと……あるなぁ。
他の町も見てみたかったし、学園都市も興味を持ったなぁ。
アーリズでもやりたいことがいっぱいあった。
パテシさんのお菓子をもっと食べればよかった。
夏限定のゼリーももう一回食べたかったし、秋の限定のお菓子も楽しみだったなぁ。冬の限定も、春の限定もまた全種類食べたかった……。
そうだ。コトちゃんもワーシィちゃんもシグナちゃんも結構食べるんだから、もっと食後のお菓子の量を増やしてあげればよかったなぁ。
一回にホールケーキを四等分しかあげないだなんてケチくさいことやらずに、一人一ホール、どーんと買ってあげればよかった。
――いや、食べることだけ考えてはいけない。
今夜は襲撃だからと早くギルドを閉めたから、依頼書の張り出しが多く残っている。明日はメロディーさんと一緒に張らないと。
あとは『魔物図鑑』に載せるための項目の確認をして、いろいろ記入して、戦闘に当たった人たちから話を聞いて……。
明日から忙しくなるぞー!
…………。
…………。
いや、……死んでるんだよね?? ……そんな感じじゃないけど。
これはまさか、異世界で死んで、また異世界に転生しました――みたいになる感じ??
なんだかややこしいな……。
……ははは……。
…………。
…………って、……あれ? し、死んでなくない?
――――。
――ォォォォ――。
(ん……? 何の音?)
近くで音が聞こえる……。
それも、かなり側で、大きい音だ。
「……ぇ、……んえ……? ……風が……!」
風が、――ゴオオオオォォ――! と私の周りを回っている。
いや、周囲の風が私を押し上げている……?
私が風の上に座っている??
木の枝が、幹が、私の目の前にある。空中に座っているみたいだ。
あれ、そういえば真っ暗じゃない。ちゃんと見えるじゃないか。
周りは意外と色づいていて、真っ暗闇じゃなかった。
薄く明るい。
さっきまで目をつぶっていたのかな? だから見えなかったのかも……?
そういえば風の音も、落ちたときわりとすぐ聞こえたような気がしないでもない……。
(というか、まるで竜巻の中心にいるみたいなのに、なんで私はぐるぐる回らないんだろ……?)
そこまで頭が回ってきたとき――。
――かさっ。
草の音がした。
景色が止まった。
目の前には木の幹や根がぼんやり見えて、下には草があって、草を下敷きにしている……。
草を下敷き……?
あっ、地面に下りたんだ。
今度は草を下敷きにしている。
手にも草が……。
いや、手には謎の黒い紙を持っている。
「…………ぇ? は?」
いやいやいや。この黒い紙はいったい……封筒??
なぜに黒い封筒が???
死んだあとの行き先が書かれているんだろうか?
やっぱり死んでいるのでは?
……いや……?
死んで――ない。
落ちて……、落ちたけど、……浮いた? から死んでないってこと?
上を見た。
さっき私を助けてくれたと思われる風は、私を地面に下ろしてもまだ消えず、私の後ろにそびえ立つ城壁の上あたりで止まっている。
その風の残りが、城壁の高さを知らしめた。
「…………」
結構高い。
知っていたはいたけど、わかってはいたけど……かなり高い。
あんな高いところから落ちて、ケガも何もないなんて……。
風の向こうには、騎士団長さんらしき人がいるのが見える。
そうか!
「あ――あのっ、団長さん! 助けてくださったんですよねっ? ありがとうございました!!」
きっと団長さんが、さっきのアルゴーさんのように助けてくれたんだ!
「……壁………ぃ…っ……!」
私と団長さんを隔たる大きな風によって、彼の声が聞こえないけど、きっと心配してくれている声だろう。
だから私は大きく手を振った。
「団長さん! 大丈夫です、まったくケガはありません! 本当にっ、ありがとうございましたっっ!! 私、行ってきますね!!!」
私は大きな声でお礼を伝え、立った。
行かなきゃ!
うっ、ちょっと、足がガクガクしている……。
空中にいたとき、手も足も力を入れすぎていたのかも。
声を出したとき顎も痛かったから、歯も食いしばっていたのかも……?
こ、これ走れるのかな。むしろ歩けるのかな?
そうだ、まずは手の中にあった謎の封筒を……わ、私宛て?
そもそも、いつ私の手に? ……怪奇現象かな。
さ、先にこの封筒を開けようか……?
いや!
ファンタズゲシュトル亜種を、捕まえるのが先だ!
助けてくれた団長さん、騎士団の皆さんのためにも、あのファンタズゲシュトル亜種を捕まえて、新種の魔物も倒しやすくして、戦闘後は多くの人たちに近くで見物してもらって、『魔物図鑑』に載せることを成功させなきゃ!
ファンタズゲシュトル亜種は襲撃時には複数体いたし、冒険者側でも倒してくれただろう。だからこれは、アーリズの冒険者ギルドの名声を高めることにもつながる!
『魔物図鑑』は他国でも発行されている本だ。アーリズのことが知れ渡るようにするのが、私の今の仕事!
それに、こんな千載一遇の『魔物図鑑』作業に、私も関われるかもしれないのだ!
さあ立って、走って、あのオバケを捕らえに行こう!!
おまけ:シャ「一人1ホールのケーキを出してあげれば……」
その頃の学園生クイズにて。
ジャジャンッ!
サブマス「アーリズの場所を地図に記しなさい」
コト「簡単!……ハっ!」
ワーシィ「何止めてん……あ」
シグナ「何かしら、……悪寒がするわ」
コト・ワーシィ・シグナ(デブになる危険を感じる……!!!)
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コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』
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(コピペのお手間をかけます)