150: 町を守る!⑭ ~戦場の中心で愛を叫ぶ~
なお、「助けてくださ~い!!」とはだれも叫ばない。
私はまだ遠くにいる新種の魔物に注目した。
緑色の毛におおわれた、おさるさんの長い手の中に……。
「――……ィ~~」
ハートのメガネがないから遠くが確認できないけど、何かを叫ぶ騎士がいるとなんとなくわかる。
近くにファンタズゲシュトル亜種もいる。
その現場の近くには『羊の闘志』の皆さんもいて、耳を押さえていったん下がっているようだ。
よかった。混乱ボイス対策ができている。
混乱ボイスは、ファンタズゲシュトル亜種の発する声を聞いて混乱になるスキルのようだ。
私は混乱にならないから確信を持てなかったけど、彼らを見て、耳を塞いでいれば問題ない――視覚での確認は可能であるとはっきりわかった。
ただし手で耳を塞いでいるから、弄ばれている騎士を助けようにも手の出しようがない。新種の魔物にやりたい放題されている状態だ。
新種の魔物は、当然ファンタズゲシュトル亜種の混乱ボイスでは混乱するわけもなく、騎士さんを握った腕を楽しそうに振り回している。
手の中から海藻が飛び出しているかのように見えるのは、騎士さんの髪の毛だろうか。
そうだ! 『探索』スキルで見たら、知り合いならわかるはず。
私の『探索』スキルは、名前を登録していれば表示されるのだから。
…………あ。
「壁張り職人、貴女は障壁を張り続けてください!」
「えっ、でも……」
それではこっちに飛んでくる彼をはじくことに……。
かといって障壁を外しても、城壁を乗り越えることになって着地は難しい……か。
あのグリーンベアだって、城壁内で暴れる体力はあったものの、着地ダメージを負っていた。
それが人となると、いくらあの人であっても……。
「貴女はそのままで。がっちり城壁を防御するつもりで障壁を張るのですよ」
「え、はい、それって大丈……」
「可能な限りやってみます。それから、その障壁の真下に、水平にした障壁を浮かせることはできますか? はじかれた騎士を地面に着く前に受け止められるように」
団長さんは何をするのだろう?
あ、もしかして団長さんの魔法かスキルに関係が? スキル……はたぶん違う。魔法かな?
魔法の場合、団長さんが風魔法を使えるのはわかるんだけど、どんな威力がある魔法を使うんだろう?
最近では、マルデバードを風で吹き飛ばして町の外に出すところを、タチアナさんと一緒に見たっけ。
団長さんが何をするのかわからないけど、私は彼がはじかれても、そのまま地面に叩きつけられることがないように、障壁を水平に浮かせて配置した。上にクッションを置ければもっといいのに。
「もう少し手前で……それくらいでいいでしょう」
盾にする障壁の前方に、水平にした障壁を配置しても、こちらに飛んでくる威力が強ければさすがに無事ですまないと思うんだけど、大丈夫だろうか……。
「団長、来ます! ――壁張りちゃん、気にせえへんで、がっちり守ってや!!」
ムキムさんが団長さんに鋭く合図し、私にはもりっと盛り上がった腕の筋肉を見せつけてくる。……あ、いつもの腕前を見せてくれよ、ということかな?
では、本当にがっちりと障壁を張ろう。
その人は飛んできたのだから。
「……ロ……ィ~~~。あぃ……る……~~!!!」
飛ばされながら叫んでいる。
さすがに魔物に飛ばされるなんて怖いに違いない。
「……ロデ……~~! 愛しているぞ~~~!!!」
……ん?
「この愛は永遠んんん~~! ちゅっちゅ~~っ!!」
…………。
まるで着地地点に奥さんがいるかのように、抱き着こうと腕を広げて飛んできた。
口をすぼめて目が垂れ下がっているあの旦那さんは……。
――あれは……。
あれは、変態ですね。
私の知り合いであると『探索』スキルでは記されていましたが、どうも気のせいです。
変態が飛んできました。
了解です、団長さん。私が何としてでもはじき返してみせますよ。
門前払い(物理)です。
おまけ:
ムキム「がっちり守ってや!!」(わいの筋肉をばしっと見せたった! 目が♡になるやろ)
シャーロット「(いつもどおりの腕前を見せてくれってことですね!) ( ´∀`)bりょ!」
さらにおまけ:魔物視点? ―こうだったかもしれない―
旦那「メーローディーー♡♥♡」
新種「キャッキーー??【この人間、何言ってるのかな~??】
オバケ「ふぇフェふぇフェ!!【どうも番の名前っぽいですぜ!!】
旦那「んちゅ~~♥♡」
新種「キィィーェ!!!【うーーっざ!!!】ヽ(`Д´)ノ
壁にぽーーい!(投