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126: アーリズ防衛戦(西側③ ~混乱~



『――さて、デココ領が魔物群によって突破されたわけですが、たとえその領の領主が逃げたのだとしても、新種の魔物が現れたのだとしても、一つの領地が簡単に壊滅状態になるということは、他に何かある可能性があります。――十分注意して今回の戦闘に挑みましょう』

 ――おお!

 ――はい、団長!



 ……なんて、会議で注意喚起されていたのに……。しかもついさっきも「気を抜かないように」と言われたばかりなのに……この体たらくとなってしまった。



「ひどいわ~~~!! 出して! 出してよ~~!!!」

「――グゥフェふぇフェふぇ――!」


 タチアナさんが叫び、ファンタズゲシュトルが気味の悪い笑い声を響かせている。

 私がタチアナさんを故意に閉じ込めているかのような言動はとりあえず置いといて、状況を整理しよう。


 まず城壁の上には私以外まともな状態の人がいない。


「ごめんなさい。ごめんなさい……! 助けられなくて、ごめんなさい……!」


 ゲンチーナさんが何もないところに謝っている――と思っていたけど、実はタチアナさんの鼻血が付いたタオルに謝っていた。

 私がタチアナさんに貸したタオルは、ファンタズゲシュトルが現れたことで彼女が驚き、投げ捨てられていたのだ。

 そのばっちぃタオルに向かって、ゲンチーナさんが膝をついて謝罪している。


「もっと早く治療を……、もっと、もっと力があれば……ごめんなさい、ごめんなさい」

 治療院で働いているからには、いろいろとあるに違いない。

 腕のいい治癒魔法使いを探しているのも、過去に何かあったからなんだろうなぁ。しかし私は何も聞かなかったことにしておこう。


 さて、その近くにいるこちらの二人も、戦闘中だというのにふさわしくない行動をしている。


「む、ねぇ~」

「しり、いいい」


 謎の呪文のようなものを唱えながら、ファッサさんとムキムさんが二人で抱き合っているのだ。

 さっきは私に対して何だかんだとごまかしていたけど、やっぱり恋人同士なのだとわかる行動だ。まぁ、じっくり見るのは失礼だから上を見よう。


 すると、頭上で大きく円を描きながら空を飛んでいる団長さんがいた。

 前線付近から雲が晴れた状態で見たならば、団長さんが連なる円を描いているのがわかるはず。

「ふふふ、ははは」

 ……笑顔で飛んでいて、楽しそうだなぁ。


 彼らの状態はまだ周りを巻き込んでないから平和だけど、そんな人たちだけではない。

 お互いが敵に見えるのか、武器を持って戦おうとする騎士たちもいた。

 そんな人たちには、とりあえずタチアナさんと同じく障壁で閉じ込めてしまう。武器を振れないように狭い障壁にした。

 さて、周囲の皆さんが不思議な行動をしている原因はこれだ。


『状態異常:混乱』


 私の周り全員が混乱状態になっているのだ。

 あ、そういえば今、障壁で囲んでしまったけど、私だけ混乱状態になっていない動きは変だね。えーと、どうしよう。そうだ!


「パテシさんのお菓子! 最高~~~!」


 ……これなら誰かが見ていてもごまかせるかな。暗いし、たぶん大丈夫。

 おや、向こうからぶつぶつとつぶやく男性がやってきた。


「……また、オレ……か……ハ、ハハ……くっ。石、ぶっ壊す……」


 頭を抱えて笑うカイト王子だった。こちらも混乱状態だ。

 たまたま城壁から下りようとしていたところだったのかな。きっと通りがかったとき、運悪く巻き込まれちゃったんだろう。彼の運の値って高くないから……。

 この際だから、何か恥ずかしいことでも言ってくれないだろうか。ネタに……げふんげふん、なんでもない。


 あっ、カイト王子があのカップル騎士二人に向かっていく。そして鼻で笑いながらあいだに入っていってしまった……。

 ムキムさんが「何、(わろ)て……んねん」とか言いつつ王子を迎え入れている。

 まさか王子が、恋人たちのあいだに割って入ってしまうとは。

 まぁ、三人とも攻撃的な混乱状態じゃないから大丈夫だろう。

 なんと言ってもカイト王子はれっきとしたこの国の王族なのだし、騎士二人に挟まれていたほうが安全でいいかも。

 ファッサさんもムキムさんも、王族を守れて騎士冥利につきるに違いない。


 さて、この『混乱状態』の原因は、もちろんこのファンタズゲシュトルが関係している。

 いや、正確には『ファンタズゲシュトル』ではない。『鑑定』スキルで見るとこのような表記がされている。



『種類:     (ファンタズゲシュトル亜種)』


 なんとこの魔物も、亜種ではあるけどまぎれもなく新種の魔物だったのだ。

 またもや「種類名を新しく入れてね」と言わんばかりの空欄がある。

 こんなことなら遠くにいたときから、ハートのメガネ越しに『鑑定』できればよかったのだろうけど、あのときは月の光が強くて姿がはっきりせず、『鑑定』スキルを使っても内容は見えなかった。

 いや、見えなくても気にしなかったというのが正しい。


 大昔から姿も名前も動きも変わらない、取るに足りない魔物――と騎士も冒険者も町の人たちでさえ、そういう認識を持っている魔物だ。

 私も「タチアナさんがギャーギャー言うだけだし、それよりも新種の猿型の魔物に集中しなくては!」と思っていたから、ファンタズゲシュトルを『鑑定』せずこんな状況になってしまった。

 なんという怠慢か。反省しなければ。



「――ドゥ、フュふゅフュふゅフュふゅ――!!」


 ファンタズゲシュトルが、また人を小ばかにしつつ、高低差をつけた笑い声を上げる。

 この気持ち悪い笑いが、『混乱ボイス』というファンタズゲシュトル亜種のスキルだ。

 つまりここにいる人たちは皆、この『混乱ボイス』によって混乱状態に陥ってしまったわけだ。


 ところで私は、もちろん混乱状態にはならない。

 サブマスの『威圧』スキルで恐怖にも麻痺状態にもならなかったように、混乱にも耐性がある。

 実はそれだけではなく、魅了や毒なども効かない。


(このハートのメガネをおかあさんと一緒に見つけたときは、おかあさんと旅をし始めてそれほど経ってないときだったっけ)


 あのときは精神値が10000を超えていたことでハートのメガネが手に入ったけど、あれから何年も経った今、私の精神値はあれよあれよと増えて、とうとう『精神:37227』になっていた。


 そのおかげで今や私は『全状態異常耐性』スキルを発現していて、すべての状態異常に耐性があるのだ。

 精神値10000超えも珍しいほうなのに、三万超えはもっと珍しい。もちろんこのスキルも他の人には内緒だ。



 さあ、私のことはここまでにして戦闘状況について考えなければ。

 今一番危険なのは全員混乱状態のここ後衛ではなく、ちょうどグリーンサーペントと戦闘中の前線だ。そこに、ファンタズゲシュトル亜種が向かっている。

 あれはまずい。

 他の魔物と戦闘中に混乱状態になってしまっては、勝てるものも勝てない。

 かと言って、私が障壁でその魔物を阻むには遠すぎる。どうすれば……。


「いや~~~!! んぎゃああああ~~!! ……ちょっと、シャーロット!! 意識しっかりしてんじゃないの?! 早く何とかしなさいよ~~!!!」


 げ、いけないいけない。

 考えごとをしていて、混乱状態には見えなかったみたいだ。

 私の障壁の中にいるタチアナさんは、オバケに怯えているものの混乱状態になってない。

 私自身が『全状態異常耐性』スキル持ちなのだ。私が作る障壁が状態異常攻撃を通せるわけがない。

 二年前くらいにやってきたキングコカトリスの石化ブレスを防ぐのだから、今回の混乱ボイスだって難なく防ぐ。


「……私はー、壁張り職人で・は・な・い~~♪」

 とりあえず、スキップでもしてタチアナさんをごまかしつつ、どうするか考えなければ!




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――

おまけ

ところでタチアナがどこに入っていたかは、『121: 満月の夜の戦闘準備① ~城門前にて~』を読むとわかるかも??笑


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