152: 光と闇を活かす?① ~ガッチャン♪チャン~
アルゴーさんを床に寝かせ、その隣でゲンチーナさんが治療している。
勇ましい声が響くその脇では、ファッサさんとムキムさんが横たわるアルゴーさんを、なんと茶化している。
「アルゴー、死んでも安心しろよ~」
「奥さんのことは任せとき!」
さっきの深刻な雰囲気は消えていた。
それはゲンチーナさんの診察結果によるものではない。
もちろん私が、「『鑑定』で確認しました。アルゴーさんは大丈夫です!」と口を滑らせたわけでもない。
アルゴーさんが、
「メロディー、結婚しよう♡ ムニャムニャ」
と幸せそうな寝言をつぶやいたからだ。
友人二人は「え、寝てんの? こいつ」「われのプロポーズのセリフはなんべんも言うから知っとる!」と、心配して損したといった様子だった。
私は近くの騎士団長さんに話しかける。
「アルゴーさん大丈夫そうで何よりですね」
「壁張り職人、ありがとうございました」
「いえ、私は特に……団長さんのほうこそ、アルゴーさんを傷つけないように浮かせるなんてすごいですね」
団長さんはアルゴーさんを静かに見つつ、魔力ポーションを飲む。
そのときゲンチーナさんの治療が終わった。
「“……おおぉぉ……”。……はい、終わりました。肋骨一本を骨折と、足の捻挫だけでした。混乱状態も消えています」
私は『鑑定』スキルで見ていたからゲンチーナさんがそう診断するのはわかっていたけど、近くの友人騎士二人は驚いていた。
「え、……それだけ? 魔物の手の中にいたのに?」
「鎧、バッキバキに壊れとるんやで……?」
いや、驚きに交じって少々ドン引きしていた。
「…………」
団長さんは何かを真剣に考えているようだ。
アルゴーさんの頑丈さはたぶん、例の『愛のチカラ』スキルによるものだろう。
スキルの効果も少しは弱まっているかと思ったら、まだ継続中のようで、耐久値が5000を超えていたのだ。戦闘前は4000もいってなかったのに……。
そんなアルゴーさんはすぐに目を覚ました。
「……ん、……ん? メ、メロディーは……? ……団長?」
「ここはまだ戦場ですよ、しっかりしなさい。先ほど魔物に飛ばされたのは覚えていますか? 掴まれてもいましたが、貴様の体調はどうです?」
団長さんはアルゴーさんのボケに、冷静に声をかける。
横になっていたアルゴーさんは、壊れた鎧のせいでやけに大きい音を鳴らしながら立ち上がった。落ち着いている様子だ。
魔物に握られていたわりには、恐怖心などの心配はなさそうかな、と私は(おそらく近くにいた皆さんも)ホッとしたけど、アルゴーさんの反応はそれ以上、いや予想外だった。
「……団長! 俺は、妻に『無事に帰ってきて』と願われました……! 先ほども、メロディーがずっと応援してくれていたのです。魔物に握られたくらいで怪我なぞできませんし、飛ばされたくらいで負けるわけがありません。――俺の愛のほうが、飛ばされるよりも高く、大きく、広いからです!」
アルゴーさんは自身の格好がボロボロなのに、顔をキリッとさせ、立ち姿もシャキッとさせている。
私たちは絶句した。
もう一度『鑑定』スキルを確認した。――が、混乱状態ではない、彼は正気だ。
――カシャン……!
アルゴーさんの気合の入った返事で、かろうじて引っかかっていた鎧の一部が、まるでずっこけるように滑り落ちた。
そしてがけ崩れか雪崩のごとく、続けざまにかけらが落ちていく。
ガシャガシャ、ガシャガシャッ、ガッチャン・チャン――♪
鎧さえも「何てことありませんでしたよ~」といわんばかりのリズムだった。
鎧はボロボロなのに、首元だけはメロディーさんから贈られたラピスラズリのペンダントが、輝いている。何一つ傷がなさそうだ。
残念ながらゲンチーナさんの「いえ、骨折はしてました」というツッコミは、この陽気な音に紛れて消えた。