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102: 性懲りもなく来たあの貴族⑦



 私は『探索』スキルで反ものの拾い残しがないか、確認し終わったところだった。


「どれも素敵だなぁ……ん?」


『探索』スキルを使いつつ生地も眺めていると、とある人物が近づいてくるのがわかった。

 城壁からまっすぐ近づいてくる。障害物をものともしない直線的な動きなので、道沿いに走っているわけではない。

 だから頭上を見て、その人物を目で確認した。ただ、それだけでは終わらなかった。


「道を空けろ!」


 城門からガチャガチャと鎧の音を立てて、騎士が大勢走ってきたのだ。

 私と商人さんは元々道の片側に寄っていたけど、その人数の多さに、反ものを抱えてさらに端に移動した。

 彼らは熊さん……ギルマスたちのもとまで行き、ボコボコにされている伯爵の四男一行を冒険者たちごと取り囲む。武器を構えて。

 私と商人さんは異様な雰囲気を感じて、一緒にその場へと急いだ。


「オイオイ、何事ダ」


 ギルマスが熊のまま、頭上を向いてしゃべった。少し聞き取りづらい低い声だ。

 空を飛んでいた騎士団長さんが、そのギルマスの正面に降り立つ。

 大きな熊と鳥が対面して、魔物同士の縄張り争いのような……いや、何でもない。


「我々は、あなたが踏みつけている男に用があるのです。とりあえずその足をどけなさい」


 男――ルーアデ・ブゥモーは私たちが反ものを拾っているあいだ、いつのまにか熊さんの前足に踏んづけられていたようだ。


「コチトラ、冒険者ノ違反……」

「概ねの事情はわかっていますよ。しかし、こちらの用件のほうが重要ですので」


 ギルマスは割り込んできた騎士団長に訝しげな様子だったけど(熊だからわかりにくいけど)、周りの騎士たちの物々しさにしぶしぶ足をどける。

 次に騎士団長さんは、その隣で拳を固めているバルカンさんに向かって、同じく手を放すよう言った。


「ちっ、何だそりゃ」

 武器を構えた騎士団に取り囲まれていることから、バルカンさんもさすがに四男一行の一人を突き飛ばすように放り出した。

 周りの冒険者たちは、まるで伯爵家の四男を助けるようにやってきた騎士団の様子に、不満そうな顔をした。


「何すか! 騎士団は町の皆の味方じゃないんっすかっ!?」


 コトちゃんは顔だけじゃなく、声にまで出している。


「……お、遅いぞ! なぜ早くワタシを助けに来なかったのだっ! 痛いっ痛いのであるぞ!」

 ルーアデ・ブゥモーは助けが来たと、気を大きくして元気にわめいた。……ずいぶんと顔の形状が変わってしまっていたけども。

 ――というかブゥモー家とこの町の領主って、あまり仲良くないんじゃなかったっけ?


「おやおや。これでは誰かわかりませんね。――治癒魔法をかけてやりなさい。ああ、もちろん顔だけで結構」


 騎士団長さんが部下にそう指示を出したことで、私たち冒険者側は少し疑問の表情を浮かべた。

 それに、今では冒険者たちを脇に避けさせて、四男一行を取り囲んでいるのだ。これではまるで――。


「それくらいでよいでしょう。――よし。間違いなく本人のようですね」


 本当に顔だけを治させた騎士団長さんは、冷ややかな目で片手を上げた。


 ――ジャキ――。


 団長さんが合図をした瞬間、武器を構えていた騎士全員が、一斉にルーアデ・ブゥモーとその仲間たちに剣や槍を向ける。その音は街道に響いた。


「な、何をす……ひいっ」

「動くな!」


 顔だけ元に戻ったルーアデ・ブゥモーは、慌てふためく。

 しかし、囲んでいる騎士たちが鋭い声で制止した。少しの身じろぎさえ許さないと言わんばかりに、ルーアデ・ブゥモー一行は喉元にまで刃を突き付けられた。

 私たち冒険者一同は、いったいどうしたことかとざわめく。


「ルーアデ・ブゥモー――」


 騎士団長さんは懐から筒状に丸められた紙を取り出し、広げた。そしてルーアデ・ブゥモーに向け、高々と見せつけ読み上げる。

 それは手紙……指示書のような形式で、下部にはサインらしきものが書かれてあった。


「貴様の父であるルザゴ・デ・ブゥモー伯爵が、シオード・キリ・フォレスター王太子殿下暗殺未遂の容疑で逮捕された。その重要参考人として、貴様らを王都に連行するよう令状が出ている」


 ――神妙にせよ。


 騎士団長さんの敬語ではない声が、街道に反響しているかのように聞こえた。

 馬車泥棒や誘拐事件などの犯人として追っていた私たちは、彼のくちばしから――いや、口から飛び出したとんでもない単語の数々に驚く。

 ギルマスは熊の置物のように動かなくなり、バルカンさんたち『羊の闘志』は「とんでもねぇな」と唖然とした。一緒に走ってきた商人さんは一歩下がるも、「私の馬車は関係ないのだが……」と心配をしていた。


「な、何? 何を言ってたの? ボクわかんない……」

「う、うちもや」

「とにかく……すごく悪いことよ……」


 私たちがとっさにこの状況を判断できないのだから、コトちゃんたちではもっとわからないようだ。周りの迷惑にならないよう、三人でこそこそと話し合っていた。

 私はというと、もちろんこの事態に興味がわいた。


(まさかこんな形で幕が下りるなんて……。これじゃあ、私が「矢を撃たれたお返しをしたい」ってお願いしても聞き入れてくれないのでは……。それはそうと――)


 同時にこんなことも考えていた。


(スカート……いや、三人で揃えるなら……? う~ん……)


 三人へ渡すプレゼントをどんなデザインにするか、他に必要な物――ボタンや糸は何色にしようかを考えていた。

『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人はこの夏で町を去る。これから縫うんだから急いで決めないとね。

 今日は修業しようと思ったら走ることになるし、矢で攻撃されるし、また走るし――大変な休日だったなぁ。

 でもルーアデ・ブゥーモーのあわれな叫びや拘束現場を見たら、少し溜飲が下がったような気がする。周りの皆も、その光景によって冷静さを取り戻していた。



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