135: 学園生vs雑巾(東側⑥ ~……何て言ったっす?~
ワーシィとシグナがあんまり思い出したくなさそうな顔をするよ。
それもそのはず。
「「それ……コトが超初級ダンジョンで手に入れた『万能ポーション』……」」
そうだよ!
この万能ポーションは、例のビギヌー洞窟ダンジョンで、一番最下層のボスを倒したときに出てきた物なんだ。
なんと体力と魔力の両方を回復させて、怪我まで治しちゃうポーションなんだよ!
洞窟内の宝箱のほとんどはうま味がなくて手を付けなかったけど、最終ボスを倒したときにはありがたくもらってきたんだよね。
普通に買うには高いんだもん。
本当はシャーロットさんの腕に矢が刺さったとき使えればよかったんだけど、そのときは部屋に隠していたんだ。
持っていたら、ボクたちが超初級ダンジョンを踏破したのがバレるんじゃないかって心配で……。
Cランクの冒険者が低ランクのダンジョンを踏破するなんて、恥ずかしいもんね。魔物も一掃しちゃったんだもん……。
結局バレちゃったし、マーサちゃんを助けることになったから、結果はよかったよね。
だから今回はもう隠しておく必要がなくって、万能ポーションを持ってきたんだ。
――それに、何だろう。必要な気がして――。
「核は念入りに壊しなさい。何も焦ることはないよ。――さぁ、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の君たちはもっと後ろに下がって。……ぷ」
サブマスターさんが前方に水魔法を飛ばしつつ、後ろに下がってきたよ。
水の玉を燃えさかる雑巾に当てて、火を消していたんだ。
水の塀を維持しながら、さらに水を飛ばすなんてすごいや。
ところで、ボクの顔を見て笑ったような気がするのはなんでかな?
あ、ボクの顔の少し横を見ているから、ワーシィ作の雑巾の氷漬けが面白かったのかも。
そういえばほっぺのヒリヒリも治ったし、そろそろ捨てよー。しもやけになったら大変だもん。
ぽいって捨てたらワーシィが怒ったけどね。
「ワーシィ、また氷漬けにすればいいじゃん。遠くからまだまだ来るんだから、ボクたちまだまだ出番があると思うよ」
燃えさかる雑巾のスタンピードは、ずっと一定の数では来なかったんだ。
さっきはどっと来たのに、今は少し休めるんだもん。ムラがあるんだ。
遠くのほうに明かりが固まって見えるから、第二波が来るはずだよ。
まだまだ活躍する機会があるってこと!
「君たち……あんなに暴れて、まだ余裕があるのかい?」
サブマスターさんが興味深そうにこっちを見ているよ。
「はいっす! 絶好調っす! 早く倒してシャーロットさんに会うっす!」
「ストロゥベルの氷像をどんどん作ります!」
「一気に雑巾を痺れさせます!」
ボクたち三人はここぞとばかりにアピールしたもんね。
「…………」
サブマスターさんは真剣に考え込みだしたよ。
ボクたち、また特別な作戦に組み込まれたりするんじゃない? えへへ。
「それにしても、サブマスターさんも障壁魔法を使えるっすか? 壁の形の水だなんて、シャーロットさんみたいっす」
「僕は、形だけ彼女の真似をしただけさ。今回は炎系の魔物で動きも単調だから、やってみようと思ってね。障壁魔法ではないから、君たちのように魔物を防ぐことはできないよ」
そうなんだー。
「他の人を参考にするのも魔法が上達するコツさ。学園に帰っても、うまい人、教師の魔法をよく観察するといい」
そういえばシャーロットさんも魔法を上達させるには、他の人がどうやって魔法を発動させているか、観察するのがいいって言っていたっけ。
「わかったっす! 明日からもっとじっくりシャーロットさんを見るっす!」
「…………」
ボクにとっては、やっぱり障壁魔法の先生はシャーロットさんだもんね。
「あ、そうだ! シャーロットさんが見せてくれた魔法といったら、アレだよ! “キラキラ・リン♪ ボクらを守って!”」
ボクはいつもの呪文で、さっそく光障壁を出してみたよ。
昨夜のことを思い出したからなんだ。
シャーロットさんと入ったアレ!
……でも、どうやって作ればいいんだろう。
「……ボクの障壁は三角形だから……、シャーロットさんは四角で……そうだ、頂点を下にしたら……?」
「コト、今度は何やってるん?」
「そんな難しい顔で障壁を回して……って、そろそろ大群が来るわよ」
ワーシィとシグナは早く前線に行こうって急かすけど、ボクは今こっちに集中したいよ。
「う~ん」
四角形の障壁が作れないから、ボク向けにどう応用できるかを考えてみるよ。
まずはもう一枚出してみてからかな。
でももう一枚なんて出るのかな?
大丈夫っ、今日は調子がいいからね!
ボクは呪文を唱えたよ。そしたらね、本当に出てきたんだ。
「……やったっ。もう一枚できた! でも、少し小さくなってる?」
一枚目より小さくなったけど、二枚同時に出せたよ。
もう一枚も出せちゃうんじゃ。
「“キラキラリン♪ ボクらを守って!”…………や、やった! 三枚同時に出せちゃった!」
三枚目はもっと小さくなっちゃったけどね。
でもきっと大丈夫。
この三枚の障壁をこうして、あーして……。ワーシィとシグナが「三枚~!?」って驚く声も無視して~。
一枚一枚の三角形の頂点を下に向けて。
向けたら隣り合う二つの辺をぴったりくっつけて…………あれ?
くっつかないよ。
「もっと簡単にできると思ったのに……」
シャーロットさんはどうやってくっつけてるのかなぁ。
ノリでも使ってるのかなぁ?
ま、でも。
「『できた』ことにするもんっ。サブマスターさーん。これに水を入れてほしいっす」
「…………それに、かい?」
「早くお願いするっす!!」
ボクはサブマスターさんのところに駆け寄って、ボクの作った障壁の入れ物に水を入れてもらうように頼んだよ。
障壁で引き寄せたり防御したりもいいけど、今度はこういう形でサポートするのはどうかなって思ったんだ。
早く入れてほしいのは、障壁を三枚も出したから魔力が心もとないからだよ。
「ほら、これでいいかい? ……ぽとぽとと零れているけどね」
「ありがとうございますっす! 急がなきゃっ」
さあっ、前線に移動するよ!
人の頭の上を移動するから浮かせて……って、わっ、大量に流れちゃった。
「――アンタたち、右からも来るわ。気をつけ……って冷たっ! 何するのよ!? は? 上から、水……!?」
「あ、ごめーん! うまく作れなくって漏れちゃうや~」
さてさて、ボクが何を作ったかというとね。
じゃーん!
三角形の障壁三枚で作った、三角錐形の容器(?)だよ。
頂点の一点を下に向けたら、水を溜めることができると思ったんだ。
それを燃えさかる雑巾のところに上から近づいて、ジャバッとかけたら火が消える――って閃いたんだけど……三角形の辺がガタガタしてるから隙間があるんだ。
水がぼたぼた漏れていくよ。
そのせいで、さっきボクたちのことをデブ扱いした子に水がかかっちゃった。わざとじゃないもん。
最短で雑巾の上に移動させるには、彼女の頭を通過させるしかなかったんだもん。
「コト。雑巾にたどり着く前に水が全部流れたんちゃう? お風呂みたいにはいかへんね」
「シャーロットさんの真似をするには、まだ早かったようね」
説明してないのに、ワーシィとシグナにはボクが何をしたかったのかわかったみたい。
そうなんだ。シャーロットさんの作ったお風呂障壁をボクも作れたら、上から水を流して皆のお手伝いができると思ったんだ。
でも雑巾の上に配置したときには、雫が落ちるだけだったよ。
三枚の障壁をうまくくっつけることができたら成功したはずなのに~。
サブマスターさんに水を入れてもらったときは、なんとかポトポト落ちていたくらいだったのに、移動中にどんどん漏れていったよ。
まだまだ改良しないといけないや。
それよりこの障壁、どうしよう。せっかくがんばって三枚出したのになぁ。
「そうだっ、上から水は流せなかったけど、三枚の障壁が上にあるってことは……!」
ボクは出した障壁を最後にこうすることにしたんだ。
「下に~、えいっ!」
上空にあった三枚の障壁を水平にして、燃えさかっている雑巾に向かって思いっきり落としたんだ。
核ごと押しつぶす、スタンプのイメージでやってみたよ。
「あっ、やった~! 雑巾が動かなくなったよ!」
大きく作れた一枚目の障壁は、結構な数を押しつぶしたんじゃないかな?
二枚目もまあまあ下敷きにできたよ。
三枚目の障壁は大きさ自体小さいし、下に落とすまで水平を保てなくてふらふら下に落ちちゃった。
でもなかなかいい結果だよね。
「「最初っからそれでよかったんじゃ……」」
ワーシィとシグナには呆れられちゃったけど、思いついたアイデアは一回やってみないとね。
「もっかいやってみよーっ。……あ、ボク、魔力たりないや」
さっき三枚も障壁を作ったからだね。
指先くらいの障壁しか作れなさそうだよ。
自分の残り魔力は、何となく感覚的にわかるんだ。
これ以上魔法を使ったら倒れちゃう気がするんだ。
「魔力回復ポーションをもろうてきたら?」
「私たちは前線にいるわね」
ワーシィは雑巾を一気に二匹も氷漬けにしながら、シグナは雷を飛ばしながら、ボクから離れていったよ。
さっきボクが水をかけちゃった子が「感電するから雷魔法は遠くでやって!」って怒鳴っているから、ボクはささっとサブマスターさんのところに行ったよ。
ポーションはサブマスターさんが管理しているんだ。
「サブマスターさーん、魔力回復ポーションを飲んだらまだ戦えるっす。くださいっす」
「……大丈夫さ。さっきは一人五十匹倒すように言ったけど、今回の君の重要な役割は、燃えさかる雑巾をおびき寄せることだ。それを果たしてくれたから、ビギヌーの森の被害はほぼない。休んで待っていなさい」
「えー、ボクまだ戦いたいっす」
「十分活躍してくれたから、他の子にも出番を譲ってあげなさい」
そんなーっ、暇になっちゃうよ。じゃあ、ボクの持っている万能ポーションを……ううん、こんなことくらいで使ったらもったいないよ。
「最初の集団が一番多かったようだから、序盤で活躍してくれた君たちのおかげで波に乗ったんだ。とても助かったよ。ありがとう」
そっかぁ、ボクたち絶好調だったもんね。
サブマスターさんがとても嬉しそうだから、ボクはこのまま待つことにするよ。
それに周囲を見たら、大人の冒険者さんたちは雑巾を倒すより、学園生の補助くらいしかしてないんだもん。
ただ見ている人もいるよ。
「大人の人たち、ボクたち学園生にゆずってくれたっすね」
「彼らは……このあとやることがあるからね」
消火活動でもするのかな。
それならボクもお手伝いしたいのに。ポーションを分けてくれたらまだまだ活躍できるのになぁ。
もしかしたらシャーロットさんたちのお手伝いだって……。
そうこうするうちに、ボク以外にも一人、また一人と後衛に下がってきたよ。
魔力不足で戻ってきた子もいたけど、ほとんどは自分の役割を果たして戻ってきたんだ。
ワーシィもシグナも「百匹くらい倒したんちゃう?」「痛快だったわね」って満足して戻ってきたもんね。
「おーっし、これでっ、最後っ!」
とうとう一番先頭にいた男子が、最後に剣を振り下ろす音が響いたよ。
周りが静かだからよく聞こえたんだ。
だってもう、皆が戦いを終えて、それを倒す男子に注目していたんだもん。
そうなんだ。
ボクたち学園生は、いーっぱい(千匹以上だったっけ?)やってきた燃えさかる雑巾を、ぜーんぶ倒したんだよ!!
「「「やった~!」」」
ボクたち三人はもちろん、
「うおお! やってやった!」
「五十本の素振りみたいなもんだったぜ!」
「私たちだってこれくらいできるのよ~~!!」
学園の皆で喜んだよ。
服にはところどころ焦げがあったけど、皆でスタンピードを乗り切った証拠だよ。
服……。
もらったポンチョ、汚れてないかな?
ボクは前身頃を見たり、後ろ身頃を見やすいように前に引っぱったりしたけど、特に目立つ汚れはなかったよ。
よかったー。汚れは戦ったあかしだし、戦闘用の服を汚さないように戦うっていうのは本末転倒だけど、着たばかりですぐ汚れるのは嫌だもんね。
あれ、今夜調子がいいのってもしかして……。
「コト、やったなぁ!」
「私たちでスタンピードを終わらせたのよ!」
ほとんど学園生だけで、燃えさかる雑巾のスタンピードを収拾させたってことが嬉しいよね。
ワーシィもシグナも喜んでいるよ。
学園ではこんなに大量の魔物と戦ったことないもん。すごい達成感だよ!
ボクたちは最後にびしっとポーズを決めたんだ。
「これで堂々とアーリズの町に帰れるよ! ――あ、見て! 夜なのに虹が出てる!」
ボクがふと遠くを見たら虹が山にかかっていたんだ。
「テーブル山ダンジョンでよう見られるってのやね」
「夜も見られるのね」
ワーシィもシグナもその光景に見入っているよ。
月が出ているから、さらに奇麗なんだ。
その町に来ないと見れない景色っていいよね。
このスタンピードはテーブル山ダンジョンで起こったから、あの虹は山が「降参!」って言っているのかな~? えへへ、なんちゃって。
さぁ、アーリズの町に帰ろう!
「それじゃワーシィ、シグナ、戻るよー!」
――って、ボクたちは町の門のほうを向いたんだけど……。
あれ?
なんでサブマスターさんや大人の冒険者さんは、止まってボクたちと向き合っているの? なんで険しい顔をしているの?
「サブマスターさん、町に帰ろうっす!」
「…………」
どうして黙っているんだろう。
サブマスターさんと一緒に来た冒険者さんたちの様子も変だよ。固い……? 真剣……? だよ。
それに、まるでボクたちが町に帰るのを妨げているように立っているんだ。
なんでだろう? まだ魔物が残っているのかな?
ボクが後ろを向いて確認しようとしたとき、正面から聞こえたのはこんな言葉だったよ。
「――君たちは、このまま学園都市ジェイミに帰りなさい」
…………、
……。
「――――え」
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