144: 町を守る!⑧ ~とおっ!~
それで、あの新種の魔物の様子は……。よかった、グリーンベアを高い高いしている最中のようだ。
ふー、間に合った。
「ったく、アンタはここに何しに来てるんだ」
「うっ、すみません。ハートのメガネが壊れて……」
「……ァート? その千里眼メガネのことか?」
あ、ハートって前世語だった。
ここでは言いにくいんだよね。おかあさんもそうだったし。
「あ、いえ何でもないです。……というかそもそも、どこかの誰かさんのせいで、体力が半分も減ってしまい、すぐ障壁を張ることを思いつけませんでした」
すぐ対応しなかった私も悪いけど、カイト王子への腹立たしさもあって嫌味を言っておく。
「おおげさだな~。ポーション置き場はあの蛇の向こうだ。通れるようになったら真っ先に飲みに行くといいぜ」
ご自身が原因を作ったのに、それでも知らん顔している。
大げさではなくて、本当に半分減ったんですけどね。
あなたの武器によって減ったのだから、あなたがお持ちの大容量収納鞄からポーションを出してもいいんですよ?
「――とお!」
私が王子を睨んでいる横で、不思議な掛け声が聞こえた。
ゲンチーナさんが蛇に向かって飛びかかっていた声だった。
……飛び乗ろうとしてジャンプしたのかな? 相手は蛇で、直径は大人の男性の背丈はあるものだから乗れなかったようだけど。
結局は足をかける場所もなく、腕だけで上に登れることもできず、滑り落ちていた。
なるほど、ただ待つだけではなく、自ら中央部に戻る姿勢が大事ですよね。
「私も……! と…………ぅ、う~ん……いや、無理」
助走して飛びかかろうとしたけど、やめた。
飛ばなくてもわかる。走り寄ったら、見上げる高さだったから……。
私が残念に思っている後ろで、王子の鼻で笑う音が聞こえた。
「……カイトさん、蛇の胴体を切るの手伝ってくれないんですか?」
「オレは蛇を切れる武器は持ってねえ」
はいはい。
うーん。早く何とかして蛇より向こうへ行き、南側にも障壁を張れるようにしたい。上がだめなら下……に隙間はないし……。
いや、城壁の上をまたいでいるから胸壁と床のあいだに隙間はある。だけど、さすがの私でも通れそうにない幅だ。
「シャーロットさん……」
どうしたのかな。グリーンサーペントに飛びついたゲンチーナさんが、しおしおとした表情で私に近づいた。
「すっかり興奮してこんな北まで来てしまって、すみません……」
「え、あぁ。大丈夫ですよ、きっとすぐ向こうに戻れます。ただ、今は戦闘中ですから、魔物の動向に気をつけていましょう。……あ、そうだ。じゃあ、待っているあいだ私の体力を回復させてください。物を投げられたりお尻を打ったりと、ひどい目にあったんで」
しらーっとしている王子を睨んだけど、もちろんガン無視された。
確かに、新種の魔物の正面に私がいるべきなんだけど、ゲンチーナさんは自分の行動を反省しているようだし、体力回復を頼むくらいにしておこう。
「おいらとしたことが~! 反対から切っていけばいいじゃんね!」
そこに、さっきまでグリーンサーペントの反対側にいたファッサさんが、上を飛び越えてこちら側に来た。
脚力自慢のファッサさんなら、確かに余裕で蛇を越えられる。
「あ、そうだ!」
私だって、ジャンプしなくても上を通る方法があるじゃないか。
おまけ:
ファッサ(この華麗な飛び越え! 壁ちゃんの目が釘づけさ!)
シャル「ピーン! いいことひらめいた!」←まったく気づかない。