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012: 同僚④ ~盗賊の面目丸つぶれ~



 宝石泥棒にギルドにあった何かを盗られてしまった。


「何を盗まれたのでしょう……。私、何か置き忘れたかしら」


 盗られたという事実を受けて、置きっ放しにしていた物がないか考えているメロディーさん。


「カウンターには買い取った物は置いてないな」


「はい。規則どおりにしまってます」


 フェリオさんに聞かれ、カウンター周辺を確認しつつ答える私。

 カウンター下と後ろにも収納魔法遮断効果のある保管庫があって、その中に買取品を一時置いている。カウンターやその脇などに放置したままにはしない。

 カウンターの上は、紙や筆記用具くらいしか置いていなかった。紙とは、これから掲示しようと思っていた依頼書や、依頼や完了したときに書いてもらう紙の束のことだ。


「おらぁ! 何盗んだ! 吐け!」


 冒険者もこのくらい荒っぽい人が多いけど、この町の衛兵さんも大概だ。

 私の障壁をガンと殴る。

 今は両面ともはじく構造にしてあった。


「ふっ。ふふ~んだ! うちらも攻撃できないけど、あんたらもできないようだね!」


 攻撃されないとわかって、調子に乗っている女盗賊。口調もさっきの女性らしさが抜けて、はすっぱな物言いになっている。


「あ、いつものにしますね」


 それを見て、私は障壁を黄色から青色に変える。

 内側から外側への遮断効果があるけど、外側から内側への干渉はできるタイプだ。

 この構造の壁は、低級魔物のスタンピードが起きたとき毎回使用している。衛兵さんたちにもお馴染みだ。


「はい。これでいいですよ」


 構造を変えたことを色で示し、外側からの干渉を可能にしたことを伝えた。

 言った瞬間、衛兵の拳が男性盗賊その一を完全にとらえた。

 拳を食らった途端慌てる盗賊たち。

 盗賊たちは逃げられないけれど、衛兵は出した拳を障壁の外へ引っ込める。相手は反撃のしようがないので、安全に殴ることが可能になった。

 前世ではこんなあからさまに暴力的な供述を取らないけど、この世界では犯罪者にそこまでの人権はない。卑怯(ひきょう)という言葉も誰も言わない。

 我々ギルド職員も衛兵が自白させるのを待つだけでなく、何が盗まれたか捜すことに集中した。


「金庫にしまうのはいいとしても、ちゃんと(ふた)を閉めていたのかい」


 素材保管庫を、全部まとめて「金庫」呼びするサブマス。今日買取した分の書類と、素材を突き合せて数を確認している。いつもなら野次馬根性を発揮するサブマスが珍しい。……あ、会計担当だからか。


「しっかりと閉めていたはずですわ……」


「他の物もちゃんと入ってますよ。空いていたら全部抜かれるはずだから、大丈夫かなぁと……」


 保管庫を一個一個開けたら、中身はそのまま入っていた。最近入れた記憶のある薬草も入っている。


(あ、箱の後ろ、ゴミがたまっているなぁ。時間あるときに掃除しよう)


 余計なことを考えているのは秘密だ。

 カウンター上を見ていたメロディーさんはふと前方を見て、列をなす冒険者たちに気づいた。


「申し訳ありません。お待ちいただいてよろしいでしょうか」


 大半からは許可が下りたけど(用事よりこの捕り物の見物がしたいらしい)、一組だけ「俺ら、もうここを出る予定なんだが、何とかならんか」とのこと。


「そっちのカウンターだけやってても大丈夫ですよ」


 メロディーさん側のカウンターのみ、業務を再開させる。先に並んでいた人たちも、急いでいるそのパーティーに先を譲った。

 その人たちの用件が終わって、書類に必要事項を記入していたメロディーさんが、突然「あっ!」と声を上げた。


「シャーロットさん! わかりましたわ! ペンですわペン。フェリオさんにお貸ししていたペンですわ」


 え。

 確かにあれはなかなか精巧な作りで、キラキラとしているかわいいペンだけど。


「まさかー。あのペン、銀貨二~三枚くらいですよ」


 相手は宝石泥棒ですよ、メロディーさん。

 久々に見たクリムゾンサーペントの皮でもなく、ダンジョンでドロップしたというエメラルドリングでもなく、私のペンであると?


「はあああ!?」


 障壁内にいる、やけにぼろっちくなった女盗賊が叫ぶ。


「ふざけんじゃないわよ! 銀貨二枚なわけないでしょ!」

「全面に宝石がついてっだろ!」

「白金貨十五枚はくだらないペンだろうが!」


 三人とも障壁をガンガン叩いてわめいた。

 この時点でもうペンを盗んだことが発覚したのだけど白金貨十五枚って……。それこそネックレスや指輪じゃないんだから。


 あぁ、でも。貴族の子供が成人したお祝いとして、家長が息子に贈るというペンは、それくらいするのかな。古くからある風習で、泥棒たちの国にもある。

 でも、庶民の私が持つわけ…………。


 あ、フェリオさんがいつもいる位置に置いてあったからかな。

 この三人組が来たのは、フェリオさんが二階に上がったあとだけど、その前にギルド内を確認していたのかも。

 フェリオさんなら羽があるから外見からして妖精族だ。高級ペンを持っていてもおかしくないと思ったのかも。妖精族は、自分の愛用品にお金をかける人が多いし。

 私はペン泥棒に向き直る。


「……あの虹色のペン盗んだの? それは私の。魔石(くず)をふんだんにちりばめてるんだからね。元は銀貨五枚くらいするものなの。半額で安かったんだから」


 盗賊に敬語を使う必要がないので、地の口調で抗議する。

『高級ペンに似た外見で、庶民でも持てる安価なペン』という売り文句で販売していた私のペンは、安価といっても前世の感覚よりは高いと思う。大量生産ができるわけではないし、かなり頑丈だ。

 人気が出たから新しい型を作り、古い型を半額で売っていたのだ。半額でも高いほうだけど、きれいだったので奮発した。


「ぶっふ! 宝石泥棒が銀貨三枚のペン盗むとか!」

「ねーちゃん、それホーンラビット三匹分ってところじゃねぇか?」


 カウンターで野次馬をしていた人たちが、楽しそうにしゃべり出す。

 なぜだかおなかを抱えている人たち。


「それくらいですかね。肉以外買取に出すとそれくらいかな」


「はっははははっははは!!」

「ぐっふふふふ。ひひひひ」

「くすくすくすっ」


 ここでまた、どっと笑いの渦。

 それを見て女泥棒は顔を真っ赤にして、私のペンを投げつけた。

 内側の障壁に当たってペンがはじかれる。続けてだんだんっと踏んだ。


 見かねた衛兵さんが殴った勢いで女泥棒を退()かす。そして、ペンを拾って私に返してくれた。

 私の作った障壁は、外側の者が意思を持って何かを掴めば、障壁外に持ち出すことも可能なのだ。先ほどはじかれたペンも、するっと私の元に戻ってきた。


「ありがとうございます」


 拾ってくれた衛兵さんにお礼を言う。そして、少し()に落ちないので、爆笑していた冒険者たちにペンの説明をする。


「皆さん笑ってましたけど、このペンは北の通りの魔石専門店さんので、そこそこお高いんですよ。こんなにかわいいのにすごく使いやすいし、長持ちするペンなんです。投げつけられても、踏まれても、全く壊れない頑丈なペンなんですから。――間違って盗むのもわかります」


 なぜかペンの説明というより、紹介になってしまった。


「すまないシャーロット。借り物だったのに……」


「いえいえ。このペン、何か秘密の製法で作ってあるんで壊れにくいんですよ。以前、トロールに踏まれても大丈夫でしたし。もし盗られたままでも、また買えばいいんです」


 フェリオさんに謝られたので、全く傷がついていないペンを見せた。

 私が力説している間に、衛兵さんたちが全員捕縛(ほばく)したらしい。

 心なしか、三人ともプライドが砕けたような意気消沈した顔だ。


「さあ、向こうでゆっくり聞かせてもらうからな。壁娘、この壁片付けていいぞ」


 ……わかりましたけど。私の称号欄が心配だ。

 連れていかれる犯人を見て、冒険者たち(と一部の職員)は楽しそうにしていた。


「価値がわからんなら盗賊やめちまえ! ぶっふ。向いてねぇよ。ふくくっ」

「宝石泥棒、魔石専門店のペンを盗む……。ぶっふふふふ!」

「愉快な泥棒だね…………っくく」


 引っ立てられていく盗賊たちを見ながら、私は何となくわかっていた。

 盗賊たちの国の技術では、こんな精巧なペンを銀貨の単位で買えないということを。


 この国はいろんな種族が集まって、(せっ)()(たく)()し情報を交換しているから、技術力が他の国より優れているのだ。

 対する盗賊たちの国は、奴隷制こそないものの、種族によって明確に身分が分かれていた。技術力があっても身分の壁が原因で、出る杭は打たれてうまく回らないのだと思う。


 そしてそれは、この国の初代国王が多種族国家を作ることに力を注いだ理由だったんじゃないかな。

 人も、獣人も、エルフも、妖精も、ドワーフも、いろんな種族が交じって刺激し合って、いい国にしよう、いい物を作ろうって思ったんじゃないかな。

 私もここに来る前はいろんな国を回ったけど、やっぱり活気が違うもんね。



 ▽ ▽



 後日、件の魔石専門店の看板には、


『売れてます! 宝石泥棒も間違うほどの輝き! 一人一本、持って損なし! プレゼントにもおすすめ!』


 という(しょう)(こん)たくましい文字が並んでいた。

 さらに、使用者の声として札が立ててある。


『かわいくて、書きやすい! 魔物に踏まれても壊れない優れ物です! (十七歳・事務職女性)』


 隅にピンク髪の女の子の絵付きだ。


 それを見て私は、店の真ん前で腕組みをして、乗り込んだあとどこから突っこむか考えた。



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