157: 光と闇を活かす?⑥ ~ちょっと失礼しまーす~
ハートのメガネは完全に壊れ、そのまま着けていても運の値さえ上がらないようだ。
とにかくもう、しまっておこう。
今は月が隠れて暗い。
新種の魔物を倒そうとして近づく者には、ファンタズゲシュトル亜種が盾になるように前に出て、混乱ボイスを浴びせている。
ファンタズゲシュトル亜種はうすぼんやり輝いているので、それの背後にいる新種の魔物が、私の目でもうっすら確認できた。
対峙している『羊の闘志』の皆さんは、耳をがっちり押さえて、そのあいだ新種の魔物から距離を取っているようだ。
一進一退の状態だ。
「団長さん、騎士団が新種には手を出さないにしても、引っ付いているファンタズゲシュトルは何とか倒せないんですか?」
新種の魔物に手を出さないというのは、新種の魔物と先にかち合って戦闘を始めたのが『羊の闘志』だからだ。
いくら共同で町を守るとしても、戦う者のルールとして『先に魔物と対峙したパーティーまたは個人に、その魔物と戦闘する権利がある。戦利品の所有権も、それと戦った者にある』となっているので割り込めないのだ。
もちろん手助けを要請されたとか、助けないとまずい状態なら別だけど、あの五人にはまだ余力があるので、彼らに討伐の権利がある。手出しする段階ではない。
しかも相手は「新種の」魔物だ。あまり「新種」が出ることがないと言われるなかで運よく対峙したのだから、絶対に横入りされたくないに決まっている。
こういった理由から、新種の魔物ではなく、それに張り付いているファンタズゲシュトル亜種を倒すことが一番騎士団にできることだ。
まさか『羊の闘志』たちだけに手柄を取らせたくないから、ファンタズゲシュトル亜種を放置しているとか、そんな残念なことを考えているとは思えないので聞いてみたのだけど……。
「こちらもやってはいます。が、なかなかうまくいってないようです……」
私は、今も何とか倒そうと挑戦している騎士たちがいることに気づいた。
暗いし遠いので、実際見ているわけではなく『探索』スキルの情報でしかわからないけど、大きな木の陰に身をひそめて対応しているようだ。
ファンタズゲシュトル亜種の混乱ボイスは、音波で攻撃する類のものだから、音を防げる場所に立つのはよい方法だ。
そこからタイミングを計って、ファンタズゲシュトル亜種に光魔法を撃ち込んだ。暗闇の中に一筋の光が走る。
しかし『探索』スキルの反応からは、ファンタズゲシュトル亜種がまだ消えない。
光魔法が途中で消えたからだ。
「新種の魔物に阻まれ光魔法届かず! ファンタズゲシュトル、消滅に至りません!」
騎士団からの報告から、予想どおりの報告が聞こえた。
「……混乱ボイスの範囲外からで、かつ新種の魔物の妨害も躱して光魔法を撃つとなると、なかなか難しいものですね……」
混乱ボイスの範囲外から撃つとなると、かなりの遠距離だ。
この闇の中では光がよく見える。
ファンタズゲシュトル亜種を倒そうとすると、遠くからやってくる光を確認しやすいから、新種の魔物にも当然発見されやすく阻まれやすいということだ。
「団長さん、そういうことができるということは、新種の魔物の知能はなかなかのものということですよね……」
「そうですね。これは、なかなか骨が折れそうです」
私たちが何かやることはないのかな?
遠くから見ているだけなんて……。
それに私は今、遠くを見ることができないから、騎士団からの報告でしかわからないし……。
ん、報告……?
あ、そうだ! あるじゃないか、遠くを見る道具が!
団長さんたちから後ずさり、後ろをたたたと走って、報告係の人にそそそと近づいた。
「失礼しまーす……!」
遠距離を見る魔道具――双眼鏡を持っている騎士さんの横から、不意打ちでつかみ取る。
よしっ、成功した!
「は? ……あ、おい!」
「ちょっと貸してください。ほんの少し、一瞬、見るだけですから!!」
私はもぎ取ったそれを覗いてみた。
「えーと、えーと、……どこかな~?」
隣で「返せ!」と怒っている騎士さんには申し訳ないけど、私の障壁で防がせてもらった――というか私は自分を障壁で囲った。
急いで新種の魔物を探す。
(ん~と、あ、ファンタズゲシュトル亜種だ! ということはその後ろ……いた! ぼんやりだけどなんとなくわかる!)
照らされた新種の魔物の形をやっとみつけた。
でも、――だめだ!
「嘘、見えない……!?」