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133: 学園生vs雑巾(東側④ ~女子の猛攻撃~



「……ん? 待った。コトの変顔で忘れとったけど、あの光障壁なんやったん?」

「そうよ! コトの魔法が強力になってるなんて。いつからあんなに遠くまで飛ばせたの!?」


 ボクが後ろの門を気にしていたら、ワーシィとシグナに詰め寄られちゃった。

 周りもボクのことを凝視しているよ。

 きっと二人が言うように、ボクの攻撃力が強かったことを疑問に思っているんだ。

 ボクたちの学園では実戦形式の授業があって、皆ある程度お互いの力量を知っているからね。


 実際ボクも信じられないもん。

 ファンタズゲシュトルは門の上にいて、ボクは障壁を遠くまで飛ばせないはずなのに、届いちゃったみたいなんだもん。


「コト、まさかシャーロットさんに秘密の特訓してもらったの……?」


 シグナがそんなことを怖い顔でつぶやいたものだから、周りがどよめいたよ。

 その中の一人はボクに睨みながら近づいてきたよ。


「何ですってコト・ヴェーガー! 称号をもらっただけじゃ飽き足らず、修業までしてもらったの!?」


 飽き足らずって何だよ。称号は関係ないよ。

 わっ、皆に囲まれちゃったよ。


「ちょ~っ、押さないでよ! っていうかワーシィとシグナも! ボクたちずっと一緒だったんだから、ボクだけ特訓なんてできるわけないよ!」


 ワーシィとシグナは、それでもまだ疑わしそうな目をしているよ。も~!


「二人とも、よく考えればわかることじゃん! そんな時間なかったでしょ! 日中は二人と一緒だし、夜はシャーロットさん、夕飯食べてお話したら自分のお部屋に帰っちゃうじゃん!」


 それじゃなかったら夜間にこっそり練習したのかって?

 まさか! シャーロットさんは夜寝たらそうそう起きないよ。ボクたちも、夜は明日の予定を確認してすぐ寝ちゃうもんね。

 さぁ、これで皆も離れてくれるかなと思ったけど、違うことに関心を持たれたよ。


「えっ、壁張り職人と夕食をよく食べるの?」

「羨ま~!」

「どんな話するの?」

「彼氏いる?」


 皆、興味津々で聞いてくるよ。

 こうなると、ちょっと自慢したくなっちゃうもんだよね。


「ふふん。いいでしょ~! シャーロットさんはね、お菓子屋さんの情報に詳しいんだよ。しかも、『お菓子買ったよ~』ってボクたちにも分けてくれるんだ!」

「夕飯はたいていデザートやケーキ付きやで!」

「ホールのケーキを贅沢に四等分して食べたこともあったのよ!」


 ボクたち三人は、ドヤァって顔で教えてあげたよ。

 どうだどうだ、羨ましいでしょ~?

 初めて町に来た日にケーキが出てきたときは本当に幸運だって思ったけど、なんと、そのあとも夕食後にデザートが出てくるんだもん。

 四等分にしたときの、直角に切られたケーキを食べるあの幸せさは、何とも言いがたいよ。

 今夜は当然デザートはなかったし、昨夜はシャーロットさんが残業したからお菓子を買えなかったってがっかりしていたけど、ボクたちにとっては十分だよ。

 何より、デザート代はいつもシャーロットさん持ちで、ボクたちは銅貨一枚も払ったことがないんだ。


「アンタたち……」

「ケーキを……そんなに……?」


 だけど自慢しすぎたのかな。

 女子たちに囲まれたまま睨まれているよ。

 皆わなわな震えているし、目が怖いんだけど……。


「こっちはいかに節約して帰ろうか考えて、お菓子なんて全然食べられないのに……」

「マルデバードを倒したあとの夕食以来食べてないんだけど~!?」

「そっちばかりいい思いして……!」

「く~っ! アンタたちっっ――デブになるわっっ――!」


 な、ななな!!

 デデデ、デブ~~??!!

 なんてことを……なんてことを言うんだよ!!


「な、ならないもん! デ、デブなんて……。シ、シャーロットさんは朝昼晩にケーキを食べたことがあるって言ってたもん。シャーロットさんは痩せてるんだから、ボクたちだって、太らないもんっ」

「せ、せや! そんな簡単に……太らへん!」

「羨ましいからって、適当なこと、い、い、言わないでくれる……!?」


 でも、ワーシィは顎の下を触っているし、シグナは脇腹を気にしているよ。

 え、ボク?

 ボクがほっぺを触っているのは、さっき二人に叩かれたところがヒリヒリしているからだよ。

 ふくらみがあるのは、ただ腫れているからだもん!


「オーッホホホ!! 壁張り職人は太りにくい体質でも、アンタたちはデブまっしぐらよ!」

「そういえば、ここ最近丸くなったんじゃない? 学園に帰ったら体重量るのが楽しみね。ハハハハハ!」


 皆、懐事情からお菓子をあんまり食べられてなかったんだね……。

 確かにボクたちも普通の宿に泊まっていたら、ケーキなんてそうそう食べられなかったかも。

 う~、まずいよっ、女子たちに目の敵にされちゃったよ。

 反対側を見ると、ボクたちを囲んでいた男子たちはだんだん離れていくし。


「お……俺らはこっちの配置だから……」

「……壁張り職人パネェ。学園にいたら知らなかった情報だぜ。さ、行こ行こ」

「三人とも太ってなくない……」「おいっ、女子の問題に首突っ込むな!」


 ぐぬぬ、誰も味方してくれないよ。それに配置につかなきゃいけないのは確かだし。それに……。


「――そっちは盛り上がっているけど、準備はいいのかい?」


 サブマスターさんが怖いもんね。

 ボクは女子たちが通り過ぎるときに思いっきり睨むしかなかったよ。


「それと……、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』はこっちへ来なさい」


 えっ、ボクたちが呼ばれるなんて……遊んでるって思われたのかな。


「すみませんっす! やる気は満々っす!!」

「それはよかった。さっきのファンタズゲシュトルへの攻撃はなかなかのものだったからね。南の森に広がらないよう、君たちのパーティーには、燃えさかる雑巾をこちらに集めてもらう役をお願いしよう」


 ……え?

「それって……、ボクたちが先頭に立っていいってことっすか!?」


 怒られると思ったのに……、サブマスターさんはボクたちに活躍の場をくれるのかな?

 ボクたちは三人とも魔法を使うから、最初の説明では後衛だったのに。


「奴らは視覚があるとされている。君の光魔法で燃えさかる雑巾たちを集めるんだ。特に南側のビギヌーの森にはなるべく近寄らせないようにしたい。少しでも西の負担を取り除くために、やってくれるね?」


 燃えさかる雑巾は、見ることができる器官があるようなんだ。

 今は夜だから、一点でも光っている箇所があればそこに集中する可能性があるんだって。

 燃えさかる雑巾って文字通り燃えながら移動するから、森に火が着いたら大変だもんね。西で戦っている人たちの憂いはボクたちが断つんだ。

 とても大事な仕事だよ。


 雑巾とボクたちの距離が近づいてきたら、後衛に戻ることになったけど、――これって大役を任されたってことだよね。

 えへへ。ボク、また目立っちゃったんだね。

 あ、さっきまでボクたちのことデブ扱いしていた子たちが悔しそうにしているよ。

 ふふ~んだ。ボクの実力に悔しがればいいよっ。


「はいっす。全力を出すっす!」


 シャーロットさんの、アーリズの役に立つんだ。


「ワーシィ、シグナ! 正面に行くよ! ……あれ?」


 ボクが気合を入れて呼んだら、二人はボクの後ろで自分の体形を確認していたんだ


「コト~。最近、服がきつなってきた思うとったとこやったんや」

「コト。さっき窓に映った姿……ちょっと横に広がってた気がしなかった?」


 二人とも苦悩の表情をしているよ。


「こんなときにそんなこと言ってる場合じゃないよっ! ……ワーシィのは胸がおっきくなってきただけで、シグナのは……初めて着たポンチョによる目の錯覚だよ!」


 でも……。ボクも実は、最近体が重く……ううん!


「もうっ、それじゃ正面で大暴れすればいい運動になるよ! ほらっ早く行くよ!」


 ボクは首を振って気持ちを切り替えて、ぶつぶつ言う二人と前に出たよ。

 正面に出てみたら、さっき門が閉まった直後に見た遠くの光が、だいぶ近くなっていることに気づいたよ。

 あの光は、燃えさかる雑巾たちの光だったんだね。


「それじゃボクが光障壁を作るから、二人は両脇を一応固めて……ね……?」


 ボクが言葉を濁したのは、ワーシィとシグナのせいじゃなかった。二人にお願いしようと振り返ったとき、気になる光景を見てしまったからなんだ。

 サブマスターさんと一緒に来ていた冒険者さんが、難しい顔をして耳打ちし合っていたんだ。

 何だか……気になるよ。変な感じ。


「コト?」

「どうしたの?」


 ワーシィとシグナが不思議そうにするよ。

 それに、サブマスターさんとも目が合ったような……気まずいや。


「な、何でもないよ。とにかくよろしく、いつもどおりにね」


 いくら嫌な予感がしても、ここで戦わないわけにはいかないもんね。


「……そうだ、アレやろう!」


 ボクはいいことを考えたよ。

 緊張していた二人は、それを聞いてやる気を見せてくれた。

 二人がやる気を出した理由はこれだよ。


「――魔物たちよ!」

 ボクは遠くに光る雑巾たちに、指をさしたよ。

 そうなんだ。

 ボクたちは魔物と相対したときにビシッと決めることにしていて、それをワーシィとシグナとやることにしたんだ。


「これ以上近づくんやったら!」

 ワーシィもノリノリで腰に手を当てたよ。


「空もこの地も許さない!」

 シグナは左腕をばっと横に払ったよ。

 あ、ポンチョが翻ったよ。ボクもポーズ変えようかな。


「星たちはボク……」

「――早くしなさい」


 ボクが口を動かしながらポーズの変更を考えていたのに、後ろからサブマスターさんの冷たい声が聞こえたよ。

 ボクはあと一言二言言わせてもらおうと思ったけど、後ろを向いたらサブマスターさんだけじゃなく、皆が睨んでいた。


「ひえっ。……キ、“キラキラリンボクらを守って!”」


 うわーん! 皆の圧に負けて全部言えなかったよ~!

 せっかくの夜バージョンをかっこよく叫んだり、新しいポーズを決めるチャンスだったのに~。

 魔物と対峙するボクたち――ってのが見せどころなのに~。

 しかも呪文が早口になっちゃったし!

 ボク、呪文をじっくり唱えないとあんまり輝かなくなっちゃうんだよ!?

 これじゃ魔物を引きつける障壁ができな……あれ?


「うわ~! すごいや。ボクの障壁がこんなに光ってる!」


 呪文にあまり集中できなかったと思ったのに、ボクの手元の障壁はいつものよりずっと輝いていて、形もしっかり三角形なんだ。


「あのオバケを倒したときと一緒や」

「まぶしいっ……コト、やっぱり特訓したんじゃ……」


 ワーシィとシグナにまた疑わしそう見られたよ。

 そんなことしてないもんね。

 でも、何でこんなに魔法が変わったのかな?

 ボク、いきなり成長しちゃったのかな?


「わかんないけどっ、雑巾めっ、ボクたちのところにやってこーい! ボクが、『洞窟の掃除人』のボクが、大掃除しちゃうもんね!!」


 今は何でもできそうだよ!




おまけ:そのころのシャーロットと、件の菓子屋

シャーロット「スキップ♪スキップ~♪ ――へぇっくち!」(誰か噂でもしてるのかな? スキップも疲れてきたなぁ)

パテシ「クシュッ! ……戦闘が終わったらうちのお菓子が食べたいって、噂されているのかもしれない……!」




「○ブになるわよ!」

――で、「ドキっ」ときたかた、申し訳ありません。

かくいう私が一番「ギクゥ!」となっております。

ところで、おそらく今回の更新が今年最後となりそうです。

今年はいろいろありましたが、

皆さま、良いお年をお迎えくださいませ。



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