140: 町を守る!④ ~夜に光る石~
まだ私を見て「顔やべー」と笑っているカイト王子を睨みつける。
「しっかしアンタ、さっきから『ペリドット、ペリドット』って言ってるが、本当にペリドットなのか? 緑の石なんていろんな種類あるんだぜ?」
「本当にペリドットですよ。ちゃんと『鑑……」
「……あ?」
「いえ、あ……ほらっ、ペリドットって夜に光る石って、フェリオさんから聞いてて~。なんか、屈折がどうたらこうたらで、暗い中でも輝いちゃうとか~……。だから遠くからでも判別が容易ってことで……。メガネをかけたとき額が光ってたのが印象あるな~……だからペリドットだなって! でも、いや~、別の石かもしれないですよねぇぇ……」
うっかり口が滑るところだった。
それでもカイト王子から「へええ」と胡散臭げに見られて困っていたところ、団長さんの遠い怒鳴り声に助けられた。
「貴様ら!! 今夜は壁張り職人の護衛のはずですね!? こんなときに任務をまっとうできないとは、貴様らを就けた意味がありませんよ!!」
護衛というと、ムキムさんとファッサさんのことかな。その二人に怒っているのだろうか。
団長さんの声はすれども、私の目の前を横切っているグリーンサーペントが邪魔で姿が見えない。なんといってもカイト王子の身長を超える直径があるのだ。
「団長さ~ん、私は大丈夫ですよ~!」
これ幸いと、王子を無視して背伸びしながら叫んでみたものの、なかなか向こうの様子はわからない。声が伝わっているのかもわからなかった。
蛇の胴体は城壁の外側から内側にまたがって垂れ下がっているのだ。私が右(城壁外側)に行って背伸びしても、左(城壁内側)に行ってジャンプしても、向こう側は見えなかった。
そういえばこのグリーンサーペント、城壁にお腹が押されて、さっきまでの私のようだ。
そして私の声は団長さんには届かなかったようで、まだ二人を叱っている。
「どうも王都の人間が彼女を助けたように見えました。もしも彼女に恋が芽生え、王都に行くと言い出したらどうしてくれるのです!?」
…………。
ん~? 団長さんは、まだ混乱中なのだろうか。
不思議な単語が聞こえたのだけど。
「ハァ? こんな変な女に言い寄られてたまるか」
カイト王子にも当然聞こえ、嫌そうに眉を寄せている。
それはこっちのセリフですよ。
さっき蛇から助けられたのだとしても、相手が王子様だとしても、体力が削られる武器を投げるような男性とどうやったら恋が芽生えるというのか。
それに、たとえカイト王子にお姫様抱っこで助けられても、王都に行くこと自体怖すぎるので恋は絶対始まらない。
団長さん、ご安心ください。