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113: 魔物が来る、その前に② ~みぃつけた~



 二階に上がってきた冒険者に向けて、ギルマスが慌てた声を出した。


「何!? 早すぎんだろ。まさか、もうそこまで来ているのか!?」

「あっ、いや! すまん! 魔物はまだデココ領内だ。おそらく、ここにたどり着くのは今夜くらい……。い、今のこの鐘の音は門を閉める合図の鐘だ」


 大慌てで来た冒険者さんは、説明不足だったとして詳細を話す。

 なるほど、確かに鐘の音は聞こえるけど、今は四つの鐘の音がしたと思ったら、五つめが鳴り出している。門を閉めるということならあと三つ、つまり八つの鐘を鳴らしている最中なのだろう。


「そうか……いや! 今夜に戦闘というのもかなり早い。――デココ領の防衛はどうなってんだ、魔物がそんなに強いのか?」


 ギルマスはそれでも早すぎると不審げな顔だ。

 予想ではもっとあとに戦闘になると考えていた。だから学園生を今まさに町から出そうとしていたのに……。


「魔物も強いし数も多いのはさっきからの情報と変わらない……しかし、一番の問題はそこじゃない! デココ領の領主が家族を連れて逃げ出しちまったんだ!!」

「……はぁ……? 何だと!?」


 ギルドに情報を持ってきた冒険者の人は予想外のことを言って、ギルマスを始め、聞いていた皆を驚かせた。

 なんと自身の領を守るべき領主が、すべてを放り出して逃げてしまったというのだから。


「……っ。こうなっちまったんならしょうがない。――とりあえず、学園生は全員すみやかに宿に帰ってもらう」


 町から出られないのなら残ってもらうしかない。ギルマスが学園生に向けてそう指示を出したあと、学園生たちはやっと自分たちの望みがかなったことを理解した。


「や、やった~~!!!」

 学園生の皆が大喜びしたけど――。


「おいこら! 町に残るからといって、戦闘に出るのは許可しとらんからな」


 ギルマスは戦闘へは出さないと念を押した。

 コトちゃんはそれでも私の方を向いてにこやかだ。


「嬉しいっす! 皆で町を守れるっす!!」

 ざわざわとしている廊下で両腕を真上にかかげていた。


「よかったね……あ! さあさあっ、皆一階に下りて。一旦宿に戻ってね」

 ふと気づくとギルドのトップ二人に睨まれていたので、学園生に一旦帰るよう促しつつ、私も学園生と一緒に下りる。何を言われるかわかったものじゃないからね。


「シャーロットさん! やっぱりボクにスキルがあったっすね! ギルドマスターさんはああ言ってるっすけど、ボクたちきっと戦うっす!」

「え、う、う~ん」


 まだ興奮気味のコトちゃんへの返事に、私は言いよどんでしまった。先ほどのギルマスやサブマスの雰囲気からして、コトちゃんたち学園生が戦う場面があるのだろうか――と。

 ギルドのトップ二人は、危険な場所に学園生を出すことはないと思ったのだ。


「それとボク、称号が気に入らないなんて失礼なことを思ってたっす。反省して、これからは称号を大事にするっす!」


 それはしなくていいよ……。

 私がそう思いつつコトちゃんの両隣を見ると、ワーシィちゃんもシグナちゃんも呆れた目をしていた。昨日と違うことを言っていると思っているに違いない。


「……とにかく、皆は静かに待機ね。慌てないようにね。……大丈夫だから」


 私は一階に下りて学園生を見送った。コトちゃんのようにやる気にあふれている生徒もいるけど、不安な顔をして宿に戻る子もいた。だからその子たちには気休めでも「大丈夫」と言ってあげたのだ。

 いくら領主が逃げて統制が取れなかったとはいえ、こんなにすぐに魔物が侵攻してくるなんて、普通は怖いもんね。――というか、我らがアーリズの領主も、王都に行ったまま戻ってないから領主不在という点では変わらないのでは。まぁ、逃げたわけではないし、騎士団もいるから大丈夫だろう。


 日が傾き始めたことで長くなった彼女たちの影を見送ると、カウンターに一人の騎士がいることに気づいた。カウンターに残っていたメロディーさんに、「町の防衛のため鐘を八つ鳴らし、門を閉じた」旨を話していた。それと一緒に、何やら数通の手紙も渡している。


 私の知らない騎士だった。

 それを受け取ったメロディーさんは手が震えているように見えた。フェリオさんやタチアナさんはカウンターにいない。カウンターをメロディーさんに任せて、別室で『魔物図鑑』を調べているようだ。


「た、確かに、受け取りまし、たわ……」


 メロディーさんは声もカタカタ震えている。「魔物が、魔物が」とつぶやいているので、たぶん町に来る魔物に怯えているのだろう。彼女は最近では荒事に慣れてきたとはいえ、まだこの町に来て間もないのだから仕方ない。

 でも一応、この騎士がメロディーさんを脅したわけではないことを確かめるため、『鑑定』スキルを使ってこの男性騎士を観察した。


(そういえば……拡声魔道具が壊れたから、重要なことを町に知らせる場合は、騎士が直接町中に伝えるって知らせがあったなぁ)

 実際に今、冒険者ギルドの正面を別の騎士が、現在の状況を叫びながら横切っていった。


(この人も若いし、見たことない騎士の人だから見習いさんか)

 町に大声で伝達するだけだから、見習いさんが駆り出されているんだろうな。んで、ついでにギルドに手紙を渡してきてと、お使いを頼まれたんだろう。


(名前は、ルレバー・デココさんか。……ん? デココ?)


 彼は若い見習い騎士という他にも特徴があった。


(金髪に……、青い瞳……)


 ついさっき聞いた『デココ』という名前と、彼の外見的特徴に、私の頭の中でだんだん何かが繋がっていく。

 そして、とうとうがっちり繋がることに成功した。


「あ、イパスンじゃ~ん。ギルドに来るのって初めてだよね」

「イパスン~、お使いなの?」


 私の目の前にいる騎士に、ギルドのロビーにいた女性冒険者たちが気やすく声をかけたのだ。

 彼女たちは目の前にいる金髪の騎士に向かって「イパスン」と呼んでいる。

「イパスン」という人物は会ったことはなくても、噂には聞いている。

 確か、最近起きたスタンピードのときに、やってきたマルデバードと間違えて騎士団長を矢で撃ってしまった人。メロディーさんの旦那さんが、金髪の騎士として名前を教えてくれた人物。



(イパスン……。ルレバー・デココ…………)



 ふうん。


 ほお……、

 ほお、

 ほおおお。



 ――みぃつけた――。





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