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118: 会議に参加する② ~その光の色は~



『羊の闘志』のリーダーであるバルカンさんが、会議室内に声を響かせる。

 彼はドワーフ族で、身長は冒険者内でも、『羊の闘志』メンバー内でも、高いとは言えない。だけど今は座っているにもかかわらず大きく、重量感を感じた。答えによってはただでは済まさない、という圧力が感じられるのだ。

 室内はしんと静まりかえった。

 そんな中、同じく指名依頼をもらったギルマスが腕を組んだままその静けさを破る。


「……この文面だとよ、まるで及び腰の冒険者どもを、指名依頼で引き留めているように見えなくもないだろ? 俺たちはその辺の真意を聞きたいわけだ」


「……ほう、そのように捉えてしまいましたか」と、団長さんが自身のくちばしをかちんと鳴らした。

「真意というならば、確かにただの指名依頼ではありません――。我々からの感謝を込めた『指名依頼』です」


 その言葉に私たち冒険者側は、一瞬きょとんとする。『感謝』とはまた、思ってもみない言葉だったからだ。

 団長さんは続けた。


「冒険者たちが消極的であり、及び腰? まさか。先日は、あのブゥモー家の者たちを根気強く追って捕まえてくださったのですから。返礼として『指名依頼』を用意したのです」


 彼が考えていたのはとても簡単なことだったようだ。


 ――冒険者への一番のお礼は『指名依頼』である――。


 以前にも孤児院の院長さんがそうアドバイスされて、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人に指名依頼を出したんだっけ。


「お礼を凝りすぎてしまったようですね」と言う団長さんに私は、そういえばこの場にいる冒険者たちは全員あのとき馬車を追っていた人たちだった、と改めて思った。コトちゃんたちも追いかけていたけど、さすがに学園生をこの戦いに参加させることはないようだ。


「この場にいれば、ご領主もそうせよとおっしゃったことでしょうからね。……目の上のたんこぶがなくなるというのは、大変爽快感があります。ふふふふふ」


 集められた冒険者が「そういうことなら」と、お互い目で頷き始めたところで、団長さんは変な含み笑いをもらした。彼が悦に入る様子に、彼の周りにいる騎士さんたちも少し口の端を上げていた。

 私たち冒険者側はその様子に少し驚きつつ、彼らを見る。

 この町の領主様は、ただ今、王太子様のお祝いのため王都へ赴き、まもなく帰ってくる。

 その領主様の意思をよく酌んでいるであろう団長さんたちは、長年溜まっていたものがあるらしい。彼らは私と同じく二年前にこの町に来た。それまでは西側にいて、ブゥモー家とは領地が近いこともあり、小競り合い状態だったとメロディーさんから聞いたっけ。


「おっと……ゴホン、これは失礼……。とまぁ、向こうとは多少の確執がありましてね。こちらとしては大変感謝をしているのです」


 我に返った団長さんが、気持ちを酌んではくれないか、と聞く。

 バルカンさんは「そっちの事情はよくわからねぇが」と関わりたくなさそうな雰囲気を出し、こう続けた。


「俺らは、子供を誘拐する卑劣な奴らを追いかけただけだ。まぁ、そういうことなら俺はその指名依頼、受けてやるぜ。……時間がねぇところ悪かったな」


 バルカンさんが続きを促すと、他の冒険者さんたちもそれに倣った。……たぶん団長さんの晴れ晴れしい笑顔に、何か不気味なものを感じたからだ。


(あ、でも私は……)

 彼ら冒険者たちはいいとして、私はあのときブゥモー家四男を追いかけないで反ものを拾っていたんだけど、指名依頼をされてよかったんだろうか。


「ご理解くださったのであれば説明を始めます」


 ――まぁ、私のことはあとでいいや。ここで会議をまた中断させるわけにはいかない。


「魔物の集団は完全に日が落ちてから来るとのことです。魔物を視認しだい、鐘を四つ鳴らします」


 団長さんは説明を始める前に、魔物来襲時の町の流れを話した。


「既知のことと思いますが、鐘を鳴らすとともに光魔法でさらに詳細をお伝えします。拡声魔道具がまだ使用できませんので……。魔物は西から来ることになっていますので、赤い光が打ち上がります。なお、ないとは思いますが……」


 団長さんは自身の固いくちばしをまたカチンと鳴らして、言いたくなさそうに言葉を続けた。


「東の方角――スタンピードが発生した際は、青い光を打ち上げます」


 この場にいる皆が静かに頷く。

 ――青い光は見たくない――と思いながら。


 アーリズの町はいつでもスタンピードが起きてもいいように準備しているし、ぜひ、いつでも来てほしいと楽しみにしている節もある。しかし今夜だけは「スタンピードよ、お願いだから少し待ってくれ」と思っている人ばかりだ。

 魔物の大群は西から来ている。スタンピードが起きれば、この町は魔物に挟まれてしまう。


「資料を確認してください。配置を詳しく説明します」


 団長さんは伝達についてを早々に終わらせ、本題に入った。

 町を守る戦いと言っても、アーリズ内に立て籠もるような配置ではない。この町にギリギリまで近づけさせるものの、城外で一斉に攻撃するような配置だった。

 西の門の先は森に囲まれた長い街道があり、森を抜けた先は小高い丘になっている。デココ領からやってくる魔物たちは、まずその丘に登り、下りた先の森に挟まれた街道を進んでくるはずだ。


「もちろん街道に入らず森を直進する魔物もいるでしょうが、この大型の魔物は街道に入らざるを得ません」


 団長さんは、私たちが見たことのない魔物を指して言う。『魔物図鑑』に載っていないその魔物は身体が大きいので、街道を通るはずだ。そこを集中して攻撃しようという作戦だった。

 もちろんこの町に近づいてくる魔物は、この新種らしきものだけではなく、注意が必要な魔物もいる。ただ、情報が少ないために、他よりも重要視してこのような作戦にしたようだ。

 それに対して私たち冒険者側は質問をし、意見を出して、自分たちの戦闘時の動きを考える。冒険者側はいつものスタンピード戦のように、遊撃隊のような役割を求められたからだ。


「デココ領内で討伐された魔物や、領内にまだ残っている魔物もいて、当初発見されたときよりは少なくなっているはずです。何としてもこの町を守……」


 意見が飛び交い皆がそれぞれの動きを把握して、団長さんがこの会議を締めようとしたそのとき――それは鳴った。


 ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン、ガラーーーン。


 聞き慣れた、だけど今夜ばかりは重く感じる音だった。

 さっき八の鐘を聞いたばかりだ。今日は短時間にずいぶんと鐘の音が響くなぁ、と私は少し思った。


「――やはり異様な魔物の集団のようですね。予想以上に早い……」


 団長さんはうめいた。他の人たちもだ。

 皆窓の外を見て、光魔法の弾数を確認しようとする。

 なぜなら赤い光であることは明白だと、思っているからだ。

 

 弾数でその規模を再確認しようとしているのだ。

 しかし、弾数を数える前にこの場にいる一同は驚くことになった。

 もしかしたら、私が最初に驚いたのかもしれない。

 私は先ほどのハートのメガネを、頭から目の位置に下ろし、外の少し小高くなっている場所にいた光魔法使いさんを見た。

 その人が持っている杖は少し震えていた。震えつつも光を杖の先端に作り、上空に放つ。


「なっ――!!」


 光の色を確認した人が驚きの声を上げる。


 その光は藍色の上空でも、青く輝いていた。

 誰が見ても見間違えることのない、青々とした光だった。


 私たちは――アーリズの町はこの夜、魔物たちに挟まれたのだ。



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