134: 学園生vs雑巾(東側⑤ ~ボクたち絶好調!~
(遅くなりましたが、m(_)m)今年も『転生した受付嬢のギルド日誌』をよろしくお願いいたします。
ボクが光障壁を出した影響かな。
燃えさかる雑巾が集中して寄ってくるような感じがしたよ。
そうだよね、ボクの今夜の光障壁、すっごく輝いているんだもん。
さすが“燃えさかる雑巾”って呼ばれるだけあって、近くなるにつれて熱気を感じられるようになったよ。
「あれ、でも火が木に燃え移ってないみたい……」
自身を燃え上がらせながら移動するから、通ったあとは火事になることがよくあるって聞くのに。
すると後ろにいたサブマスターさんが教えてくれたよ。
「昨日は大雨だっただろう? 今日もテーブル山周辺ではずっと雨が降っていたんだ。湿気があるからか、心配していた山火事にはなっていないようだね。消火活動が少なくて済みそうだ」
そっかぁ、町では雨が降ってなかったけど、山の方では降っていたんだね。
天候のおかげで、戦いが有利になっているんだ。
「コト。そないに気合入っとって、魔力はいけるん?」
「枯渇したら大変よ」
二人が不安そうに聞いてきたよ。
さっきはファンタズゲシュトルを攻撃したし、今はこんなに強い光で引き寄せているんだもんね。でもね――。
「大丈夫! 魔力はあんまり減った気がしないんだ!」
不思議だよ!
いつもより魔力が余っているような、今まで感じたことない軽さを感じるんだ。
ボク、今日は調子がいいみたいだ。
ところで、燃えさかる雑巾の姿がはっきりとしてきたせいか、周りがざわめき始めたよ。
「燃えさかる雑巾って、集団になるとこんなに圧迫感があるものなのか……」
「雑巾ってもんじゃない。燃えさかる絨毯……燃えさかる草原……? 軽く考えてたけど、俺たち、本当にこの量を倒せるのかな……?」
皆、門から出る前はあんなに楽勝とか、簡単すぎる戦闘になりそうとか言っていたのに、今は及び腰だよ。
仕方ないかもね。
ボクたち、実戦演習で燃えさかる雑巾を倒したことがあっても、こんなに一斉に襲われたことがないんだもん。
最初は焚火の集団が集まってきたくらいだと思っていたのに、今では溶岩が流れてきたように感じて圧倒されているんだよ。
「千数百匹ほど……というところかな。君たち学園生は一人、五十匹ほど倒す気でいなさい」
サブマスターさんが簡単に言うと、皆固まっちゃったよ。
「ご、ごじゅう……ですか?」
近くにいた男子なんて握っていた剣を落としそうだよ。
「何も恐れることはないよ。一匹一匹確実に倒すだけでいい。さっき説明したとおり、奴らは水に弱いのだからね」
サブマスターさんが手を前にかざすとボクたちの目の前に水が出てきたよ。
「わぁ、すごい! 水の壁……水の塀だ!」
サブマスターさんがボクたち学園生の前方に、水でできた塀を出したんだ。
ボクの光障壁の反射で、表面が揺らいでいるよ。
ボクたち学園生二十四人が、隊列を組んだ状態の長さを網羅していて、高さはボクたちより低いみたい。
だけど、燃えさかる雑巾は地面を少し浮いて移動するだけだから十分すぎる高さだよ。
「先ほど伝えた作戦どおり、こちらに向かってくる燃えさかる雑巾は、この水の壁を通って中に入ってくる。水を浴びた雑巾は、火が消えて動きが鈍る。そこで急所の核を攻撃するんだ。焦らず確実に仕留めなさい。――何、意外と簡単かもしれないよ? 君は、この町の超初級ダンジョンに、魔物が何匹いたか知っているかい?」
サブマスターさんは剣を震わせていた男子を見て、最後に聞いたよ。
でも、何で超初級ダンジョンの話をするんだろう?
なんだかイヤな予感が……ボクするよ。
「五十匹ほどだよ。最近、とある冒険者パーティーが一掃したらしい。それもほぼ一人でね」
ええ~! 皆がボクのほうを見ているよ~!
って、ワーシィとシグナはボクの後ろに隠れないでよ!
「燃えさかる雑巾は水をかけてしまえば、超初級ダンジョンの魔物とそう大差ない。むしろ動きが鈍くなるのだから、五十匹くらい倒せそうに思えないかい?」
サブマスターさんの言葉で男子だけじゃなく、ここにいる全員がやる気を出したよ。
「倒せます!」
「デブにできて私たちにできないはずありません!」
「百匹だって倒しちゃうぜ!」
むっか~! ボクはデブじゃないもん!!
サブマスターさん、ひどいっす!
あ、「火にだけは十分気をつけるようにね」って言っている口元が薄く笑っているよ。
「では水魔法や氷魔法を使える子たちは、両脇の水がないところに雑巾が侵入してきたら防ぎなさい」
「わかりました!」
水魔法や氷魔法を使えるパーティーが気合を入れて構えたよ。水の塀は前方にしかないから、左右の空間は水や氷の魔法を駆使するんだ。
二つの魔法は燃えさかる雑巾の進行を防げるし、雑巾を丸ごと覆って炎を再燃させない時間を作れば倒せるんだ。
覆えなくても、氷を飛ばして核を壊すことも可能だよ。
「うちは上から氷を落とすで! ……ほんまは、雑巾くらい氷で覆いたいんやけど」
ワーシィは雑巾を氷で覆って倒したいみたいだけど、形を整えるのが難しいんだって。
いつもつららの形で上から落としているけど、本当はストロゥベル形の氷を落として戦いたいらしいよ。
でも作りづらいんだってさ。
ボクは、つららの形のほうが攻撃力が高いと思うんだけどね。
「私は基本に忠実に、火が消えた雑巾から倒すわね。……もっと魔力があったら剣にまとわせるだけじゃなくて、雷で直接攻撃できるのに……」
シグナが自分の剣をブンッと振ったよ。
雷をまとわせたあと、剣を振ったときに雷を飛ばせるようになりたくて勉強中なんだ。
確かにそれなら中距離攻撃もできるようになるけど、雷をまとった剣で攻撃するだけでも十分な威力だよ。
「そろそろ魔物の先頭集団が到達する。君はそろそろ魔力が切れるだろう? 下がりなさい」
サブマスターさんが、ボクのことを話題に出さなかったかのようにしれっと言うけど、ボクはまったく疲れてないしこうなったら意地だよ。
「大丈夫っす! まだまだ引きつけるっす! 」
「…………」
サブマスターさんに渋い顔されたよ。
出しに使われたからには、今度はあのダンジョンのときより二倍も三倍も倒しちゃうもんね!
「やれやれ。では、危なければすぐ下がるように。――先頭、構えなさい! 火が消えた雑巾から順に核を狙いなさい」
号令をかけた途端、ビシャッとかジュッって音がして、燃えさかる雑巾が飛び込んできたよ。
水の壁を通過して火が消えた音だ。
「うおお! やるぞ!!」
この時を待っていた先頭が攻撃を開始したよ。
皆、できるだけ一撃で核を壊そうと剣を振り下ろしたよ。
サブマスターさんと一緒に来た体の大きい冒険者さんなんか、足に体重を乗せて踏みつぶしたんだ。
核を壊された燃えさかる雑巾は、横にびろーんと伸びて動かなくなったよ。
使い古された雑巾みたいに、地面に敷かれて一枚一枚積み上がっていく。
燃えさかる雑巾は本物の布じゃないけど、今はそのへんの雑巾と変わらない薄汚れた姿になったよ。
だけど、全部がそうはならなかったんだ。
「……うわっ、しまった。核を壊し損ねた!」
雑巾がまたボボッと自身を燃え上がらせたんだ。
剣を握っていた男の子が、驚いて後ろに飛び退ったよ。
燃えさかる雑巾は、水をかけても少ししたら元に戻っちゃうんだ。
だからすぐに核を壊さないといけないんだよね。
核は雑巾の中心に、少しぽこっと盛り上がっているところにあるんだよ。
その核も大きいわけじゃないから、きっと切りつけるとき外しちゃったんじゃないかな。
すぐ反応したのはワーシィだよ。
「“ストロゥベル・ドロップ!” …………あれ?」
そのあとに不思議そうな声を出したのは、なんと雑巾が氷に包まれたからなんだ。
さっきは氷で覆うなんて難しいって言っていたのに、できたんだよ。すごい!
ワーシィが自分の杖を見て不思議そうにしているけどそのままにしておこう。
次々に雑巾がやってきて、サブマスターさんが皆に注意喚起をしていたからね。
「固まってやってきたから気をつけなさい。火が着いたまま入ってくる雑巾もいるかもしれない!」
燃えさかる雑巾が縦に何層にも重なって、水の壁に突撃してきたんだ。
そのせいで中央にいた雑巾は燃えさかったまま入ってきちゃった。
「ボクがやるよ。えいっ!」
ボクは出したままだった光障壁を、燃えている雑巾に向けて押し出してみたよ。
ひとまず水の塀の外に戻ってもらおうと思って。
「……って、あれ? 遠くに飛んでっちゃった!」
勢いよく雑巾がふっ飛んだんだ!
信じられない威力だよ。ボク、今夜――絶好調すぎるよ!
ファンタズゲシュトルを倒した実感が持てたよ。
「二人とも調子よすぎね。“パリパリ・リボン!” 私はとにかく火が消えた雑巾を倒すわ。やぁっ! …………あれ?」
火が消えた雑巾に剣を振った途端、シグナが驚いたよ。
見ていたボクもびっくりした。
なんとシグナが剣を振ったら、近くの濡れた雑巾どころか、その先の燃えている雑巾にまで雷が放たれたんだ。
燃えさかっていた雑巾の火が消えてしまったよ。
シグナの放電で、核まで壊しちゃったってことだよ。
すごいや! シグナまでこんなに強くなっちゃうなんて。
「コト~!」
シグナの開いた口を見ていたら、ワーシィが駆け寄ってきたよ。
「見た? さっきの! 雑巾を氷漬けにしたったわ! しかも、うちがずっとやりたかった『ストロゥベル』の形にできてん!!」
ワーシィが興奮しながら、氷漬けにした雑巾をわざわざ抱えて持ってきたよ。
「すごいよ! いつか氷でストロゥベルの形を作りたいって言ってたもんね」
「コト、さっき叩いたことはかんにんな~。これでほっぺを冷やしてや」
「え、この氷で? うーん……。わっ、冷たっ!」
ワーシィったら、いきなりボクのほっぺに氷を押しつけるんだよ。皮がひっついちゃうよ!
それに中に雑巾がいる氷だよ。何だかなぁ。
あ、でもポンチョの布越しになら、ひんやりして気持ちいいかも?
「フードをかぶってその上から当てたら? それにしても、どこから見てもストロゥベルの形ね! ね、さっきの私の攻撃も見た!?」
ボクがポンチョをごそごそ触っているあいだに、シグナが剣を振りながら戻ってきたよ。
「うんっ、シグナもすごいや! 剣を振ったら雷を飛ばせたね!」
「戦いの幅が広がるなぁ!」
「あんなこと初めてできたのよ! 一気に三匹も倒せちゃった!!」
シグナが珍しく戦闘中に興奮しているよ。
いつもは戦闘が終わっても「すぐ安心しない。冷静に!」って口を酸っぱくするのにね。
「へへへ。ボクたち……!」
「うちら……!」
「私たち……!」
ボクたち三人は、お互いを見て叫んだよ。
「「「絶好調!!!」」」
二人はびしっとポーズを決めて、ボクは雑巾の氷漬けを持ち上げて、ぴょんって飛んだよ。
わーいっ! 大事な戦闘で、三人とも調子がいいなんて、本当に嬉しいよ!
周りからは「やっぱり壁張り職人に修業してもらったんでしょ!?」って睨まれたけど、違うものは違うもんね~。
シグナは声がしたほうを鼻で笑ったよ。
「ふふん。これで私たちが、ただケーキを食べていたわけじゃないことが証明できたわね。――コト、さっきはごめんね、痛みなくなった?」
「うん、ワーシィの氷、気持ちいいよ。……まぁ、ポーションは無駄遣いできないもんね」
スタンピード用に用意されていた回復系の物は、西の防衛側に多く割かれたみたいで、治癒魔法が使える人もほとんどが西の応援に行ったんだ。
だからポーションも治癒魔法も、節約するよう言われてるんだよね。ボクのほっぺは氷で応急処置するしかないんだ。
この戦いにおいては、学園生の中にも治癒魔法が使える人がいるし、大怪我しないようにすれば大丈夫。
「あ、そうだっ。ボクたちにはこれがあるんだった!」
ボクはさっきサブマスターさんが言っていたことを思い出して、ポンチョのポケットから『ある物』を二人に見せたよ。
「コト……」
「それ……」
ワーシィとシグナがげんなりした顔をしたのはね――。
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