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121: 満月の夜の戦闘準備① ~城門前にて~



「よし、持ち上げるぞ!」

「せーのっ、……この箱、重っ!」


 私は西門に、一人で待機していた。

 空を軽く見上げると、明るい満月がぽっかりと浮かんでいる。まだ登っていくだろう。


 騎士の人たちが、子供一人くらい入ってしまいそうな大きさの箱を城門の上に運んでいて、私はそれが終わるのを待っていた。

 中身は体力回復ポーションや魔力回復ポーションなどで、私も使うことになるはずだ。気をつけて運んでもらおうと静かに待っている。すっかり日が落ちたけど、松明の明かりがあるから特に危なげなく運んでいくけども。

 光魔法使いさんたちなら、もっと明るくさせることができるけど、彼ら彼女らは魔力を温存しなければならない。足元を明るくするくらいで魔法を使うことはなかった。


「――今回はスタンピード戦と違い、多種多様の魔物と戦うことになる! いつも以上に気を引き締めろ!」


 魔物討伐隊長さんの声が少し遠くに聞こえる。

 確かにスタンピードでは、一回の戦闘内で種類がほぼ固定される。

 マルデバード戦のときのように、一種類の魔物がいる区画が溢れたらその魔物とだけ戦闘になるし、ワイルドウルフとラピスラズリウルフ戦は、ボス的存在がいる区画が溢れたから二種類の魔物との戦闘だった。二つの区画で同時に起こったウォータースライム・フローズンスライム戦は、かなり珍しい例だ。


 でも今回は、会議で特に注目していた新種の魔物の他にも、複数の種類がいるというのだ。珍しい現象だから、会議では連携を入念に確認していた。


 そういったことから、整列している騎士の皆さんにはいつもより緊張が窺える。

 皆さん、無事に帰ってきてほしい。

 私もさっきの騎士見習いのことは置いといて、気を引き締めていかないと……!

 と、私も気合を入れ始めたとき、場違いな声を耳にする――。


「――メロ……ィー……メロディーがいる!」


 もちろんそれはアルゴーさんだった。

 規律正しい騎士団では珍しく、まるで遅刻してきたかのようにこっちに走ってきていた。一人ではなく、二人の騎士に挟まれている。

 あの会議室乱入事件のあとだし、もしかして今回は城内の配置なのかなと思っていたけど、ドアで人を殴る力は魔物相手にも大いに役立ってもらおうということだろうなぁ。


 さて、アルゴーさんは奥さんの名前を叫んでいるけど、メロディーさんはもう避難しているからこの場にいるわけがない。

 とうとう幻覚を見るようになったのかな……ん、おや?


「あなた~~! がんばってくださいまし~!」


 本当にメロディーさんの声だ。

 ここからでは遠い。どれどれ、ハートのメガネでよく見てみよう。

 んーと……いたいた。

 どうやら騎士の奥様方数人で、それぞれの旦那さんを応援しようと足を運んだみたいだ。「アンター、信じてるからね!!」「稼いでくるんだよ!」などと声援を送っている。


 それにしてもアルゴーさん、なんでメロディーさんがいる方向がわかったんだろう?

 向いていた方角とは反対にいたのに。『探索』スキルも増えたとか? いや、そうではないなぁ。


「メロディー……! メロディーに恐怖を与えたあのクソガキはやっつけたぞ、大丈夫だ!」


 アルゴーさんは遠くのメロディーさんに大声で報告しているけど、ハートのメガネ越しに映る彼女は不思議そうな顔をしていた。

 ま、アルゴーさんが何のことを言っているかわからないよね。……ははは。


「俺は必ず帰ってくる! すぐに終わらせて帰ってくるからな! そしたら二人でいろいろ話そう。最近、忙しくてゆっくりできなかったからな。メロディーの好きな店に行こう! 好きな物も買ってあげるぞ! それから……」


 アルゴーさんは、これまた大きな声で遠くのメロディーさんに向かって叫ぶ。

 これ以上は、何だかフラグ的なものが立ちそうだから黙ってほしい……。そう思っていたら、アルゴーさんを挟んで立っていた騎士さんたちが、彼を蹴りながら押さえた。


「アルゴー! お前はそんなこと言ってる場合かよ~。壊した寮のドア代がかかった戦闘だろ」

「目覚ましい活躍できへんかったら、給料から差っ引くって言われたやろ! なんで見習いの部屋のドア壊してんねん!?」


 ……なるほど、乱入時アルゴーさんが持っていたドアは、あの金髪の騎士見習いの、イパスンと呼ばれていた人の部屋のドアか。もしかして家捜しを強行したのかな?

 それにしても、アルゴーさんを押さえている二人、見たことあるなぁ。


 あ! 以前メロディーさんのお家の夕飯に誘われたときに、ご一緒した二人だ。獣人の騎士さんと、ダークエルフの騎士さん。

 二人にはそのとき、移民試験でぬきうち試験されたんだよね。……いや、直接確認してないけど、きっとそうだよ。


「ちょっ、向こうに行こうとすんな!」

「奥さん方! (はよ)う避難所に行って!」


 二人はアルゴーさんを押さえつつ、メロディーさんたちに早く立ち去るよう叫ぶ。


「は、はいっ。あなたっ、どうか無事で、ご無事で帰ってきてくださいまし~!」


 メロディーさんは最後に大きく手を振って、他の奥様たちと避難所へ急ぎ足で去っていった。

 アルゴーさんはというと、メロディーさんが去ったことでようやく動きが止まった。

 騎士の二人はやれやれといった様子だったけど、『鑑定』スキルでアルゴーさんを見ていた私はびっくりした。


「メロディー、俺は、必ず元気に帰ってくるぞ――!」


『耐久:3125→3850』


 固く決意したアルゴーさんの耐久値が、急に上がったのを見たからだ。

 と、突然どうしたことなのか……。

 何だろう今の。

 これも『愛のチカラ』スキルと関係あるのだろうか……。メロディーさんの応援を受けて?

 しかも徐々に上がり続けている。なかなか興味深いスキルだ。


 あ、アルゴーさんを捕まえていたあの二人。やっとおとなしくなった彼の後ろで、自身の指を自身の鼻に突っ込んで、それをアルゴーさんの鎧の後ろに擦りつけている……。二人とも同じ動作だ。

 やっぱり、あの噂どおり二人は仲良しなんだなぁ。


 とりあえずメロディーさんのこともあるし、アルゴーさんには無事に帰ってきてほしいね。……今は近寄りたくないけど。



(わけ)ぇなぁ」


 私が騎士団のほうを見ていたら、横からため息交じりのバルカンさんの声が聞こえた。『羊の闘志』たち五人が近づいてきたのだ。



おまけ

・今回の話の序盤を覚えておくと……?



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