138: 町を守る!② ~王子を落と……~
“何か降ってきた!”
と先に思ったのか、
“大きな口が落ちてきた!”
と先に思ったのか。
そんなことを考えている余裕はまったくなかった。
とにかく真っ先に手を上げて、障壁を張った。
――だけど、さすがに間に合わなさそう――。
と思った瞬間、私はお腹を押された。
いや、押されたんじゃなく、めり込む圧力を感じた。
「……っ゛……!?!」
お腹一点が押されたのではなく、長い棒が横になった状態でめり込んでいる――。
これはえーと、そう。
鉄棒で前回りをしたときお腹に棒が食い込んだ……懐かしの感覚……?
でも、その記憶を懐かしむ時間はすぐ終わった。
転んでお尻を打ったからだ。
「った! ……ん? 鉄棒がなぜ私のお腹に……? 重いし……!」
鉄棒が私のお腹をつぶしているというか、私がその下敷きになっているんだけど。
……鉄棒というか長い棒? 取っ手?
とにかくどけよう。
このままじゃ身動きが取れないのだから。
しかしそれを掴んで持ち上げようとしたところ、今まで感じたことのない衝撃が走った。
「えっ! ぎゃっ……いたっ、痛い!!」
何、これ?!?
手で持っただけなのに、手のひらどころか、そこから全身にバリバリとした痛さを感じる。
さっきお尻を打ったときとは違った痛さだ。
思わず手を離した。
「んぎゅっ……!」
――当然、またお腹がつぶれた。
「危ないところだったな、シャーロット。蛇につぶされなくてよかったぜ~」
そこにやってきたのは夜に真っ黒い服装をしている人だった。
「カイト……さん」
さっきまで楽しそうにガーゴイルを砕いていたカイト王子だ。まだニヤニヤしている。
その彼が、私が掴んだだけでも手のひらが痛くなる棒を、何事もなくひょいっと持ち上げたのだ。
「さすがのアンタでもこれを触ることはできなかったか」
軽々と肩にのせたそれは、彼にしか使えない武器『呪いの戦鎚』だった。
「え? ……な、私に自分の武器を投げて、蛇から遠ざけたってことですか?」
カイト王子の背後、私にとっては前方に、城壁の外から中へとまたいだ状態のグリーンサーペントが見える。
「そ。アンタみたいに障壁魔法は使えねえからさ、とっさにオレのこれを投げて押し出したってワケ」
カイト王子は私を見下ろして得意げに笑っている。
あの……、私はその『呪いの戦鎚』のせいで、体力が半分近く減ってしまったんですが??
「オレのバンダナを見破った奴はそういないからさー。呪いの戦鎚も軽々持ち上げられたらどうしようかと思ったぜ」
バンダナって王子が着けている『認識不能のバンダナ』のことですかね。
それは私の『鑑定』スキルの前では簡単に見破れましたけど、王子だけが使える『呪いの戦鎚』は条件つきの武器ですよ?
正確には「召喚石廃棄破壊の組織長以外の人が手に持つと、体力が徐々に削られる」と『鑑定』で記されてありますよ。
そんな組織のこと私はよくわかりませんが、カイト王子がそこの長なんですよね?
私は違うので、手で掴んだらもちろん体力が減りますよ。当たり前です。
……えーと――。
この王子、落とそうかな……?
城壁の内側じゃなくて外に。
カイト王子の横からパッと障壁を出して、スッと城壁の外側に押すだけ。あ、胸壁を乗り越えやすいように若干上向きに押し上げないとね。うんうん。
簡単だ。
よしっ――。