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111: 迫りくるもの⑧ ~ボクたちは帰らない!~


 ボクたちがギルドの二階に向かう前夜、ボクはワーシィとシグナと話し合っていたよ。シャーロットさんは寝静まった時間だし、外はもう雷が去っていたから、ひそひそとね。

 満月が近いおかげで、ランプも点けないでこっそり話し合えたよ。


「……どうやってこの町に残るか、だよ」


 ボクは二人を前に、鼻を膨らませて言ったよ。

 この部屋は狭……小ぢんまりとしていてベッドも二人分しかない。ボクたちはそのベッドをくっつけて、いつも三人で寝ていた。今はそこに座り、向かい合って話していたよ。

 ワーシィもシグナもこの町に残ることは賛成してくれたけど、いろいろ問題がある。

 ワーシィが早速、それを指摘してきたよ。


「問題はマルタさんや。……コトがどうしても町に残る言うんならそうなるとして、それならマルタさんが動けへんことが起きるってことか。風邪でも引いてしまうんやろか?」

 するとシグナが、それは問題にならないと首を振った。


「それだとシャーロットさんが治しちゃうんじゃないかしら」

 確かに……自分の腕もすぐ治せちゃうシャーロットさんなら、それくらいすぐだろうな~。


「すごいよね~、シャーロットさん。障壁魔法もすごいのに治癒魔法も一流なんだもん!」


 金髪のおっちゃんだかに矢を撃たれて(腹立たしいよ!)腕に刺さったのに、短時間で治しちゃったんだ。


「コト、そうやって興奮してうっかり大きな声で言わないでよね」


 シグナが釘を刺したのは、シャーロットさんから治癒魔法のことを広めないよう言われていたからだよ。


「シャーロットさん……治癒魔法のことを口外しないでってことは、やっぱり昔大変だったのかなぁ」

「さあね。けど威力の高い治癒魔法を使える人って、過去にいろいろあった人が多いらしいから……」


 シグナが言葉を濁したのを受けて、ボクは学園で教えてもらったことを思い出したよ。

 魔法は、遺伝やその人の能力によって使えることももちろんあるけど、必要に迫られることで覚えることも多いそうなんだ。その中でも治癒魔法が使える人、特に効果の高い魔法が使える人は幼少期に怪我や病気で大変だった人、または家族や周囲の人に治療が必要だったことで、使えるようになったという人が一定数いるらしいんだ。


「シャーロットさん、小さい頃から冒険者やってたらしいもんね」


 だからシャーロットさんがすごい治癒魔法を使えるのは、もしかしたらすんごく苦労してきたからかもしれない。そんな素振りは全然見せないけど……。

 だからボクたちはシャーロットさんの秘密をしゃべらないよ! それに、シャーロットさんの秘密をボクたちだけが知っているなんて、何だか特別な感じがするもんね。


「――あ、うちらだけ残るんやし、城壁の陰に隠れるのはどうやろ」

 ワーシィ、考えてくれるのは嬉しいけど少し違うよ。


「ボクたちだけじゃない――皆、この町に来た学園の皆が残るんだよ!」


「「えっ?」」

 二人は驚いているけど、ボクは本気だよ!


「そんなん言うても……」

「町がこんな状況なら、帰りたいって人もいるんじゃないかしら」


 二人はそれは難しいといった顔でボクを見ているよ。でもね――。


「ボクたちだけじゃだめなんだ。皆でこの町を守るんだ! ――なんか、そう思うんだっ!」


 よくわからないけど、そんな感じがするんだ。

 ボクは強く言ったよ。大きい声だったけど、シャーロットさんは一度寝たら簡単に起きないから大丈夫。


「……しゃーないな」

「……コトが皆を説得するのよ」


 二人はボクの言うことに反対しなかったよ。


「うんっ! ……そうだっ! そのあとは、もう、皆でギルドに行ってボクたちの思いをわかってもらおう!」

 コソコソしたってしょうがないから、ギルドマスターさんに訴えるんだ。それなら堂々とこの町に残れるもんね!




 朝ごはんをシャーロットさんと食べたボクたちは(バレないか心配だったけど何とかなったよ)、とある宿にやってきたよ。

 ボクたちがやってきたその宿には学園の生徒のパーティーが一番多く入っていて、そこで皆を集めてボクの考えを――皆で町に残ってできることをする!――を語ったよ。


「うん、――実は、俺らも残るつもりだったんだ」

「自分らも。魔物がやってきたらチャンスだからね~」


 嬉しいことに賛同してくれるパーティーがいたよ。

 ボクは、そもそも魔物が近づいているって情報自体知らないかなと思っていたけど、この町の冒険者と仲良しなのはボクたちだけじゃない。彼らは、ギルドで会議をしていた人たちからすでに聞いていて、同じ宿の人たちにも教えていたんだ。

 これなら他のパーティーも同意してくれるに違いないと思ったけど、そうはいかなかったよ。


「ウチらは自信ないよ。町から出ることにしたんだ」

「私たちも。冒険者は自身の力量を把握して、勝てない魔物とは戦わないって教わったし」


 二つのパーティーは、すでに帰る用意もしている。


「そんなこと言わないで! きっと何かできることがあるはずだよ! 皆で残ろうよ!!」


 ボクはそのパーティーを思いっきり励ましたよ。町に来る魔物と直接戦わなくても、何かやれるはずなんだ。


「…………」


 でも、考え直す気持ちはないようだよ。


「パーティーごとに考えが違うんだし、その意見は尊重してあげなよ」


 ボクたちと一緒に戦うと言ってくれたパーティーも、帰りたい人は帰ればいいと言うよ。

 ボクだって、普段ならそうしたほうがいいとは思う。

 でもね、それじゃダメなんだ。皆、学園生全員(・・・・・)が残らないといけないんだ。

 何でかわからないけど、どうしてもそう思うんだよ。


「……う~~!」


 ボクは悔しかったよ。ボクたちにできる何かがある気がするけど、それを証明できない。

 ボクは皆を町に残せないのかな……、わかってほしいよ。

 う~ん……こうなったら、力ずくで……。


「――ええんかいな、それで」


 ボクの目の前が見えづらくなってきたとき、ワーシィの声が響いたよ。


「そっちのパーティーは勇者王の旅路にあこがれとったのとちゃうの? 魔物が町に大勢襲いかかってくる――そないな話があったなぁ?」


 ワーシィが話しかけたのは、確かに勇者王のお話にあこがれてたパーティーだけど、それがどうしたんだろう。

 勇者王に憧れている人は珍しくないよ。学園生に限らずね。

 勇者王が訪れた町に自身も訪れたり、踏破したダンジョンにいつか行こうとがんばっているパーティーは結構いるんだ。わざわざ黒髪の男性が仲間に入るまで待つパーティーもいるくらいだよ。

 ワーシィが言う勇者王の話は国中の人が知っていて、町が魔物に囲まれそうになる章はボクも大好き。

 でもそれがどうしたんだろう?


「『勇者王は魔物の群れを遠くに見て、大声で笑い、先陣を切って走り出した』――やったやろ。コトはそれやろうとしてるんや。学園に帰ったら皆の注目の的やろな」


 ワーシィの言うとおり、その章は今の町の状況とそっくりなんだ。

 勇者王が突撃する場面はかっこいいよ。

 でも、ボクは何も無謀に突っ込もうとしているんじゃなくて……って、あれ。言われたパーティーが考え込んでいるよ。

 そのパーティーが黙ると、今度はシグナがもう一方のパーティーに話しかけたよ。


「そっちもよ。そのままのこのこ帰っていいのかしら。コトのことライバル視してたんでしょ」


 ……え、そうなの?

 ボクに「透明じゃない障壁なんて、障壁魔法と言えない」と突っかかってきたことはあったけど……。


「コトは称号までもらって、今度はランクまで上がっちゃうかも。まぁ、それでいいのよね。ちゃんと自身のパーティーのことを考えて偉いと思うわ」


 シグナが挑発的に言ったのに、ボクがそのパーティーリーダーから睨まれたよ……。

 確かに称号のことはボクもびっくりしたけど……あんまりかわいくない称号だよ? ほしいんならあげたいよ。それにランクが上がるなんて、さすがに言いすぎ……。


「~~っ! ウチらも残るよ! 勇者王伝説と同じ体験、しようじゃないか!」

「ふん……、別にコトを気にしてるわけじゃないけど、そっちばかりおいしい思いするのはどうかと思うわ。ランクが上がるのはこっちが先なんだから」


 残りのパーティーが「だからこの町に残る!」って言ってくれたよ。

 ボクはワーシィとシグナを見たよ。二人ともにこりと笑顔でうなづいてくれた。


「ワーシィ、シグナ……ありがと!」


 ボクは嬉しくて何だか顔が、目が熱いよ。

 いつもそうだ。

 ボクがこうと決めてつっ走ってもついてきてくれるし、困ったら助けてくれる。嬉しいときは一緒に笑ってくれる。

 ボクは二人のこと、本当に頼りにしているんだ……!


「よ、よ~しっ、じゃあ他の宿にいるパーティーとも話をしないとね!」


 ボクたちは、この宿に他のパーティーを集めて説得することにしたよ。

 ボクは特にギルドの前を担当した。通りがかった学園のパーティーに話をして、渋ったら障壁魔法でどついて宿に連れていったよ。――あ、どつくっていうのは、シャーロットさんの真似をしたんだ。

 ギルドのカウンターから、無作法な冒険者を障壁魔法で押し出す! かっこいいよ!!



 ――そしてボクたち学園生全員は、ギルドの二階で並んで宣言したよ。



「――ボクたちはっ、帰らないっす~~!」



 直談判ってやつだよ。

 ボクが言い出しっぺだから、代表してド真ん前で声を張り上げたんだ!

 目の前には、見上げるほど背の高い――しかも熊になっちゃうギルドマスターさんが睨んでいるけど、ボクがんばるよ。

 シャーロットさんっ、見守ってほしいっす!!




おまけ

シャル「私がすんごい治癒魔法を使えるのは黙っておいてね!」

コト・ワーシィ・シグナ(……はっ、まさかシャーロットさん、過去に大変なことが……)

「「「……はいっ!!!」」」

コト(シャーロットさんの過去に何が……いやっ、聞いちゃいけない。ボク我慢するっす)

シャル(体を固くしちゃって……守らないと障壁に挟まれると思ったのかな……?)



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