139: 町を守る!③ ~ペリドットも守る!~
「……しょうがない、ではお嬢さん。お手をどうぞ」
王子が私を起こそうと手を差し出してきた。
しょうがない、って言われるのはおかしいと思いますけど。やったのは王子なんですからね。
でも、どうしたんだろ? 私の殺気を感じたとでもいうのだろうか? まさか私、殺気を放つスキルでも手に入れたかな? ……いや、なかった。
どちらにしろ、そのしぐさが上品めいていたせいか、ちょっと頭が冷えたせいか、この考えに至った。
(――落とすのは……いけない……。落としたいけど、うん、いけない)
悲しいかな、彼はこれでも王子様というご身分なのだ。
城壁から落としたら、そのあとが問題だ。私の首が、大変だ。
そもそも助けてくれた? のだし……?
それに今ここは戦場なのだから、それどころではないはずだ。うん。
はっ、そういえばどんな魔物と戦っているのだったか。
私は王子の手を取って立ち上がりながらそれを見た。
蛇……いや、それより新種の魔物だ。
両腕を上げて『わーい、やったー』などと叫んでそうなポーズをしているあの魔物……。頭に大きなペリドットがさんぜんと輝いて……あ!
私は大事なことに気づいて、勢いよく王子に迫った。
「カイトさん……! 助けてくれてありがとうございました。し・か・し! ですよ。その武器を新種の魔物の前で使わないでくださいねっ!」
「ぶっは、顔こわ! アンタそんな顔もできるんだな」
私がどんな顔をしているというのか。
それよりもこれだけは、申し上げます。
「お願いしますよ!? それ、石を簡単に破壊できる武器ですよね? あの新種の魔物の額の! ペリドットに当たったら粉々になってしまいますからね??! 絶対に、絶っ対にっ、近寄らないでください!」
王子を新種の魔物と戦わせるのは大反対だ。
あんなに大きなペリドットはこの町では、いや、私が冒険者だったときも見たことがない。つまり高額取引が期待できるのだ。
いや、お金だけの問題ではない。
そうそう目にすることがない巨大なペリドットなのだから、大事な資料となるかも……。
だから、なんとか額の石はそのままの状態で倒したい。
きっと戦場にいる皆がそう思ってくれているはず。
倒したあとはギルドで解体するだろうし、ペリドットはフェリオさんが鑑定するかもしれない。フェリオさんが興味津々なところも見たいではないか。
「ギルドにとっても、町にとっても、大事な宝石ですからねっ?! カイト王子!」
「王子じゃねえっつの」
おっと、つるっと口が滑っちゃった。
そんなことよりも、ペリドットが粉々になってしまっては、冒険者の皆さんも騎士の皆さんもがっかりしてしまう。
城壁に近づく前に倒してくれるのが理想だけど、もし城壁近くに迫ってきても、王子だけは近づけさせないようにしないと。