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131: 学園生vs雑巾(東側② ~ムシャぶるりだもん~



 ボクたちは待ち合わせ場所の門にやってきたよ。

 すでに学園生全員が揃っていたみたい。

 今は曇っていて暗いけど代わりに松明があるし、近くにいた男子の言葉からもわかったんだ。


「来た来た。あんなに発破かけてた『キラキラ』が最後に到着だ」


 あれからがんばって走ってきたんだけど、さすがに皆よりは遅れちゃったんだね。


「ごめーん。でも間に合ったじゃん。それに『キラキラ』じゃないよ!――キラキラ!」

「ストロゥベル!」

「リボン!」


 だもんね~。

 簡易バージョンだけど、ポーズまでビシッと決めたよ。

 ワーシィとシグナは、ボクが「キラキラ」と言ったらちゃんと続けて言ってくれるんだ。

 肝心の男子は「知ってる」って少し呆れた顔をした。


「……てか、お前らやけに張り切ってんな?」

「さっき四の鐘が鳴ったでしょ? 向こうはもう戦闘が始まっているんだもん。ボクたちも町を守るって思うと、これからだなって思うんだよ!」


 ルイくんたちと別れたあと鐘が鳴ったんだ。

 もう西のほうでは、シャーロットさんや『羊の闘志』さんたちが戦っているってことだよ。

 ボクたちも素敵なプレゼントをもらったんだからがんばらないとね。

 えーと、“魔法の威力が強くなって、しかも当てやすくなって、心が強くなる”んだっけ?

 たとえシャーロットさんが誇張された説明を信じて布を購入したんだとしても、ボクたちはいつもどおりやるだけだよ。

 ただ、ボクたちはやる気満々だったけど、その男子はがっかりした様子なんだ。


「うーん、そうは言うけど“雑巾”の相手だろう? せっかくもっと大物と戦えると思ったのになぁ……」


 同調する人も出てきたよ。


「燃えさかる雑巾は、入学した年に魔物退治の演習でやったよね。楽勝でしょ。全員が戦う必要なさげ」


“燃えさかる雑巾”っていう魔物は弱いよ。

 火に気をつければ低ランクでも倒せるくらいなんだ。

 ボクたちは中ランクの冒険者だから、そんな魔物を相手に戦うなんて物足りないってことを言っているよ。

 だから皆やる気が出ないみたいだ。


「あんたの『洞窟の掃除人』って称号には“雑巾”はお似合いの相手かもしれないけど、私たちにはね~。マルデバードだってうまく倒せたんだし、もっと強いのと戦いたかったわ」


 ボクのことをライバル視しているっていう(シグナにはそう見えるらしい)女子が、ボクを睨むよ。

 称号は関係なくない?

 それよりもっ――。


「いくらボクたちの相手が雑巾でも、このスタンピード戦は町を守ることに変わりないよ! ボクたちが引き付けて一匹残らず倒せば、新種の魔物とかと戦っている人たちは、そっちに集中できるもん!!」


 アーリズに来た学園生全員が、ここで、この場(スタンピード)で力を発揮する。――ボクがギルドに直談判をした理由は、なんだかこのこと(・・・・)だった気がするよ。

 ここに皆が集まっていることが、すごくしっくりくるんだ。この光景が当たり前のように感じるんだ。

 ……不思議だけどね。


 それよりも、燃えさかる雑巾を甘く見ている皆の状態が危ない気がするよ。

 だから皆にもっと緊張感を持ってもらおうと考えた。

 でもその前に、ボクの後ろから男の人の声が聞こえたよ。


「――そう、そういうことさ。彼女はわかっているようだけど、他は何しに来たんだか」


 来たのは、ボクたちをスタンピード戦に呼んでくれた人だったよ。

 その人は強い声でこう言ったんだ。


「それとも今の学園では、弱い魔物はいつでも侮って対応しなさいと教えられているのかい? そんな考えでは、とうていこの戦闘には出せないね。帰りなさい」


 その人はアーリズのギルドの、目が細いサブマスターさんだ。

 服装はもちろん戦闘用の服を着ていたよ。

 だからかな? なんだか雰囲気がギルドにいたときと違うや。

 後ろからは冒険者の人たちも来ているよ。

 西での戦いには参加できなかったランクの人かな?

 サブマスターさんは文句を言っていた皆を無視するように、前を通り過ぎようとしていたよ。


「そんな、待ってくださいサブマスターさんっ。俺らやれます!」

「ここで帰ったら、それこそ恐れをなしたようじゃないですか!」

「雑巾ごときに背を向けられません。戦わせてください!」


 さっきまでぶつくさ言っていた当人たちは、焦ってサブマスターさんを追ったよ。


「いいかい? 前回のマルデバード戦と同じ雰囲気を想像しているようなら改めなさい。今回はあのときとは数が違う。十倍以上は考えていてもらわないと困るからね?」


 サブマスターさんは立ち止まって、駆け寄った一人ひとりの顔を見ながら話したよ。


「燃えさかる雑巾には基本の戦い方があるから、こちらの指示に従い、自分勝手な行動は慎むこと。門の外に出たら一切気を抜いてはいけないよ。それができないようなら残ってもらう。――いいね――?」


 最後にサブマスターさんが強い口調で言ったら、不思議なことが起こったよ。

 詰め寄っていた皆が突然、腰が抜けたように尻もちをついたんだ。


「ひえっ、き、気ぃ抜きません……!」

「勝手なこと、し、し、しません……」

「し、従いま、す……ぅ」


 さっきまで威勢がよかったのに、怯えた表情でサブマスターさんを見上げているんだ。

 声が震えているよ。やっぱりここで待っていたほうがいいんじゃないかな?

 それともサブマスターさん、そんな怖い顔してるのかな?

 ボクのところからじゃ後ろ姿しか見えないや。

 でもさ、強い人って怖いなぁって思うときあるよね。

 ボクたちだって、『羊の闘志』さんたちがあの悪い貴族の人(魔物の鳴き声みたいな名前だったような……忘れちゃった)に怒鳴ったときは、すっ転んじゃったもん。


「他の子も、わかったね?」


 サブマスターさんが周りをぐるっと見渡したよ。

 あれ? 細い目が緑に光ったような……。

 ボクはサブマスターさんに違和感を持ったけど、また尻もちをつく人たちがいたのが気になったよ。

 皆なんだかんだ言って、スタンピード戦が怖いのかな?


「はいっ、わかったっす!」


 だからボクは、ボクたちのパーティーは覚悟が決まっている――と見えるように元気に返事をしたよ。

 実際しっかり立っているのは、ボクたちしかいないんだ。

 でも、なんだかおかしいなぁ。

 ボクも皆のように尻もちをつくとまでいかなくても、足がガクガクしているような……。


「コト、足が震えてるんちゃう?」

「違うもん。ムシャぶるり(・・・・・・)だもん」


 戦いの前でドキドキしているってことだよ。

 あれ? でも違う言い方だったような。


「それを言うなら『武者ぶるい』ね」

「シグナ、それそれ! ……って、二人とも、ボクの腕掴まないでくれる?」


 ボクの足も震えているけど、両側にいるワーシィとシグナだって足を震わせてボクを支えにしているじゃん。

 腕が左右に引っ張られてるんだけど。


「……類は友を呼ぶ……」


 サブマスターさんはボクたちを見て、ぽつりと言ったよ。

 どういうことだろう? わかんないや。

 目も特に変わったところはないようだよ。やっぱりボクの見間違いかも。


「それでは、作戦を説明するよ」


 ボクたちの足の震えが止まると、皆もやる気を見せるように立ち上がったよ。

 そんな様子に満足してサブマスターさんが話し始めた。

 門の前は静かになって、聞きもらす心配はなかったし、提示してくれた作戦はとてもわかりやすかったよ。


「……と、こういう流れだよ。質問は? ……いないね。体調がすぐれない子もいないかい? ……では、行こうか」


 ボクたちの体調まで気にかけてくれるなんて、何だか先生みたいだ。

 サブマスターさんが合図をすると、大きな門が音を立てて開いていくよ。

 とうとう、町を出て戦闘になるんだ……!


「――あ、あれ見て!」


 ボクが少しドキドキしながら門を見ていたら、誰かの声がしたよ。

 上空を指さしていたんだ。


「何かあったの? ――あ」


 一匹の魔物が上空をふよふよ浮いていたんだ。

 知ってるよ。

 ファンタズゲシュトルだ!

 確か東から、新種の魔物と一緒に向かっているって聞いたっけ。

 きっと向こうでは気づかれずに、こっちまで来ちゃったんだね。


「よーっし。ボクに任せて!」

「コトの魔法だと、届かないんじゃいんじゃない? 下におりてくるまで待ったら?」


 ボクが両手をファンタズゲシュトルに向けたら、シグナに止められたよ。

 ファンタズゲシュトルは城壁の高さくらいにいるもんね。ボクの魔法はあそこまで届いたことないもん。


 待ってようかな。ファンタズゲシュトルってちょっと邪魔だけど、それだけだし……。

 ……でも。

 でも、それでいいのかな……?



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