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112: 魔物が来る、その前に① ~学園生の決意~



 学園の生徒たちが、ギルドの二階の廊下にぎゅうぎゅう詰めになっている。その先頭でがに股で立っているコトちゃんの元気な声が響いた。


「ボ、ボクたちにもやれることがあるっす! だから町に残るっす! 帰れって言わないでほしいっす!!」


 ――そうだ、そうだ――!!


 コトちゃんに続いて学園生の声も威勢よく響く。

 皆で帰りのあいさつをしに来たと思ったのに、どうも戦う意志を表明しに来たみたいだ。

 でも巨体のギルマスと対峙しているからか、足ががくがく震えている生徒もいた。私も廊下に出てギルマスの後ろに立っていたから、その様子が確認できた。


「……ここに残って町を守りたいってか。気持ちは嬉しいがな、今は……」

「ボクたちはこの町に修業に来たっす! どんな状況でもそれは変わらないっす~!」


 落ち着いた声のギルマスに、コトちゃんがかぶせるように抗議する。そのあとに「邪魔にならないように戦います!」「自分らにもできることがあるはず!」など、他の学園生も口々に戦闘への意欲を語った。

 それにしてもすごいなぁ、アーリズに来た学園生全員が揃っているんじゃないかな。午前中にギルドに来た数組は帰る様子だったのに……。これはやはり、先頭のコトちゃんが説得したんだろうか。何か計画している顔だったもんね。

 そんなことを考えていると、この人も廊下に出てきた。


「学園の子はいつの年も元気だけど、こういうときは厄介だね」


 サブマスが、長生きをしてきた人特有な発言でやってきたのだ。

 サブマスはこの町に来る前には王都のギルドにいたし、学園生は王都にも修業に行くらしいから、毎年学園生を見てきたことからくる言葉なのだろうなぁ。

 そして会議中の他の冒険者たちも廊下が気になるようだ。――あ。コトちゃんの行動を懸念していたパーティーリーダーも廊下にやってきた。


「くぉぉらっ! コト! やっぱりお前ぇかっ!!」


『羊の闘志』のリーダーであるバルカンさんだ。先日、孤児院の前で貴族に怒っていたときと同じ音量の怒声だった。

 ギルマスの隣――コトちゃんの正面に、圧力をかけて立つ。


「き、危険だっていうのはわかるっす。で、でも、ボクたちはそれでも帰らないっす……!」


 あのとき孤児院前ではバルカンさんの声に驚いて尻もちをついていたコトちゃんだけど、今度はコトちゃんどころかワーシィちゃんもシグナちゃんも、三人ともふんばって何とか立っていた。


「コト。今回のは魔物の質が違うんだ。お前ぇらがいると邪魔だ!」


 バルカンさんがギルマスと廊下に並ぶと圧迫感がある。生徒の中には後ろに後ずさる子もいた。

 それでもコトちゃんを含む大多数は、その場から動かない。

 バルカンさんは子供のことを気にかけてくれる優しい人だ。以前、森に魔物が現れたときも、孤児院の子たちが森を使えるようにと、すぐに倒しに行ってくれたこともある。きっと学園生のことも心配して怒っているのだろう。


「コト、お前ぇ称号をもらったってんで、いい気になってんじゃねぇか? ……しかもシャーロットの称号と似てると喜んでんじゃねぇだろうな」


 バルカンさんは称号のことを持ち出して、コトちゃんの気が大きくなっているのではないかと指摘した。私なら言いにくいこともはっきり言ってくれる。しかし――。


(バルカンさん……、称号のことはコトちゃん自身気づいてなかったのに……)


 私はコトちゃんの表情をよく見た。称号名に不満を持っていたコトちゃんは、今は考える素振りをし、だんだん笑顔になっていくのを確認した。たぶん、私の称号と似た部分を見つけて(似てると言っても最後の『人』くらいなんだけど)「お揃い!」などと考えているに違いない。


「ちっ! ニヤニヤすんな!!」


 目をキラキラさせているコトちゃんに気づいたバルカンさんが、盛大に舌打ちしていた。

 というか、魔物が来るまでに時間が限られているのだし、ここは私も仲裁に入って早く場を収めたほうがいいのではなかろうか。

 そこで私は「まぁまぁ、その辺で」と前に進もうとした……んだけど、前に進めないなぁ。ちょっと、左右の肘が邪魔ですよ。


「――シャルちゃん」


 肘を退けて前に進もうとしたら、私の左側にサブマスがいた。サブマスの肘だったらしい。しかも私が前に進めないよう、わざと私の邪魔をしていた。


「シャーロット。お前は出てくんな。ややこしくなる」


 右側にいたのはギルマスだった。二人して私が前に出ないようにしていたようだ。


「え、いや、ややこしくさせるつもりはなくて……」


 時間が惜しいし、もうこうなったら学園生に残ってもらってもいいのでは。町のことを思ってくれるのは嬉しいですし。などと、言いたかったんだけど――。


「そもそも、シャルちゃんが学園の子たちをけしかけたんじゃないだろうね」

 サブマスに変に勘繰られてしまった。


「まさか!」


 そもそも目の前で繰り広げられているコトちゃんの行動は、彼女のスキルによるものだ。


「シャーロットは危険なところに首突っ込むのが得意だからな」

「類は友を呼ぶと言うからね」


 ギルマスもサブマスも信じてくれなかった……。

 私は普段から厄介ごとに首を突っ込むことなんてないのになぁ……。ん? あったっけ。

 ……ってサブマス、お目々が開いてますよ。金の混じった奇麗な緑色の瞳が見えてます。『威圧』スキルが発動しているようですが、私には効かないのでそんなに見つめられても困りますよ。


「……とにかくだ。マーサを助けてくれたのも、ルイをあのくそ野郎から助けてくれたのも、俺ぁありがたいと思っている。お前ぇみたいな元気なやつも好きだ。だからこそ、今回は帰ってくれ」


 私がギルマスとサブマスの肘と格闘しているあいだに、バルカンさんは少しやさしく語りかけていた。――まるで最後の説得というように。


「――ボクは、さっき言ったように断固としてこの町から離れないっす! 絶対に!」


 コトちゃんはそれでも先ほどと変わらない返事をした。

 それを受けて、今度はギルマスが号令を出す。


「……そんじゃ仕方ねえな――実力行使だ。お前ら、こいつら全員とっ捕まえてくれ」


 会議室の出口に来ていた冒険者たちが一斉に動き出した。どうもギルマスの合図を待っていたらしい。

 生徒の一人が「一旦撤退したほうがよくないか?」と、後退したけどそれも難しい。


 一階の階段側にすでに廊下をふさぐように人がいたからだ。

 コトちゃんたちは前方にばかり注意を向けていたけど、実は彼女ら学園生の背後には、一階から上がってきていた冒険者が待機していたのだ。バルカンさんが優しい口調になったのは、彼女が上がってきたのを確認したからだった。


「マルタ! 出番だぞ!」

「はいよ。――ったく、手間かけさすんじゃないよ」


 学園生の退路を塞いでいたのは、コトちゃんたちを探していたマルタさんだ。

 つまり学園生たちは、完全に挟まれていたのだ。しかも廊下にぎゅうぎゅう詰めに並んでいたから身動きも取りにくい。抵抗らしい抵抗ができないようだった。

 私も学園生の助太刀をすることはできない。人でごった返していて障壁が出しにくいし、何より――。


「シャーロット、余計なことすんじゃねえぞ」


 ギルマスが私とコトちゃんたちの間を塞いでいたのだ。サブマスからは『威圧』されている……。

 う~ん、コトちゃんにはがんばってほしいという気持ちはあるんだけどなぁ。でも、この状態でコトちゃんの『閃き』スキルがどのような結果に終わってしまうのかも気になるなぁ。

 なんて考えながら様子を窺っていると、――その結果は、すぐやってきた。

 わあわあ叫んでいる中、新たにもう一人、二階に上がってきていたのだ。


「――な、なんだこの騒ぎは。おい!! それどころじゃねえぞ! 大変だ!」


 その人はギルドに情報を持ってきた冒険者だった。かなり大慌てでギルドに来たようで息を切らしている。


「デココ領が突破されたんだ!!  アーリズに魔物が押し寄せてくるぞ!」


 あんなに騒がしかったギルドの二階が一瞬静かになり、外から鐘の音が聞こえた。




おまけ(これは本日2/14更新日のため):パテシのお店にて。


シャル「なんか、チョコの気分だなぁ」

コト「そうなんっすか?? (じゃ、ボクもシャーロットさんと同じの買おう)」

ワーシィ・シグナ(コトも買おうとしてるな……)

シャル「じゃあ、これと、これとあれと、それとこっちも……あ、その上の段の端から端までくださ~い♡」

コト「……」

シャル「しかもね、チョコをあげる日だった気がするんだよね~。……はい。三人にあげるね」

コト「はわぁぁ♡ シャーロットさんっ……!」

コト・ワーシィ・シグナ「「「ありがとうございます!!!」」」


シャーロット「はい、皆様もどうぞ^^ ハッピーバレンタイン!」


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