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123: 満月の夜の戦闘準備③ ~勘違いの後ろで~

シャル「勘違い――って、誰が勘違いしてるんだろう??」←



 さて、どうしよう。

 治療院さん……同じ持ち場なのは仕方ないけど城壁といっても広いのだし、きっと離れた位置になるはず。早く通りすぎてくれないかな。

 このまま城壁の階段に隠れているわけにはいかないし……。


「開門――!!」


 私がこそこそしていると、城門の扉の内側から合図を出す声がした。続いて地響きのような音も。

 城門の上で聞く開門の音は、やけに体の奥に響く。

 私は、これから門の外に出る騎士の隊列と、冒険者の集団を見渡した。それぞれの頭頂部くらいしか見えないけど、皆さん気を引き締めているに違いない。


「がんばれよ~! 城門は任せ……お? 壁張り職人ちゃん!」

「なんでそこにおるんや、はよ上がってきたらええ。あ、わいが抱っこしたろうか?」


 出陣する同僚を応援していた二人に見つかってしまった。仕方ない、ゲンチーナさんがいるけど――いや、いるからこそ! やましく見えないよう堂々としなくては。


「いえ、大丈夫です! それに、隣のお相手さんに悪いですよ」


 声をかけてきた騎士たちは、先ほどアルゴーさんを挟んでいたあの二人だ。

 脚力に自信があるという獣人族のチャーラオ・ファッサさんと、筋肉もりもりなダークエルフ族のグォーリー・ムキムさん。――お二人は付き合っている者同士だ。


 実際この目で見たから間違いない。

 以前、彼ら二人とメロディーさんたちご夫婦、私の五人で食事をしたことがあって、突然食事中に冒険者たちに攻撃されたことがあった。そのときは私が障壁を張って被害はなかったけど、攻撃された瞬間に彼ら二人を見たら、お互いを守るように抱き合っていたんだよね。

 彼らの称号『パイ好き猫野郎』『ケツおっかけ筋肉』はまだ消えてないけど、きっとそのうち消えるはずだ。


 というわけで、すっと立って駆け上がる。

 ムキムさんは不思議そうな顔をしていたけど、私はそのあとすぐ聞こえた城門を閉める音が大きくて、そっちに注意が向いた。

 城門の側で聞くのと上で聞くのでは違うし、いつもと反対の西門で聞いたということもある。夜の空気や風の音によって、普段とは違う戦闘なのだと改めて気づかされたのだ。


「ご一緒したのはスライムのスタンピード以来ですね。今回は微力ながら、あなたを治癒魔法で補助します」


 上がった先で治療院さんことゲンチーナさんに、まるで待っていたかのように話しかけられた。

 スライム以来というのは、混合スタンピードのスライム戦のことだ。というか、私を補助とはいったい……?


「ゲンチーナさん。微力って……そんな謙遜なさらなくても。それに、私のことはいいんで、ぜひ、周りの方々の治療に専念してください! あっ、今回の戦闘は危なそうですから、むしろ避難してもらったほうがいいですよっ」


 私のことはおかまいなく! と笑顔を作った。

 スライム戦のときは周りの人たちが大きな怪我をしなかったからよかったけど、今回はスタンピードではないのだ。

 治癒魔法を使わないといけなくなる事態があるかもしれない。

 私がほんのちょっと使うだけでも、彼女に見られては面倒になることもありえる……。どうにかして遠ざけたい。

 しかしそんな私に、ゲンチーナさんは呆れた表情でこう返す。


「何を言っているのやら。今回はあなたの障壁魔法が重要なのですよ。あなたが万全な状態で障壁を張れるように、私はあなたに張り付くことになっています。ちょっとのかすり傷でもどんどん治しますからね。――作戦会議でそう説明されませんでしたか?」



 …………な、なんてこった~~!!!



 作戦会議では確かに治療院から誰か就くって聞いていたけど、あのときは金髪騎士見習いを罠にはめようと試行錯誤していたときだ。誰が就くかというのは、頭に入ってきてなかったかも……。

 これは困ったことになった。


「ないとは思いますが、流れ矢が当たっても対処しますからご安心を。あなた、矢で攻撃されたようですしね。しかもすぐに治ったようですよね。誰かに治してもらったんですか? ――まさか、あのウルフのときと同じ人ではないでしょうね」


 鋭いですね、同一人物ですよ! とは口を滑らせるはずがない。

 焦らずゆっくりとでまかせを話す。なぜならこの話題は、きっと治療院さんの耳に入ると思っていたからだ。


「あれはですね、とても高価なポーションを持っていたので、それを振りかけてもらったんですよ」

「そのようですね。近くにいた学園生の子も、孤児院の院長さんたちもそうおっしゃってました。……そうですか」


 あのとき側にいたコトちゃんたちにも聞いたようだ。鎌をかけられたってことか。

 ふぅ~危ない危ない。

 実はこういうこともあろうかと、ちゃんと口裏合わせておいたのだ。よかった~。

 それに、腕を治していたとき砂ぼこりが舞っていて、近くの人以外には見られてなかったのも幸いした。

 あれも金髪騎士見習いのやった目くらましの類だろう。……感謝はしないけど。


「壁ちゃ~ん、おいらたちもいるよ~。危ないときは抱えて移動してあげるからね~!」

「わいらがいれば百人力や。ばっちり守ったるで」


 同僚たちを見送っていた騎士二人が、元気よく話しかけてきた。

 ファッサさんは足を強調するためか太ももをバシンと叩き、ムキムさんは両腕の力こぶを強調するポーズを披露してくれる。

 護衛の騎士はこちらの二人が担当するようだ。


「いえ、私よりゲンチーナさんを優先してください。私は大丈夫ですから。それに、お二人は恋人同士じゃないですか。お互いを守ってくださいね」


 きっと上の人に命令されてここの配置になってしまったんだろう。私自身はなんとかなると思うので、自分たちのことを考えてほしい。

 ゲンチーナさんだって、怪我をしたことで私が診るはめになっては困ることになりかねない。


 すると彼らが私を挟んで「ジュリアちゃんも守るけど、なんか違うよ!」とか「勘違いや!」などと照れ隠しで叫んだけど(今さら隠さなくてもいいのに……あ、あんまり広められたくないのか)、頭上から厳しい声が降ってきたことでピタッと止まった。


「貴様ら! 真面目にやれないようなら、今すぐここから下に落としますよ!!」

 鳥人族の騎士団長さんだった。

 自身の翼を使って城壁の上まで上がってきたようだ。


「ひえっ、団長!」

「団長、わいらマジメです!」


 騎士の二人は突然下りてきた団長さんに驚き、態度を改め直立姿勢になる。

 さすが団長さんだ。

 私はよく知らないけど、彼は訓練では厳しい面があるらしい。もちろん『鑑定』スキルで見る団長さんは強い。マルデバード戦では、魔物を城壁外に押し出すような風魔法も見た。


 さて、これまでの状況からわかるように、実は今回の戦闘は、いつもと違う点がいくつかある。

 スタンピード戦でいつも一緒に戦っていた魔物討伐隊長さんは、城壁外で戦闘指示をすることになったため、障壁を張る指示は騎士団長さんがするのだ。

 騎士団長さんは以前会ったときに「スタンピード戦を拝見している」と言ったように、私の障壁魔法を初めて見るわけではない。

 しかし団長さんは種族特有の体質の関係から、長いあいだ前線に出てなかったのだ。もうその期間が終わったようだけど、ブランクがある状態だ。

 だけど私はいつもどおりやるだけ。――そう、あの治療院さんがいても堂々と戦うだけだ。



 ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン。



 今夜の招かれざる客たちが来たと、四の鐘が鳴ったのだから。




 ◆ ◆



 鐘が四つ鳴る城壁の上で、二人の騎士は悪い笑みを浮かべていた。チャーラオ・ファッサとグォーリー・ムキムの二人である。


(壁ちゃんの他にジュリアちゃんも同じ場所なんてツイてる~)

(団長にこれでもかと意気込みを示したかいあったで)


 シャーロットの護衛枠を勝ち取ることができて、ほくそ笑んでいた。

 彼らはシャーロットの護衛枠が空いているのに気づき、騎士団長にその役を買ってでていたのだ。

 騎士団長は二人の熱意に若干だが感化され、他にもやることが山積みでその件を早く済ませたかったということもあり、そのまま抜擢した。

 それに当時はまだルーアデ・ブゥモーの協力者が捕まっておらず、身内を疑っていた頃だ。その点二人とも、四男逮捕時には女性を口説いていて(仕事中だったので当然叱られた)疑いがなかったのもよかった。


(アルゴーんちでは醜態をさらしたけど、今夜はかっこよく助けるぜ~。ついでに抱き着いてみよ~!)

(どうも壁張りちゃんはあの噂をまだ信じてるようやけど、すぐ誤解を解いたる。わいの肉体美も見せたる、触らせたる!)


 喉元過ぎれば熱さを忘れる二人は熱い視線を送っていたが、当のシャーロットはもちろん前方にだけ集中していてみじんも気づかなかった。



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