143: 町を守る!⑦ ~ハートのメガネ……~
ゲンチーナさんのぞっとした視線の先――西へと続く道沿いにいる魔物を私も見た。
緑色の腕が回っている。
熊を持ったまま、自身の長い腕を使ってぐーるぐーる回しているのだ。
新種の魔物――現在名前が付けられていないから『新種の魔物』としか言えないけど、その姿形は、かわいい顔をした腕の長い子猿のようだ。グリーンベアをおもちゃのように持っていることからも、そう見える。
ただし図体がやけに大きく、森の木から頭が出るほどだ。“かわいい”という表現より“異様”という表現の方がしっくりくる。
私があの魔物をじっくり見たのは、ファンタズゲシュトル亜種に襲撃される前だった。
あのときは森の木々で全容がわかりにくかったけど、徐々に近づいてきたことで、全体像が見えるようになった。メガネもないのに……。
そうだ、ハートのメガネ! もっとよく見えるようにハートのメガネを……あれ?
ハートのメガネ、どこにやったっけ。収納魔法にしまって……ない。
落とした? いったいどこに?
そうだ、こういうときこそ『探索』スキルでっと……。
……意外と近くにあった――って。
「ハ、ハートのメガネが……」
壊れている……!
え、いつ壊れた……? カイトさんの武器を食らったとき?
でもこれ、踏んづけられたように軸が曲がっているような……。
もしかしてファンタズゲシュトル亜種の騒動のとき?
まさかタチアナさんの目をごまかすときにしていたスキップで落ちた? 城壁に登って下りたとき?! でも登ったのは城門付近で、ここは北寄りだし……。
そ、そんな~。久しぶりに使ったばかりだったのに。
「おい、障壁をもっと上に上げろ」
「ハートのメガネ……壊……」
結構もろかったなんて。
ダンジョン産だから頑丈なはずなのに。あ、でもサイズは、その人の顔の大きさに合わせられるという驚きの仕様だから、その分もろいとか……――。
「おいっ、マジで早くしろ!」
「え、あ……! はいっ。すみません……」
いけないいけない。
ハートのメガネは、あとにしよう。
で、王子は何て言ったっけ?
そうそう、そうだ、障壁を上に配置しろって……。
城壁付近には元々張ってあるから、それはそのままにして、乗り越え防止の障壁は新しく出そう。
……よし。出せる範囲内に大きく広く出せた。
グリーンサーペントが乗り越えられたことを考えて、それよりもうんと高く設置した。
でも……今、私は北側にいて、南側は障壁を出せる範囲外だ。あまり南寄りに投げられると、さすがに厳しいんだけど……。
きっと正面の西門近く――中央部に投げてくれるはず。それなら十分跳ね返せる。
中央に投げてくれる……よね??