158: 光と闇を活かす?⑦ ~代わりに実況しますね~
本当に何も見えなかった。
いや、魔物の姿は見える。
見えないのは、『鑑定』の結果だ。
新種の魔物の『種類: 』という表記は出ているのに、肝心の能力値の数値や、他の情報が見えないのだ。
(新種の魔物だから力や魔力の値が見えないとか?)
いやいや、さっきハートのメガネで見たときは、体力とか見えてなかったっけ? あと何か特記事項も片鱗が見えたじゃないか。
(じゃあ、暗くて相手を視認できないから……?)
それだって、暗い中でもハートのメガネのかけらでは見えた。
……え、どうしてだろ?
この双眼鏡が壊れているから?
いやいや、「遠くを見る」物なのだから用途としては問題ない。
じゃあ、普通のレンズを通して見る場合、なぜか『鑑定』スキルの表示が見えないとか? それとも、ハートのメガネだからこそ見えるとか?
ん~、わからないけど……、ハートのメガネはダンジョン産なだけあって、ただ遠くが見えるだけではなかったということか。
「こらー! 返せ、壁張り職人~!!」
「あ、はい……ん!? 新種の魔物が、光魔法の発射地点に近寄ってます!」
私は返そうとして、やめた。
魔物の動きがあったので、またしっかり正面を見据え、代わりに伝えた。
隣の騎士さん――あれ? ジッキ・ヨウさんではないですか。とにかく彼に渡す一瞬の隙で、新種の魔物の大事な動きやヒントを見逃したら大変だ。そのまま続けよう。――それじゃあ、彼っぽく実況をしてみようかな。
「新種の魔物が木にたどり着きました! その木をゆすってます! ……たぶん!」
隣で「たぶんとはなんだー!?」と怒っているけど、近くのファンタズゲシュトル亜種の光を頼りに見ているため「たぶん」とあいまいになってしまう。
「光魔法の騎士さんは何とか後ろに退避しています! ……新種の魔物が手を出しますが……、おおっ、『羊の闘志』さんが注意をそらしたようです! なんとか逃げ切りました!!」
『羊の闘志』のどなたが攻撃したのかはわからないけど、新種の魔物が驚いて振り返った先は『羊の闘志』さんたちがいる方向だ。
「あっ、明かりが……! 見えやすくなりました。ファンタズゲシュトルが新種の魔物の後ろに引っ込みます!」
空がまた晴れたようだ。
新種の魔物の姿も見やすい。……見やすいけど、やはり『鑑定』での能力値が見えない。
こんなことならハートのメガネが壊れてないときに、もっとじっくり見ていればよかった……。
「新種の魔物が、まるで怒っているようにさらにゆす……あ! さっきはゆするしかできなかった新種が、今回はなんとっ、木をバキッと折っています!!」
暗かったときと、今の明るい状況を比べると、何だか今の明るいほうが元気に見えるような……。
「おっとぉ、新種の魔物がポッキリ折った木を……、投げました~!! 今度は凄まじい速さと高さを兼ね備えた投げですが~、しかーし壁張り……っじゃなかった、私シャーロットがその木を完全にガード! 下にいる人はお気をつけくださーい!」
危なかった。自分から「壁張り職人」と言っちゃうところだった~。
折られた木は障壁に当たって下に落ちた。『探索』スキルで見たところ、木の下敷きになった人はいないようだ。
ただ、今の新種の行動……これは気になる……!
ここからで『鑑定』結果が見えないのであれば、私がじかに見に行かないといけないのでは?
「皆さん、ご覧になりましたか!? ついさっき投げた熊の魔物と今の木の様子では、何かがまったく違います! あの新種の魔物には、秘密が隠されているに違いありません! ここは私、シャーロットが向かったほうがいいと思われますので、――いってきます!」
「却下です!」
双眼鏡を取られたジッキ・ヨウさんが静かになったなぁと思っていたら、目の前に団長さんの鋭いくちばしが映っていた。