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122: 満月の夜の戦闘準備② ~同じ持ち場~


『羊の闘志』の皆さんは、アルゴーさんたちを苦笑ぎみに見ながら、私のほうへ近寄ってきた。


「メロディーも夫の応援にわざわざ来るたぁやるじゃねぇか。しかしまさか、タチアナもこっちに来てねぇだろうなぁ?」


 バルカンさんが苦笑いをしながら見渡す。

 私は笑いながらそれを否定した。


「タチアナさんは確かに魔物大好きだし新種の魔物かもって、さっきも鼻血出してましたけど、さすがに来ないですよ~」

「はは、それもそうだな。今回、新種の魔物群の中にアレもいるってぇ話だからな」


 バルカンさんは、そのアレを退治することができる光魔法使いさんたちのいる方角――城壁の上を見た。

 タチアナさんがいくら新種の魔物に興味があっても、今夜の戦闘はさすがに来ない。必ず避難しているはずだ。


「残念だね。だけど、タチアナの分も楽しく戦うことにするよ!」


 大きな斧を軽々と肩に担ぐマルタさんは、わくわくした表情を隠さない。これからの戦闘が楽しみなのだろう。


「マルタはさっきからソワソワしすぎじゃな。こういうときこそ落ち着いているのが一番じゃぞ」


 おじいちゃん魔法使いさんは自身が言うようにゆったりと構え、バルカンさんもそのとおりだ、と頷いた。


「落ち着きながら手早く倒す。いつもやってることと変わらねぇ。なんとかゲイルたちが帰り道で巻き込まれねぇようにしてやろうぜ」


 ゲイルさんたち――新魔道具開発の件で王都に滞在していた冒険者たちが、帰路についているという情報があった。彼らが順調にアーリズに着けるようすみやかに片付けたいようだ。

 ちなみに他のメンバー二人はというと、


「ちゃんとおみやげ買ってくるかしら、あの子」

「能力値がわかる魔道具についても、早く聞きたい」


 色気のある女性魔法使いさんと斥候担当さんは、もうゲイルさんが帰ってきたあとのことを話していた。


「シャーロット、指名依頼されるほど皆がお前ぇに期待しているが、難しく考えるこたぁねぇ。気を楽にな。お前ぇの周囲に護衛がつくだろうから、障壁だけに集中すればいいだけだ」


 バルカンさんこそ城壁外で魔物たちと戦うという大変な役回りなのに、私を応援してくれる。


「はい。……でも私、あの貴族の息子たちを取り押さえてないのに、同じように指名依頼をもらっちゃって何だかすみません」


 私はさっきの会議でのやりとりを思い出して謝る。

 私も一応馬車を追いかけたけど途中で疲れて、反ものを拾っていただけなんだよね。

 だから団長さんにはあとで、私の指名依頼は取り消してもらうよう申し出るつもりだった。しかし、バルカンさんたちはそんな必要はないと首を振る。


「シャーロットは、あのクソ野郎どもの件がなくても指名依頼されたんじゃねぇか?」


 バルカンさんは今回のような戦闘では、ブゥモー家の問題と切り離して考えるべきだと言う。


「三年前の上級スタンピードを覚えてる俺らとしちゃぁ、障壁を使えて城壁を守ってくれるってぇだけでかなり気が楽になる。そんな力があるやつを指名依頼しないわけにはいかねぇ」


 バルカンさんは西門の反対――東側を見た。


「城壁ってもんは、一部でも壊れるとそこから魔物が入ってくるからな。……あのとき、冒険者ギルドも堕落していて最悪の年だった。シャーロットがこの町に来る前のことになるか……」


 あれからそんなに経ったか、と言うバルカンさんは遠い目をしてつぶやいた。彼の仲間たちも何かを思い出しているようだった。

 三年前ならまだ私は冒険者をしていて、この町には来ていない。

 当時のギルドマスターは不正にお金をもらっていたり、自分勝手な運営をしたり、その過程でフェリオさんを追い出したりした人で、今のギルマスはかなり苦労したようだ。


「だから上級の魔物が溢れたスタンピードは、かなり苦しかった……。魔物討伐部隊と当時のサブマスターが連携してなんとか収束させたはいいが、被害の大きな戦いだった……」


 今、私たちが立っている場所は、騎士団が集まっている場所から少し離れていることもありやけに静かで、バルカンさんの声はなぜか重く聞こえた。

 私はなんとなく、詳しく聞いてはいけない雰囲気を感じて黙っていたけど、そこに話しかけてくる人があらわれた。


「――こんばんは、『羊の闘志』の方々とギルドの受付さん。今夜はお互いがんばりしましょう」


 その人は、『羊の闘志』さんたちと一緒には会いたくない人だった。

 私は「げっ」と言いそうだったのを呑み込んで、真面目な顔をしたその人物を見る。バルカンさんも知っている顔なので挨拶をした。


「お前ぇさんは治療院んとこの……。名前はえぇと……」

「ジュリア・ゲンチーナです。――おや、あのウルフのスタンピードと同じ顔ぶれですね」


 ジュリア・ゲンチーナさん。治療院内でも熱意にあふれ、優秀な治癒魔法使いをアーリズの町に勧誘すると自ら豪語している人だ。

 彼女は執念深いところがある。


「ちょうどいい。お揃いなら、もう一度聞きます。今いないあなたたちのメンバー、ゲイルさんを治した人物について何か思い出したことはありませんか?」


 なぜ『羊の闘志』たちと一緒のときに会いたくなかったのか。

 それは彼女が、ゲイルさんの腕を手早く治したとされる人物を探しているあの(・・)治療院さんだからだ。ギルドにもちょくちょく来て私を困らせているのに、戦闘直前でもやってくるなんて。

 ゲイルさんを治したのは私なんだけど、『鑑定』や『探索』スキルを使用したからこその威力なので、今回に限らずいつもしらばっくれることにしていた。


「思い出すも何もなぁ。俺らはゲイルを治してくれた恩人の顔を見てねぇ、と言ったよな?」


 バルカンさんは私のことを一切見ずに、ゲンチーナさんに返事をする。少し威圧感のある声だ。

 他の人たちが「そうそう」と縦にうなずく隣で、私も同じく首を振る。


「そう伺いましたが、人というものは何かのきっかけで思い出すことがよくありますからね。声や身長など何か記憶に残ってませんか」


 ゲンチーナさんも負けずにバルカンさんに向き合う。高度な治癒魔法を使う人を探すのは使命であると公言している人だから、そう簡単に引かない。


「覚えてねぇものは覚えてねぇ。そもそも、恩人に謝礼を払えてねぇこっちこそ知りたいくらいだぜ」


 バルカンさんも私との約束どおり、しらを切りとおしてくれた。


「……そうですか、何かわかったらすぐお知らせくださいね。ギルドの受付さんも」

「えっ、は、はい」


 ゲンチーナさんは最後に私たち全員を睨むように見て、城壁の上へ向かう階段を上がっていった。

 その背中が小さくなった頃を見計らって、隣からバルカンさんがぽそっと話す。


「すまねぇな。ここまでしつこく探られるとは思いもよらなかった」

「あ、いえ……治療院で一応診るよう言ったのは私ですから……」


 あのとき「しっかり治った」と『鑑定』で確認したのだから、それで終わりにしておけばよかったのかもしれないけど、私は大きく損傷した腕を初めて治したのだ。「治ったので治療院に念のため診てもらうことは不要です」と言えなかったので仕方ない。


「おーい壁張り職人、城壁に上がれ!」

「はい、行きまーす!」


 ポーションなどを運ぶのが終わったみたいで、城壁担当の騎士さんに呼ばれた。

 私も収納魔法にポーションを入れているけど、今回は騎士団が用意してくれた物もありがたくもらうことにしよう。バルカンさんの話から油断は禁物と思ったし、長丁場になるかもしれないのだから。あと、同じく三年前のことを言っていたフェリオさんとの約束のためにもね。


「では皆さん、お気をつけて!」


 私は『羊の闘志』さんたちと別れて、城壁の上へ向かう階段へ走った。

 さあ、ここからだ。ハートのメガネも引き続き着けているし、上がった運の値で戦闘もいい方向に向かうはずだ。


「ぜーはー、……上までの距離が長い……」


 私は上まで一気に上がれず、途中からゆっくりと歩いた。とあることに気づいたからでもある。


 ――そういえば、私は彼女がどこに(・・・)向かったのを見ていたっけ、と。


 私はもうあと片手に足りるくらいの段差を登るくらいまで来たとき、頭上から声が聞こえていた。


「あれっ、ジュリアちゃんもこっち担当なんだ~」

「わいが怪我したら優しく治してや~」


 ……ハートのメガネは壊れたのかな。

 こんな大事な戦闘に治療院さんとも同じ持ち場だなんて。




シャーロットの視界に入ってない(笑)、あの二人も登場か……?


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