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103: 性懲りもなく来たあの貴族⑧



 次の日、私はいつものように冒険者ギルドのカウンターで仕事をしていた。

「こちらへどうぞ。依頼書は、突き指の危険がありますので、カウンターの手前に置いてくださいますか?」


 受付カウンターは段差のある形状になっている。私たちが座っている側は机の高さで、来客側は依頼書などを提出しやすいように、それより高く作られている。その来客側より奥に置かないようお願いしたのだ。


 これは、昨日の事件に関係しているからなのだけど……、この説明の前にまず、ありがたいことに昨日の問題はほぼ(・・)片付いた。

 騎士団側が伯爵の四男一行を連行してくれたおかげで、ルーアデ・ブゥモーが孤児院から盗んだ紙の件は片付いた。

 四男一行の持ち物が没収され、その中にあの四男がぴらぴらと見せびらかしていた権利書関係の書類もあり、無事に孤児院に返されたからだ。

 マーサちゃん誘拐事件も、「権利書を探していたときに彼女に見つかりダンジョンに放置することになった」と証言したらしい。

 ダンジョンまで連れていった理由や、方法は調査中らしいけど、彼らの罪はこれでさらに積みあがったということだ。


(とりあえず問題は解決したから、院長さんもバルカンさんも孤児院の皆も、ほっとしたようでよかったなぁ)


 そんな孤児院の冒険者パーティーは、本日もギルドに来た。

 ルイくんがパーティーの皆と、のこのこと冒険者ギルドにやってきたのだ。


「ふふん♪」


 私を見て得意そうに歩いている。――のだけど、依頼書が貼ってある掲示板の前に来たときには、一転して驚きの顔になった。

 それはなぜか。


「この依頼書、どうなってるんだよ? は、はがせないよ~!」


 依頼掲示板の入り口寄りには、低ランク冒険者向けの依頼が貼ってある。

 本日、その依頼書の四辺すべてに、画鋲がびっしりと刺さっているのだ。もちろん普通は、上辺に画鋲を一つ刺すくらいだ。

 ルイくんはみっちり刺された画鋲を見て叫んでいる。

 依頼を受注するには、依頼書をはがしてカウンターに持ってこないといけないから、さぞや困ることだろう。

 四辺をびっしり刺すのは苦労した。こんなに画鋲を使うのは初めてだなぁ。


「じゃあ、別の依頼を……あっ、この依頼書も……この依頼書もだ! 何で!? これじゃ依頼受けられないよ。シャーロット~」


 彼らが受けそうな依頼書すべてに、びっしりと刺したのだ。今日、いつもより朝早く来ただけある。

 ルイくんが困ったように私を見たけど、私はツーンと顔を背けた。

 彼はすぐ原因に気づいたようだ。


「え~。昨日のこと根に持ってるの? ちょっとお尻たたいただけじゃん」


 ルイくんはその程度のことで何を怒っているのかと不満そうだったけど、彼のパーティーメンバーは違う反応だった。


「ばかっ。受付にけんか売るな」

「ルイが悪いよ。がんばってはがして受注してよね」

「そんじゃ、そのあいだ私たち、一度帰ってさいほう(・・・・)やってるから」


 ああ忙しい忙しい、と残りのメンバー五人全員がギルドから出ていった。

 うんうん。こういう余った時間を利用して、ぜひ縫物に専念してほしい。

 実は、商人さんから反ものを購入したあと、孤児院の皆に渡してそのまま縫ってもらっているのだ。

 ルイくんに続きマーサちゃんも助けてもらって、お礼をどうしようかとちょうど考えていたそうで、私の提案に乗ってくれた。縫物は皆得意とのことだった。

 しかも服のデザインができる子もいて、私が反ものを見せると、いろいろな案を聞かせてくれたのだ。

 だからルイくん一人が画鋲を取っているあいだに、皆はどんどん縫い進めてほしい。

 ――とそこに、噂の女の子三人がやってきた。


「キラキラ!」「ストロゥベル!」「リボン!」


 ギルドに入るなり、彼女たち三人はくるりと一回転し、それぞれポーズをとる。髪や服がふわっと広がった。

「決まった!」と満足げな顔で、ギルドの出入り口付近に陣取る。

 ギルドの入り口横にいたバルカンさんが、気づいてすぐ声をかけた。


「お、お前ぇらこっち来い」


 彼は入り口に入って左の掲示板――依頼以外の情報が書いてある掲示板に、彼女たちを呼んだのだ。


「お前ぇらがあの洞窟ダンジョンで大活躍してくれたおかげで、マーサが無事だったんだ! リーダーには称号を考えてくれたようだぞ。うちの騎士団が」


 そう言うバルカンさんは実に楽しそうだ。


「……え、えっ! ど、どういうことっすか??!」


 コトちゃんたち三人はその掲示板を見る。

 そこには、町での出来事を報告する記事が貼ってある。騎士団が作成し、今日の朝早くギルドに貼りに来ていたのだ。


『学園生お手柄!』


 という見出しのあとに、こう書いてある。


『アーリズの町の子供が一人攫われ、ビギヌー洞窟ダンジョン最奥に置き去りにされる事件があった。』


 昨日の誘拐事件のことが詳しく書かれている。『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の活躍により、その子供は傷一つない状態で帰ってこられた――とも。


『しかし、Cランクの冒険者がなぜ超初級ダンジョンに入ったのか、そこの魔物をすべて倒したのはなぜか。』


 ――本当は誘拐計画を知っていたのではないか――。という疑いを持つ者もいて、昨日、彼女たち三人は騎士団に事情聴取された。

 Cランクの冒険者が、超初級ダンジョンの魔物を全部倒すなんてことはそうそうあることではないので、怪しまれるのは当然のことだ。

 続きの文章では、その理由がしっかりと伝えられている。


『リーダーであるコト・ヴェーガー嬢の洞窟一掃の動機は、なんと!

 テーブル山ダンジョンに入りたかったが入れてもらえず、むしゃくしゃしてやった。――ということであった!!

 そんな気概にあふれる彼女には、騎士団から称号を授けようと思う。受け取ってくれ!』


 この記事には少~し騎士団のお遊びが入っていて、コトちゃんはこんな称号をもらってしまったのだ。


『洞窟の掃除人』


 それを見たコトちゃんの反応は、私の予想どおりだった。


「な、なっ、んが~~っ! かわいくないっす~~!!!!」


 途中まではわくわくして読んでいたのに、この渋い称号の部分で地団太を踏むことになった。

 ……というか、まさか騎士団内に称号を決める専属の人でもいるのだろうか。私の称号と系統が似ている気がするのだけど。

 周りにいる冒険者の皆さんは面白そうに「よっ、『洞窟の掃除人』」「学園生で称号もらうことなんて、まずねえぞ」「よかったな!」なんて言われている。ちなみにワーシィちゃんとシグナちゃんは、称号をもらわなかったことにほっとしている表情だった。


「ははは、コトねえちゃん、かっこいい称号じゃん」


 ルイくんがからから笑いながら、どうにかカウンターにやってくる。

 何とかがんばって、依頼書から画鋲を全部取り除いたようだ。……いや、一辺部分は画鋲を取らずに、依頼書の余白部分をびりびりちぎって持ってきていた。


「シャーロット~、怒んなよ~。はい、依頼するから受注してよ――って、痛~っ!」


 ルイくんが依頼書をカウンターの奥――私側に強く置いたので、突き指したのだ。私の障壁で。


「痛いよ! え、……何でカウンターに障壁張ってんの??」


 先ほど冒険者さんに、カウンターの手前に依頼書を置くように言った理由はこれだ。

 本日、カウンターの内側、つまり私たちがいる側に障壁を張っているのだ。

 それはなぜか。


 実は、――昨日ルーアデ・ブゥモー一行を捕らえた中に、私を矢で攻撃した人物がいなかったのだ。

 馬車で逃げていたのは、孤児院前で得意げにしていた者たちのみだった。

 現在、四男一行を締め上げている最中のようだけど、なかなか吐かないらしい。

 つまり、私を矢で攻撃した人物は、四男一行が馬車で逃げたあと反対の城門から出たか、まだこの町にいるということなのだ。

 だから今カウンターの段差の内側に障壁を張って、遠くから狙われてもはじけるようにしている。


「ふふふ」

「ひえっ!」


 ルイくんは一歩下がったけど気にしない。

 捕まっていないのならば、私が先に見つけて仕返しができるということ。

 さあ、金髪のおじちゃんとやら。私の目の前にのこのことやってくるといい。

『鑑定』スキルで怪しい部分を見つけたら、遠慮なく障壁でぺしゃんこにするんだから。

 昨日は結局「力」の値は1しか上がらず、しかし走ったからか「体力」が68上がり、治癒魔法に集中したおかげで「魔力」も「知力」も100以上増えた。

 町中で見つけたら、恐れず追いつめようじゃないか。


「ふふふ……」

 ギルドのカウンターには私の笑い声と。

「むき~~!!」

 コトちゃんの地団太の音と。

「よっ、かわいい掃除人どの!」

 冒険者たちの笑い声と。

「こわっ」

 ルイくんが受注し終えた依頼書を持って、走り去る足音が響いた。



おまけ。


某騎士「面白い学園生がアーリズに来たもんだな~。超初級ダンジョンで大暴れする冒険者なんて初めて見るぜ!

何か面白い称号でも考えたいな。……え、あの壁張り職人の妹分?! うおおぉぉ! インスピレーションがわいてきた!」



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