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127: アーリズ防衛戦(西側④ ~私は!美少女♡受付嬢~


 私たちがいる城壁中央(西門側)部隊は、混乱状態によって戦闘形態を維持できないでいる。

 その中心に――正確には中心にいるタチアナさんの周りを、元凶である大きなおっさんの顔がふよふよと浮いていた。

 それは当然この一匹だけではなく、前線付近にも数匹浮いている。いつ混乱ボイスを使うのかわからない状態だ。

 私はぴょんこぴょんことスキップしながら、手をこまねいて見ていた。

 幸いなのはハートのメガネを着けたままだったから、遠くの様子がちゃんと見えるということだ。


「ぎえええええ!!!」


 この叫びはおっさん顔もといファンタズゲシュトル亜種のものではなく、タチアナさんの悲鳴だ。

 どうやらこのファンタズゲシュトル亜種は、怖がっている人・怯えている少女が好きらしく、「オバケ~!」と叫ぶタチアナさんから離れずニヤニヤ笑っている。顔と性格が一致している魔物のようだ。

 そんなねちっこく笑うファンタズゲシュトル亜種に、光魔法が走り抜けていった。


「――ブヒュひゅヒュひゅ…………ヌゥ!」


 混乱ボイスを発声中だったファンタズゲシュトル亜種が、途中で笑いを止める――。

 どうやら城壁の南側に配置されていた人たちが、応援に駆けつけてくれたようだ。混乱ボイスの範囲外から攻撃してくれた。


「…………ゥ、ウヒョーヒョヒョヒョ――!!」


 しかし完全には倒せなかった。

 狙いはよかったし、顔の右側をえぐっていったけど、完全に消すには少し浅かったらしい。

 混乱ボイスは範囲が広いから、遠くから撃つしかない。命中させるのが難しそうだ。

 関係ないけど……、今のファンタズゲシュトル亜種の笑い方、タチアナさんに似ていたなぁ。


「ちょおっ、ヘタクソ! 早く~~ぅぅぅ、倒しなさいよおおおぉぉ!!」


 そのタチアナさんは余裕がないからか、口が悪くなっていた。遠くから当てようとがんばっている光魔法使いさんに、なんという言い草か。

 まぁ確かに私も、このオバケが消えたらわざとゲンチーナさんに向かって転んで、正気に戻そうとは計画していたけども。


 混乱状態を戻すには、治癒魔法で回復させるか、物理的な衝撃を与えるかの方法がある。

 混乱を装っている私がゲンチーナさんにぶつかれば、彼女も元に戻せるし、私も目が覚めたように見せかけられるのだ。

 それからゲンチーナさんに他の人たちの混乱を解除してもらえばよい。

 スキップするのも疲れてきたから、オバケが倒されなくて残念だ。

 でも倒されなかったことでタチアナさんが叫び、おかげで助かったこともある。


「んぎゃああああ!! な、ななな、こっち来てるううううう?!?!」


 前線にいたファンタズゲシュトル亜種が、こっちに興味を持ったようで向かってきてくれたのだ。

 混乱ボイスを使うファンタズゲシュトル亜種が、後衛に来るのは大歓迎だ。まだ他の魔物と交戦中ではないからゆっくり倒せる。


(タチアナさん! あなたの叫びが、前線にいたファンタズゲシュトル亜種をこちらに呼び寄せましたよ。これで前線の危険性がぐっと低くなります!)


 さらにあとから前線に到着したファンタズゲシュトル亜種たちも、こっちに注目したみたいで近づいてくる。


「増えぇっ、増えてるわよおおおお!?!? 来ないでよおおおぉぉぉ…………っ!!!」


 防音ではないとはいえ、障壁の中にいるのに、タチアナさんの声は魔物をおびき寄せられるほど大きいようだ。

 つまりタチアナさんはオバケホイホイ……いや、先日のマルデバード戦に引き続き自ら囮となり、 “この町の勇者タチアナ”になったということだ。

 まさか、当初考えていた囮作戦がこんな形で実現するとは。

 タチアナさん、あと少しですよ。集まってきたオバケが消えたらすぐ避難させて……あっ、タチアナさんが動かなくなっている! ……気絶したみたいだ。


 そのときまた私の横を光が通過する。

「フェッフェッ……ップギャアアアアアア!!!」


 おお、今度は倒してくれた。しかし新しく来た二匹が残っている。加えて、状況がまずくなってきた。

 それは南側からの声によってもたらされた。


「前方からガーゴイル三体、続きファンタズゲシュトルがこちらに接近中!」


 勇者タチアナは、ファンタズゲシュトル亜種の他にガーゴイルも引き寄せていたのだ。

 周囲のファンタズゲシュトル亜種をすべて倒してから、皆の混乱状態を治そう、と悠長なことを言っていられなくなった。

 今この後衛がグダグダになっていても、そこまで深刻じゃなかったのは、ファンタズゲシュトル亜種が『混乱ボイス』しか使わなかったからだ。しかしそれは、別の魔物がくれば一気に形勢が不利になる。


 この魔物群がここに来る前に壊滅させたデココ領は、おそらく混乱状態になったところに別の魔物から攻撃され、反撃ができず敗北したに違いない。

 アーリズの町(ここ)もこのままでは、デココ領の二の舞だ。


 でも、どうすれば。

 まずはファンタズゲシュトル亜種を障壁に閉じ込めて、皆を混乱状態から復活させればいいのだろうけど、そんな普通のことをしたら私が混乱状態ではないことがばれてしまう。いや、今こんな状態でそんなことを言ってられないけど……。


「――ギャアアアアア……!!」

 考えていたらまた悲鳴に似た叫びが聞こえて、ファンタズゲシュトル亜種が消える。

 北側からも応援に来てくれたようで二匹目も倒してくれた。残りはあと一匹だ。


 でも、ガーゴイルがこちらに襲いかかるまでには間に合いそうにない。

 皆を混乱状態から戻して戦ってもらうのが最善なんだけど、今戻しても混乱ボイスを受けたらまた混乱しちゃうし……。

 せめて、前方のガーゴイルとファンタズゲシュトル亜種の到着を遅らせるために、先に障壁を張ってガーゴイルの侵入を止めて……いや、そんなことをしたらやっぱり私が混乱状態じゃないのがバレてしまう。


 あ、地上の人たちがガーゴイルたちに攻撃してくれている。彼らも、ここ城壁中央部隊の状況が芳しくないことをわかっているようだ。

 まぁ、団長さんがくるくる飛んでいるからわからないわけがないよね。

 しかし地上の人たちも頑張ってくれているけど、ガーゴイルに致命傷を与えられていない。

 矢などの攻撃が当たりそうになったら、ガーゴイルお得意の、自身を石に変える形態になって身を守っている。


 ところでタチアナさんの周りをうろついていたファンタズゲシュトル亜種は?

「こっちに来るぞ~!! 耳を塞げ!」

 タチアナさんが気絶したから城壁の南側に興味を抱いたようで、ゆっくり移動し始めた。


 そうなると北側はこっちに来るはず――と思っているとその予想どおり、様子を窺いつつ指示する声が飛んでくる。


「あのファンタズゲシュトルが南に向かったら、壁張り職人と治癒魔法使い殿はビンタで起こせ。他は殴ってよし! 団長は……石でも投げろ!!」


 団長さーん、前回の矢に続き、今度は石を投げられそうになってますよ!

 それにゲンチーナさん、私たちもこのままではビンタを食らってしまいますよ。ほっぺを守らなくては!

 というか他の人たちは殴っていいのか……。


 ん? ちょっと待った。『探索』スキルで確認すると、味方が来るより先にガーゴイルたちが押し寄せそうだ。

 何とかしなくては!!

 でも、う~ん……。


 私が混乱状態になっていると一目瞭然で、

 ガーゴイルの侵入を止めて、

 ファンタズゲシュトル亜種も全部倒してもらえるようにして、

 全員に混乱状態から戻ってもらうには……。



(――そうだ……!)


 ファンタズゲシュトル亜種の笑い声が移動する中、私の頭に突然、三人の少女たちの動きが思い浮かんだ。

 これならすべての要素を取り入れつつ、解決できるのでは⁉


 しかし、それは……。いや、いやいや! 時間がないから覚悟を決めなければ。

 まず、目立つために胸壁の上によじ登ろう。……うんしょっと。

 登ったらその上に立つ。

 …………幅はあると思っていたけど、実際上に乗ると意外と狭い。


(高いし……。高所恐怖症じゃないけど乗るんじゃなかった……)


 なんとかして目立たとうと思って立ったけど、そこまでする必要あったかな。

 だけど乗り上がってしまったものは仕方ない。

 周囲の皆さんが焦っている声が聞こえるけど、気にせずあの三人の動きとセリフを思い出す……。『演技』スキルももちろん準備万端だ。


 ――さあ、魔物の注意を引くため、大きな声で! 堂々と! 自信満々に!! 高らかに叫ぶのだ――!!!

 私は胸壁に乗っていないかのように背筋をピンと伸ばして叫ぶ。



「――私はー! アーリズの冒険者ギルドの――!」


 突然大声で叫ぶと、周囲の味方の動きがピタッと止まった。

 私は気にせず、両手を頭の上まで上げて手首を交差するポーズを取る!

 あ、腰はななめにするんだったかな。

 まぁいいや、次。


「――美少女♡受付嬢――!」


 片足を横にずらし、腰をひねりつつ髪をかき上げる動作をして、その腕を流れるように斜めに上げるポーズ! ――をできるだけ再現してみせた。

 続いて。


「――シャーロット――!」


 片手を頭上に上げて、まるで光を上から受け止めるかのような動作で、高らかに宣言する。

 味方の空気が凍り、向かってくる足音は止まるも、ガーゴイルとファンタズゲシュトル亜種はこっちに向かってきてくれるからそれでいい…………ことにしよう。



 すると、まるでこのポーズに興味がわいたかのように雲に隠れていた月が現れた。

 上から月光を浴びる私。……本当に光を受け止めている。

 なんだか視線が刺さるような感触があるんだけど、今は気にしないでおこう!

 舞台の主役のごとく、堂々と前を見た。

 こちらに迫る魔物は待ってくれないし、この続きが重要なのだから……!



最後のセリフは……(↓下の画像を要参照)笑

というわけで、『転生した受付嬢のギルド日誌』コミック1巻は好評発売中!!



おまけ

この頃の解体メンバーたち。

「姐さんがっ、いない!!」

「まさか新種の魔物見に行ったんじゃ」

「ファンタズゲシュトルもいるのに……??」


一緒の避難所にいたメロディー&フェリオ

メ「た、大変ですわっ」

フェ「ふぅ……(首を振り、ため息をつく)」



コト「ボ、ボクたちの出番まだかな……てか、見た?!」

ワーシィ「足場が狭いのに決まっとったね!」

シグナ「あんなに高いところですごいわね!」

コト「ボクたちも負けてらんないよ! 出番が来る前に練習だ~!」


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