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106: 迫りくるもの③



「ううぅぅ~~! ……ひっく」


 ゴロロロロ!!

 雷の音と、先ほどよりずっと強くなった雨の音、それに負けない唸り声が部屋を満たす。


「……そんなに泣いても、どうにもならないよ?」

「ボク……帰らないっす! びゃあああん!!」


 泣き声まで大きくなってしまった。

 かわいそうになってきたので、コトちゃんの隣から頭を、「よしよし」と撫でる。ちゃぷちゃぷと水音がした。雷と雨の音でうるさい中、明日でお別れということで私たち四人はお風呂に入っている。

 私はコトちゃんに優しく語りかけた。


「またこの町に来てね……」

「帰らないっす! ひっく」


「孤児院の皆もまた会いに来てって……」

「えっぐ、帰らないっす!!」


「…………皆で一緒に食べたマルデ……」

「ボクは絶っ対っ、帰らないっす~ぅ! うあぁ~~ん!!!」


 お風呂に入ることでゆったりとお別れの話ができると思ったんだけど、どの言葉も彼女にかき消されてしまった。

 お風呂――それはもちろん私お手製の障壁風呂だ。四人で一緒に入れる大きさで作った。

 角ばっているけど、三人はいつも文句を言わずに入ったっけ。

 コトちゃんは一度泣き止み、しゃっくりをしながら私を見る。


「シャーロッ……さんは、この町にいるっすよね」

「そりゃあそうだよ。障壁魔法で町を守らないといけないし、何よりこの町に住んでいるんだから」

「シャーロットさんが守ってくれるなら、ボクたちがいても大丈夫じゃないっすか」

「それは町に残る理由にはならないね~」


 コトちゃんは「嫌っす!」と風呂の中で駄々をこねた。お湯のしぶきが私の顔に跳ねる。

 もちろん、私はこの町を守ることについては全力で事に当たる。

 だからといってコトちゃんを残すことにはならないから、ここで甘やかすわけにはいかない。


「うあああん。ボク、帰らな……ぶはっ、ぎゃっ」


 コトちゃんがさらに激しく駄々をこねたところ、彼女の顔面にぴゅーっとお湯がかかって、動きが止まった。


「静かに入りなさいよ。跳ねたわよ」

 お湯をかけたのは、コトちゃんの正面にいるシグナちゃんだった。両手をうまく組み合わせて、長くお湯を飛ばしたのだ。


「だって……」

 コトちゃんはほっぺを膨らます。

 それを見て笑ったワーシィちゃんは、予想外のことを言い出した。


「コトがそう言うんやったら、もしかしてこのまま町に居座るかもしれへん」

「え?」

 どういう意味だろう。


「ほら、シャーロットさんも言うとったやないですか。コトにピカッとスキルだったか、『閃き』スキルがあるって」

 確かにコトちゃんには『閃き』スキルがあるけど、帰らないと言い張ることとスキルに何の関係が?


「コトがこないなふうに我を通すときって、結局未来はそうなってしまうんですよ」

「コトが『ボクはこうする!』と大騒ぎするときって、何かありますね」


 私より発育が早いワーシィちゃんとシグナちゃんが、うんうんと頷きあった。

 なるほど。この現象がコトちゃんの『閃き』スキル発動に関係あるのか。わかりにくい発動の仕方だ。傍から見たら、コトちゃんがただ単にわがままを言っているだけのように感じる。


 ――ところでどうやってお湯をぴゅーっと飛ばせるのかな。……こうかな。


「たとえコトちゃんが騒ぐのが『閃き』スキル発動だったとしても――どうするの? ここで籠城しても無理だよ。……ねぇ、シグナちゃん、さっきのどうやって飛ばしたの?」

「指同士を密着させて……こうやるんです」


 家に鍵をかけても、大家さんが開けてしまうよ、と言いながらシグナちゃんから教わる。

 ほうほう、密着させたまま……あ、できた。


「ぶはっ、ぶべっ! ……じゃあ、町のどっかに隠れるっす!」


 シグナちゃんの手と私の手から、お湯がぴゅーっとコトちゃんの口元とおでこに飛んだ。初めてなのに見事に当てられて嬉しい。

 さて、町に隠れるということだけど、学園生が町から出るときは全員揃っているか、ちゃんと確認することになっている。皆に迷惑をかけてしまうではないか。それに――。


「どんなに隠れても無駄だよ。捜し出して、ぐるぐる巻きにしても町から追い出す、ってバルカンさんが言ってたんだから」

「「「えっ」」」


 この町でコトちゃんたちと関わりがあるのは、私だけではない。『羊の闘志』とも何かと縁がある。

 実は残業して会議をしていたとき、『羊の闘志』のバルカンさんも、というかランクが上の人たちにも集まってもらっていたのだ。魔物がこの町を目指しているなら、戦うのは彼らだからね。

 その会議で学園生を北に向かわせる案が決まったとき、当然学園生がどういう反応をするかも考えられた。

 バルカンさんはさすがパーティーリーダーの観察眼というべきか、コトちゃんの性格を把握して対策を考えていたのだ。


「この部屋に籠城して、もし大家さんが鍵を開けられない事態になっても、マルタさんが乗り込んでくることになっているからね。町中に隠れたとしても、『探索』スキルを持っている冒険者さんはたくさんいるから、簡単に捜し出せるし」


 マルタさんは力持ちだから、コトちゃんたち三人くらい簡単に縛って、軽々と持ち上げてしまうだろう。『探索』スキルなら私も持っているし、隠れてもすぐ見つけられる。

 ――お、お湯を飛ばすコツがわかったかも。


「それでもっ、ぶっ……、ボクは帰らないっす! シャーロットさんかけすぎっす。お返しっす!」

「おっと、私にかけられるかな?」

「あっ、ずるいっす。障壁で顔を守るなん……ぶひぇ!」


 コトちゃんもお湯を飛ばそうとしたので、私は障壁を使った。

 その隙にワーシィちゃんがコトちゃんにぴゅーっとお湯をかける。

 先に自分の光障壁を使うべきだったね、コトちゃん。



 ――それにしてもよかった。最後のお風呂は楽しい気分で入ることができた。



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