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109: 迫りくるもの⑥



「え、あの~。っわ、私っ、何のことだかさっぱり……」

 私は首をひねってみるけど、彼はまったく表情を変えない。


「フェリオさんの羽???? が、どうかしましたか?」

「とぼけない」

「え~っとぉ、とぼけてるんじゃなくて、さっきのは生返事でしてぇぇ~、何を言っているのか私にはわからなくってぇぇぇ……」


 え、『演技』スキルを発動だ!

 ……いや、『演技』スキルは知り合いにはあまり効果がない。

 そんな!


 ――どうしてこんなことに~~!


「妖精族は年を取るにつれて飛ぶ力も衰えてくるけど、あれから羽の調子、いい。長く飛べる」


 なんと、羽を治しただけではなく若々しさも取り戻してしまったのか~! 確かにさっき、元気よく飛んでいたような……。

 フェリオさんを治したとき、羽の中で魔力の通りをよくするようにしたからかな……?

 アンチエイジング? いや、若返り……?

 いやいや、それは問題ではない。

 こんな時期に――魔物が町にやってくるっていうこんな大変なときにさらっと言われたから、つい返事しちゃったではないか……!

 私は持っていた歴史書を横にゆすりながら、全力でとぼけた。


「羽が、調子いいんですか。いや、ますます私ではないですね! さっきのは、本当に適当に返事をしただけで……、いや、適当に返事したのは~、申し訳なかったんですけど……(ドスン!)っっ!? ……☆&#%!」


 慌ててゆすりすぎたのか、持っていたフォレスター王国の歴史書――分厚くて重たすぎる本を、私の足の上に直撃させてしまった! 本の角が私の足の甲にめり込んだのだ!


「……っくぁ……!!」


 私はあまりの痛さに座り込む。


「大丈夫? 早く治したら?」

「……えっ、いやあ、私、治癒魔法は使えなくって~……」

「何言ってる」


 た、確かに『使えない』は大嘘だった。

 というか、なぜ今ここであのこと(・・・・)を言う必要が??

 マルデバードのスタンピードがあってから、結構日にちが過ぎてますけど!

 それよりもまずはこの足だ。この靴、耐久値があるのにそれでもこんなに痛いなんて。この本は重いし頑丈すぎるようだ。

 こ、こうなったら、治すのに時間をかけて「私にはこんな普通の能力しかないんですよ~」感を出さないと!


「きゅ……“きゅあ”…………」

 とりあえずゆ~っくりと、足の甲を治す。骨は折れてないようだ。というか時間をかけて治すほうが難しい。


「う、う~~ん、治らないなぁ……じ、時間がかかるなぁ……」


 と、自分の足を隠すように少しずつ後ろを向いて、フェリオさんに背中を見せる。

 だってもう治ってしまいそうだからね。後ろ向きになって隠しておかないと、早く治したのがわかったら疑う材料が揃ってしまう。


 ……ほら、治っちゃった。

 それよりもどうするか。

 ここでフェリオさんの頭をこの鈍器(という歴史書)で殴って気絶させ、記憶をはるか彼方に……いやいや、そんなことをしてはいけない。


「…………はぁ……治った治った。こんなに時間がかかるなんて、私には高度な技術はありませ……」

「いや、もっと早く治ってた」


 私の頭上から声がかかる。フェリオさんがその場で飛んで、真上から静かに私を見ていたからだ。……気づかなかった。

 となれば、ここは単純に……。


「フェリオさん、これあげます。――いやっ、お納めください、そして今回の件は黙っててください。お願いします!」


 騎士団長さんからもらった大金貨袋を収納魔法から出した。あ、袋のまま出してしまった。大金貨だとわからないじゃないか。

 でもフェリオさんは中身には全く興味がない様子で、袋にさわろうともしない。


「いや、いらない。むしろぼくが払うほう」


 フェリオさんの羽を治したときはスタンピード戦の最中だった。普段ならば強制招集であるスタンピード戦で生じた怪我を治しても、治療費はかからない。でも、今回は治療するにしてはかなり難しい妖精族の羽であり、しかも普通ならば完治するのに時間がかかるものだ。

 だから「治療費を払うのは自分のほうだ」とフェリオさんは主張した。


「あ、あの、じゃあ、お金はいらないんで黙っててもらえると……」

 私は『羊の闘志』さんたちを相手にしたときと同じ交渉をしていた。でもフェリオさんはそこで黙らなかった。


「それより、何で隠してる」

 なぜ、皆に強力な治癒魔法を黙っているのか、と聞きたいようだ。

「えと……」


 フェリオさんにずっとジト目で見られて、ぽつりぽつりと話した。

 自分は治療を専門にやるには向いてないこと、特に大怪我をした人の治療をするときは、患者が痛いと悲鳴を上げるのがかわいそうで、いくら治癒魔法が使えてもその仕事をするのに抵抗があることを伝えた。

 じゃあ前世にあった『麻酔』のような物ができたら治療院で働くのかというと、私の中ではそれは違うなぁと思う。何より――。


「ギルドの受付の仕事が私には合ってるんで、このままのほうがいいんです!」


 私は冒険者ギルドの受付をやるほうが、前世の知識も使えるし、スキルを使用して仕事がやりやすい。

 なによりギルドの受付の仕事は楽しいのだ。だからこのままの生活がいい。


「そう。……じゃあ、やって来る魔物から町を守ったら、ずっと黙ってる」


 私の話を静かに聞いてくれていたフェリオさんは、そう約束してくれた。

 だから私ははっきりと返事をする。


「守るのはいつもどおりやりますよ。当然です」


 町を守ることは、障壁魔法を使える私にとって普段からやるべきことだ。何も、改めてお願いされるほどのことではない。

 本当にそんなことだけで黙っていてくれるのだろうか。

 しかしフェリオさんは私を見て首を振り、いつものスタンピード戦と同じように考えてはいけないと忠告する。


「この町にやってくる魔物はかなり強いことがわかった。隣の領の村を壊滅させたそう」

「えっ、そうなんですか!?」

「シャーロットが昼行ってすぐに聞いた。村人は領内の町に逃げた。でもこの様子だと、町も時間の問題」

 私と入れ違いで情報が入ったようだ。


「……シャーロット、ぼくの家に初めて来たとき、まだ城壁直してたの覚えてる?」

「え、はい。フェリオさんにギルドに戻ってきてほしいと訪ねた日ですね」


 今から二年前くらいの話だ。その日、キングコカトリスに襲撃されるところだったのだ。

 でも襲われる直前で捕まえて討伐した。

 早期に発見できたのは、修復中の城壁付近の人たちが慌てているのを見たのがきっかけだったっけ。


「シャーロットが見たときは大方直されてたけど、それまでは城壁が大きく壊れていた」

 町は強い魔物に大勢押し寄せられて、城壁を壊されてしまったのだそうだ。


「強い魔物がたくさん……ですか」

「うん。テーブル山ダンジョンのスタンピード。いつものじゃなく、もっと強いのが出てきた」


 テーブル山ダンジョンは、多くはランクの低い魔物がいる区画が溢れてしまい、町に襲いかかる。しかしそれだけではなく、上級の魔物がいる区画が溢れてしまうこともあるのだ。

 ダンジョンは内部で『更新』という現象が起こり、低いランクの魔物はその現象によって増え、溢れやすい。対する上級の魔物は増えにくく、長い時をかけて溢れるらしい。


「シャーロットがこの町に来る一年前くらい……その上級スタンピードが起きて、皆大変だった」


 長いあいだ増え続け、とうとうそのとき、町に上級の魔物が襲いかかったらしい。


「あのとき町の人も、冒険者も、幾人も亡くなった」


 アーリズに長年いる冒険者は、そのことを覚えていて今回の件も決して甘く見ていないようだ。

 だからギルドで会議をしている人たちは、そのときの悲劇を繰り返さないようにフェリオさんから『魔物図鑑』を借りて、対策を練ろうとしているのだそうだ。


「それなら……、急いで『魔物図鑑』をギルドに持っていかないといけないですね……!」


 そうだ、フェリオさん家で長居してはいけない。私も気合を入れて魔物との戦いに備えなくては!

 本音は――、私の話に戻らないうちにギルドに帰るのがいいだろう。

 だからフェリオさんの『魔物図鑑』を急いで収納魔法に入れていく。


「今回シャーロットは、そんなことが起こらないように――城壁を、皆を守って」


 私が大急ぎで用意しているなか、後ろにいるフェリオさんのぽつりと言った言葉は、私の耳に残った。




フェリオの家に初めて来た話は、025話目です。


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