141: 町を守る!⑤ ~恋と変~
団長さんに少々呆れたそのときだった。
「……ぅ、う~ん、ここは……」
あれ、カイト王子の足元から声が聞こえなかった?
彼女は――。
「ゲンチーナさん! 大丈夫ですか?」
ゲンチーナさんはカイト王子の側に倒れていた。
よかった~! ゲンチーナさんも無事だ。
危ない、危ない。王子を落としていたら巻き込むところだったかも。
「ゲンチーナさんもちゃんと助けてくれていたんですね、カイトさん」
王子はゲンチーナさんにも手を貸す。やっぱり優雅さが垣間見えた。
「あ、すみません、助かりました。ありがとうござ……ん? あなた、この町では見かけない顔ですね」
ゲンチーナさんが王子に顔を向けると、そのまま食い入るように見つめ始めた。
二人のあいだには、月の光によって緑の輝きが溢れている。キラキラテラテラ輝いて、両方の顔を照らす。
この輝きを背景に、男女が見つめ合うこの状況……。
ま、まさか恋が……!?
ゲンチーナさんはカイト王子の顔をじっくり眺めると、頬を高揚させ、さらに顔を近づけ、質問した。
「あなた……っ、治癒魔法は使えます?!?」
「使えねーよ」
「えっ…………、……そうですか。はぁ……っっ」
ゲンチーナさんは王子の即答に、ガクッと肩を落とし大きなため息をついて、とぼとぼ歩いて離れる。
彼女が何に期待したのかはわかったけど、放っておこう。
「この町にはおかしな女しかいねえのか」
カイト王子がぼやいた。
まったく失礼な人ですよ。……って、けど、あれ?
――キラキラテラテラ光るあれって……。
私は彼ら二人のあいだの光景に、やっと思い至り、頭を働かせることになった。
その二人の奥に蛇がいるということに、今『どういう状況』か気づいたからだ。
「魔物が、町に入ってしまっている……! 半分だけど」
グリーンサーペントが城壁の外側から内側にまたがっているということは、――蛇が壁を越えて町の中に入っている、ということだ。
蛇のお腹が城壁に食い込んで、さっきの私と同じ状態だなぁ、と親近感を覚えそうになっている場合ではなかった。
私は急いで城壁の内側へ、さらにその真下――蛇の頭があるあたりを覗く。
そこにいた人たちが、私に気づいた。
「おーい。グリーンサーペントは倒したぞー!! 上から胴体を切ってくれ~!」
なんと、城壁内担当の人たちがもう倒してくれていた。
グリーンサーペントの頭に、剣やら槍やら氷やらが刺さっていたのだ。
……ふぅ~。よかった~。
そういえばさっきから蛇は動いてなかったのだから、もう倒されていたということだよね。
それにしても蛇の胴体を切る……か。
グリーンサーペントはほぼ半分に折り曲げられた状態なので、頭を持ち上げて城壁外側に投げ落とすよりも、真っ二つに切って、外側と内側双方に落としたほうが効率がよいとのことだろう。
(よし、ちょっと私がやってみようかな)
気づいたらゲンチーナさんに押されて北に寄りすぎたし、さらに王子に武器でどつかれて押しやられてしまった。早く戻らないといけない。
蛇の胴回りより大きな障壁を出して、垂直にして上から落としてみた。