130: 学園生vs雑巾(東側① ~ボクたちへの贈り物~
「東門、東の門~! 夜だから迷いそう。そうだ、明かりをつけるね!」
暗い町の道を、ボクはワーシィとシグナと一緒に走っていたよ。
「これから戦闘やのに、光障壁を出したらあかん」
「月が出てるんだから大丈夫よ。魔力は温存して!」
怒られながらね。
道は人影がなくて静かだから、声がよく響くよ。
なんでボクたちが走っているのかっていうと、スタンピード戦に参加するからなんだ。
西から魔物の大群が来ているっていうときに、テーブル山ダンジョンでスタンピードまで起こっちゃったんだって。
シャーロットさんたちのような強い人たちは、西での戦闘をしないといけないから、ボクたちに出番が回ってきたんだ。
アーリズの町って本当にスタンピードが多いんだね。
ボクたちの学園があるジェイミでは考えられないことだよ。
昨日の晩から帰らない決心をしたのは、このことだったんじゃないかな?
「ふふんっ、ね? 言ったでしょ。ボクたちも戦うって!」
「スタンピードは予想だにせぇへんかったなぁ」
「大変な事態だけど、私たちを頼ってくれるのは正直ありがたいわね」
昨日はスタンピードが起こるかなんてわからなくても、アーリズの町を助ける行動をするって心の隅で感じていたと思うんだ。
シャーロットさんが言っていた『閃き』スキルのおかげだよね。
チャンスが来たんだから、がんばるぞ!
――そう気合を入れていたところで、ボクたちは誰かに呼び止められたよ。
「来た来た、コトねえちゃんたち! 間に合った~」
「ん? あ、ルイくんたちだ!」
ルイくんが仲間二人を連れて、狭い道の角からやってきたよ。
コソコソと周りを見ながら近寄ってくる。手に何か持っているみたいだ。
「あれ? 今、避難中じゃないの? こんなとこいたらダメだよ」
「ちょっと抜けてきただけだよ。それよりこれ見て。コトねえちゃんたちに渡したかったんだ!」
ルイくんたちが目の前で広げてくれた物を見てびっくりしたよ。
三人分の上着だったんだ。
「え、うわ~! かわいい!!」
「いったいどないしたの?」
「渡すって、私たちに?」
リボンやボタンがついて、とってもかわいいポンチョだ。
機能性も考えてくれたみたいでポケットもあるし、そのふちにはフリルもついているよ。それもまたかわいいんだ。
三着とも同じ形のポンチョだけど、一着ずつところどころ違っていたよ。
「シャーロットがね、コトねえちゃんたちが学園に帰るときに渡したいって、布を買ってきたんだ。俺たちもちょうどマーサを助けてもらったお礼を考えていたから、俺たちがその布で服を作ったんだ」
そんな……マーサちゃんを助けたのは偶然みたいなものだからお礼なんていいのに。
確かに皆から、ボクの『閃き』スキルによるものだと感謝されたけど……でもそれはシャーロットさんが言っていたからだし……。
っていうか、そのシャーロットさんがボクたちにプレゼントを用意していてくれていたなんて……!
しかも、手作り!
「本当はねえちゃんたちが学園に帰るときにわたす予定だったんだけど、はやく帰ることになったって聞いて、俺たち急いで作ったんだよね。間にあわないかなっておもったら、のこって戦うって言うじゃん? だからこれ着て戦ってほしいなって!」
だからルイくんたちは避難所を抜け出してまで渡しに来てくれたんだって。
でも『着て戦ってほしい』ってどういうことだろう?
「シャーロットがお店のひとから聞いたところによると、この布は冒険者にとってすっごい効果があるらしいんだよ。まほうの威力が増したり……え~と、あと……なんだっけ?」
ルイくんが隣にいる二人の仲間を見る。
「命中率や防御も上がるんじゃなかった? ちなみにね、私がデザインしたの~」
「こわい気持ちにうち勝てるとも言ってたぜ。俺は主に布を切ったんだぜ」
な、なんだかすごい効果だね。
それにボクたちが「すごい、かわいい!」って言うものだから、自慢げだったよ。
「皆でがんばったんだ! 特にマーサはね、ボタンを縫ったんだよ!!」
ルイくんは説明にうんうんと首を振って、妹のマーサちゃんが縫った部分を得意そうに説明したよ。
「こんなに上手に縫えるなんてすごいや! ……ボクできないし」
「防具屋さんに置いてもええくらいの出来やで」
「デザインもするなんてすごいわね!」
そんなに何でもかんでも効果が上がる布なんて、シャーロットさんったらお店の人にだまされたんじゃないかな――と思ったけど、それよりも服の完成度に驚いたよ。
「ほらっ、とにかく着てみてよ」
ルイくんに促されてそのポンチョを着てみた。
「……ん、すごいっ、着心地いいね!」
「元からうちらのものやったように感じる!」
「動きやすいわね!」
ボクたちは着てみると、近くの家の窓に立ったよ。
その家の中は真っ暗で、反対に外は月の明かりに照らされているから、窓は鏡のような役割を果たしてくれた。
ボクたちの体型に合っているどころか、最初から着ていたかのようにしっくりきて嬉しかったよ。
だからボクは二人を見た。
二人もボクを見た。
ボクたちは頷いて、ルイくんたちの目の前で最近決めたアレを堂々と披露したよ。
「――ボクたちは星空の輝き☆」
トップバッターはこのボク。やっぱりリーダーから始めないとねっ!
夜のバージョンも考えていて、それを「星」にしたんだ。
バッと両腕を広げて上に向けて、空の広さやボクたちの存在感を示す。
それからくるっと回転しながら、片手を頭上に上げるよ。
わあっ、もらったポンチョが広がった! とってもいい感じ!
「魔物を華麗に退治するCランク♪」
次は隣のワーシィが、ボクに背を向けるように体をひねって、片足を上げて髪をかき上げたよ。
足を上げたときのラインが美しくなるように横顔を見せるんだってさ。体幹が大事って言ってたなぁ。
華麗さ、が現れているよね。
ボクたちの練習をシャーロットさんに見せたとき「足の角度が奇麗だね」って言われて、そこからさらに研究してこのポーズになったんだ。
持っている杖は、ひとまず外向きに固定するよ。
ワーシィはこの動作をいつも以上に練習していたっけ。
「かわいくて強い、美少女三人パーティー♡」
ボクの横で足を一歩斜め前に出したシグナは、斜め前方に向けて抜剣したよ。
月の光が反射するように、剣の角度を調節してくれているはず。
シャーロットさんが「おっ、今シグナちゃんの剣が光ってかっこよかったよ」って言ったことから始めたんだ。
シグナは器用だから、さらにパチン☆とウインクもすることになってるよ。
ウインクでかわいさを、剣を閃かせて強さを表したんだ。
ボクもウインクにチャレンジしたけど、しかめっ面になっちゃうからうらやましいよ。
そして最後はもちろん――!
「「「キラキラ・ストロゥベル・リボン!!!」」」
三人で声を合わせて叫んだ。
同時にワーシィは杖を、シグナは剣の切っ先を、ボクが空に掲げた手に向けたよ。
三人で三角形を作っているように見せたんだ!
シャーロットさんが「三人だから三角形ってどうだろ?」って言ってくれたところから決めたよ。
最初は単純すぎると思ったけど、なんだかしっくりきたから採用したんだ。
シグナの剣が刺さらない位置取りが難しかったよ……。
でも見てよ。
いつも以上にびしっと決まったし、なによりもらったポンチョが広がって、今までで一番気分がのったよ。
ボクたちは、
――決まった――!
と満足した。
さあ、ルイくんたちの反応はどうかな?
「…………」
え、あれ?
反応が鈍いような……。あ、わかった。
「最後が足りないもんね? ボクが光魔法で上から照らすんだけどさ。でもほら、これから戦闘だから魔力を温存しておきたいんだ」
「いや、そうじゃないよコトねえちゃん……」
じゃあ、なんなの? 今までで一番いい出来だと思ったんだけどなぁ。ちょっとがっかり。
「えーとさ、それってパーティーの名前覚えてもらうのが目的だろ?」
「とーぜん!」
ルイくんは隣の仲間と、もの言いたげに目を合わせたよ。
「じゃあさ、パーティー名言う前にまずは――『洞窟の掃除人』コト・ヴェーガー! ――って自己紹介するほうがよくない? せっかく称号もらったのに。もったいないよ」
えっ――!?
ルイくんの仲間二人も「それ、それ~!」と頷いて、ワーシィとシグナの分のアイデアを出したよ。
「『氷の魔法でカチンコチン、ワーシィ・アルタイール!』――みたいな!」
「『雷まとう美少女剣士、シグナ・ス・デネブ!』――ってどうだよ?」
ルイくんたちが「名前叫んだほうが覚えてもらえるよ」って口々に言うよ。
……一緒に考えてくれるのは嬉しいよ?
でも、でもねっ。
「「「はんたーい!」」」
ボクどころか、ワーシィとシグナとも声が重なったよ。
それくらい反対っ。なし、だよ!
「自己紹介なんてっ……、恥ずかしいもんっ!!!」
「せや!!」
「そうそう!」
ワーシィもシグナも激しく同意してくれた。
ルイくんたちは目が点になったけどね。
「コトねえちゃんたち……パーティー名あんなにでっかい声で叫んだのに、自分の名前は恥ずかしいのかよ?」
「自分の名前は、大きい声で言いたくないのっ!」
ルイくんたち三人は「変なの~」って言うけど、恥ずかしいものは恥ずかしいもん!
しかもあの称号だし。
ん、いや、でも……シャーロットさんと雰囲気が似ている称号をバシッと言うのもいいのかも?
でもでも自己紹介はっ……。
そんなふうにボクがいろいろ考えていると、ルイくんが何かに気づいたように一歩下がったよ。
「――あっ、学園生! まだこんなところにいたのか! 門は向こうだぞ!」
衛兵さんたちだった。
「やべっ、見回りだ。ずらかるぞ!! ――ねえちゃんたち、がんばれよ~!」
ルイくんたちは大慌てでボクたちの横を走り去っていったよ。
そういえば、内緒で抜け出したんだもんね。
「……あっ、孤児院のボーズども! こら~~、避難しろって言われただろ! ――ほら、学園生はさっさと行け!」
「「「はいっ、すみません!」」」
怒られちゃった。
確かにここで立ち止まっている場合じゃなかったね。
ボクは急いで走り出したよ。だけど――。
「コト! 違う、こっちや!」
「私たちにちゃんとついてきて!」
ワーシィとシグナに腕を引っ張られたよ……。
でもボクはあんまり痛くなかったからか、怒るより気を引き締めなきゃって思った。
シャーロットさんが珍しい生地を買って、ルイくんたちがそれを形にしてくれた――。
それって、なんだか託されている感じがするんだもん。
コト、ワーシィ、シグナ「自己紹介なんて恥ずかしい!」
シャーロット「なん、だと……Σ(゜ロ゜;)」(127話笑)




