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100: 性懲りもなく来たあの貴族⑤



「ひえっ、シャーロットさん、すごい気合っす。目が血走ってるっす……!」


 治癒魔法に集中するからコトちゃんに「周囲を警戒して」と目で合図を送ったけど、正確に伝わらなかった……。当然か、でも気にしない。

 今は、自分が出せる全力を出すのだ!!


 ゲイルさんの腕やフェリオさんの羽を治したときのように、『鑑定』『探索』スキルを使う。そして『人体学』スキルも一緒に使う私の治癒魔法は、ゲイルさんを治したときよりずっと能力が向上しているはずだ。

 うん、そうだ、その意気だ。

 いつもは両手または右手で治癒魔法を使っているけど、今回は左手だけでやるしかない。


(ふんぬ~~!)


 ~っい、痛い……! でも、この気合を、すべて私を治癒する力に変える!

 左手だけで治癒魔法を使ったことはなかったかもしれない……。だけど、ほら、だんだん穴がふさがってきた。

 はらはらオロオロと見ていたコトちゃんが、途中から私の治癒魔法に釘付けになっていく。


「え、え~っ! すごいっす。シャーロットさんは治癒魔法もこんなにすごかったっすか!」


 そして興奮して身を乗り出す。

 コトちゃん近い……と気づいてから、私はだんだん周囲の様子に気を配ることができていた。


「ゲホッ。やつら……、目くらましの道具でも使ったのか。逃げやがったぞ! 追え~!」


 野次馬をしていた人の声だろうか。

 だいぶ引いてきたけど、あの砂ぼこりは彼らの仕業か。こんな空気の悪いところで怪我を治すことになるなんて……あ、傷口の雑菌は除去除去……。


「『羊の闘志』が追いかけていったぞ!」


 バルカンさんたちが追いかけているならすぐ捕まるかな。

 ……お、痛みが引いてきた……?


「だめだ、やつら馬車を盗んで城門へ向かっていったぞ。門で止められなかったら、さすがに『羊の闘志』も追いつけねえんじゃねえか!?」


 あの一行は不法侵入や女児誘拐、殺人未遂、恐喝だけではなく、馬車泥棒までやってしまったのか。どんどん罪を重ねていっているね……。


「私の荷馬車が~!! 盗んだのは誰だ!? 訴えてやる!」


 この声は荷馬車盗難の被害に遭われた方だろうか。

 これは大変だ。このまま逃がしてしまったら、アーリズの冒険者ギルドの沽券に関わる。

 なぜなら彼は、一応まだ冒険者だから……。


「……す、すごいっす、もう治るっす!?」


 コトちゃんの言うように腕が完治しつつある。

 ほんのちょっとの傷跡も、治癒魔法使いとしての私の意地で残さず治そう。


「すごいね~……ふあぁぁ……」


 マーサちゃんが院長さんの隣で見ていた。

 そこで気づいたけど、マーサちゃんに使っていた箱障壁は、すっかり消えてしまっていたのだ。矢に刺されたときか、治癒魔法で気が散ったからだろう。

 私もまだまだだな。でも無事でよかった。

 いきなり障壁の底が消えたはずなのに、敷布団を敷いていたからか、マーサちゃんは特に痛がってなかった。――それより、まだ眠そうだ。

 そして私の腕の傷跡は……もう残っていない。

 よし、治った。自分で自分の怪我を治すことができたのだ――!


「……院長先生、マーサちゃん。私は一応追いかけるから、行くね!」


 私の腕から抜いた矢が、地面に落ちていたので、立つときにそれを拾う。正直、自分の血がついている矢を持つのはなんだかなぁと思うけども、証拠品だからね……。


「ボクも行くっす! シャーロットさんに攻撃したやつは許さないっす! ――二人とも~! ボクたちは馬車のあとを追うよ。そっちはどう?」


 コトちゃんは遠くにいる仲間を呼んだ。――というのもワーシィちゃんとシグナちゃんは治療院へ行って、人を呼んできたらしい。伯爵家四男の一行は逃げるときに暴れ、さらに盗んだ馬車で強引に走ったものだから、怪我をした人がいたようだ。

 ――そうか、私もここは怒りを鎮めて、残って治癒魔法を手伝ったほうがいいだろうか……。ん?


「――怪我がひどい方が優先ですよ。あとは……」


 そんな声が聞こえたから目を向けてみると、私から離れたところで怪我人を診ている人がいた。どうも私のよく知る治療院さんのようだ。

 そう、それこそ、ゲイルさんの腕を治した人を捜しているあの(・・)治療院さんだ……。

 二人はなぜこの人を連れてきてしまったのか……。いやいや、腕がいい人を連れてきたのはさすがじゃないか。


 …………。

 まぁ、そういうことなら遠慮なく怒りを継続して、あの誘拐(および不法侵入および窃盗……他いろいろ)犯を追おう!


「シャーロットさん、無理しなくていいんですからね?」

 孤児院の院長さんは心配してくれるけど、今なら向こうは私のことを警戒してないはず。このチャンスは活かしたい。

 あの四男が騒いでいた紙については、バルカンさんを信頼しているようで、院長さんは特に慌てている様子はなかった。

 マーサちゃんと一緒に孤児院へと帰っていく(貸していた布団は干してくれるようなのでお願いした)。


「行くっすよ~~!」


 コトちゃんたちが走り出して私もあとを追おうとしたら、ルイくんが後ろから声をかけてきた。


「この剣、まだ俺に貸しててよ。残党がいたらやっつけとくからさ!」


 私は正面のコトちゃんを見たまま返事をしようと思った。――がしかし。

 ――ばしん!


「ぎゃっ」

「うわ~い! やった! とうとうやったぞ~!」


 ルイくんにお尻を叩かれたのだ。いつもは『探索』スキルを使っていたから気づくけど、こんなタイミングでやられたらかなわない。

 ――油断した――!


 ギルドに来たときは、たまにこういういたずらをしようとするから警戒していたけど、今は完全に私の頭になかった。

 私はルイくんを障壁で挟んでやろうとしたけど、振り返ったときにはすでに、ルイくんは孤児院に逃げていったところだった。


「シャーロットさ~ん、どうしたっすか。やっぱり痛むっすか!?」


 私の小さな悲鳴で気づいたのか、はたまた私がついてきてないことに気づいたのか、コトちゃんが遠くから心配そうに聞いてきた。


「……なんでもないよ、すぐ行くよ」


 ルイくん……矢を抜いてくれたから感謝していたのに。ん~、ここは寛大に許すべきか……。

 ま、まずはあの一行を追いかけよう。それからだ。

 私は『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人と城門へ急ぐ。

 あの一行は荒々しく突き進んだようで、喧噪をたどれば向かった先がわかった。しかもこちらが聞かなくても、町の人たちがどっちへ行ったか怒った顔で教えてくれた。


 城門に着くと、何組かの冒険者パーティーが城門の外側にいて、遠くを見て悪態をついていた。

 どうやら城門を抜かれたようで、現在正面の街道をかなり先まで走っているのだ。街道は森に囲まれていて少し見えづらかったけど、『羊の闘志』が荷馬車を相手に走って追いかけているのはわかった。しかも五人ともだ。すごい……。

 でも追いつくだろうか。

 丸くて重いあの四男が乗っているといえども、馬車は馬車だ。距離を離されるいっぽうではないかな。それとも馬が疲れるまでねばるのだろうか……。


「――おいおい、聞いたぞ。またか」


 私たちが正面を見ていると、左側からギルマスの声が聞こえた。

 ギルマスは獣人族で耳がいいし、気配を察知するスキルもあるので、城門が騒がしくなったことに気づいたのだろう。先にこの城門に来ていた冒険者の人から話を聞いたようだ。


「今『羊の闘志』さんたちが追ってます。何とか追いつければいいんですけど……」


 一人か二人が乗って行商するための荷馬車に、複数の大人が乗っているのだ。諦めなければ何とかなるかも……?


「ああっ、あんなに乱暴に走らせて! 馬車はっ、商品はっ、大丈夫なのか!?」

 当の荷馬車の持ち主さんもこちらに来ていて、つばを飛ばしていた。


「……じゃ、俺が追いかけるか。たぶん追いつくだろ」


 ギルマスはその商人の様子をちらりと見て、自ら追いかけることに決めたようだ。

 いくら次の町がかなり遠く、『羊の闘志』も追いつきそうだからとて、うっかり逃げられては大変だからここはギルマスにお願いしよう。

 私が「お願いします」と言おうしたとき、コトちゃんと声がかぶった。


「え、いくらなんでも追いつかないんじゃないっすか?」


 見るとワーシィちゃんもシグナちゃんも訝しんでいる。

 もうかなり遠くにある荷馬車に、「今から走って追いつくのだろうか、その巨体で?」とでも思っているのだろう。


「あ、三人ともギルマスのスキルを知らないんだっけ。――ま、いいから離れて離れて。あ、耳はふさいでいたほうがいいよ」


 私自身もギルマスから離れつつ、三人に気をつけさせる。

 他の冒険者たちも「ギルドマスターが出るぞー、離れろー!」と、城門周辺に集まっている人たちに注意を促していた。


「ギルマスが馬車を止めてくれるので、皆さんも追いかけるの手伝ってくださーい」


 私も一緒になって叫ぶ。

 ギルマスが馬車に追いついたところに、皆で中に突入して全員引きずり下ろすのがいいだろう。

 コトちゃんたちはまだわけのわからない顔をして、ぼんやり立っていた。

 まぁ、ギルマスの後ろだし大丈夫かな。


 ――誰が何のスキルを持っているか、普通はわからない――。


 これが世間一般的な、スキルの捉え方だ。

 でも一部のスキルはよく知られている。

 冒険者でも、戦いにあまり縁のない一般人でも、知られているスキルがあるのだ。

 それは誰の目にもはっきりと認識できるから。


 ギルマスは――アトラスさんは、私たちが見守る中央にて、自身の巨体を前に乗り出すように屈める。

 その瞬間、彼の中心が光り、その中から切れ味のよさそうな爪を持つ赤茶色の大きな手が現れた。

 そして現れた巨体から野太い咆哮が周囲の森に響く。耳を押さえている私でさえ、その声と空気の揺れが感じられた。




【おまけ話】連載100話ありがとうございます!

※すごく長いので次話までスクロールにお手間をおかけします。申し訳ありません!


?「さあっ、見晴らしのよい城壁の上にて、記念すべき連載第100回のおまけを放送しております。門前では、これからかけっこをするようです! 本日せっかく冒険者ギルドが休みなのに、こんなことになるとは残念ですね~」

??「ゴールはあのしょうもない伯爵子息ルーアデ・ブゥモー氏までですね。盗んだ馬車で逃げております!」


ジッキ「ここでまずはこちらの紹介をしておきましょう。わたくし、実況のジッキ・ヨウと」

カイセ「解説はカイセ・ツーシャでお送りします。まずは――」

ジッキ&カイセ「連載第100回、ありがとうございます!」


ジッキ「ここからは一人ひとり挨拶していきます」

カイセ「まずは、メロディー夫妻です。……ん? ネプト夫妻でしょって? いいんですよ♪ 旦那はオマケですからね」


メロディー「皆様、第100回ありがとうございます。とても嬉しいですわ」

旦那「よくわからんが、おめでとう! メロディー!」

メロディー「あなた、私ではありませんわ(∵)」


ジッキ「ありがとうございます。次は、フェリオ殿、サブマスターのカラク殿、タチアナ殿ですね。この日のために城壁の上にお越しくださっています」

フェリオ「ありがと……ん、あそこ(城門前)で何やってる……」

カラク「どうもありがとうね。……シャルちゃんはなぜ城壁に来てないんだい」

タチアナ「あっりがと~♪ って、アンタら、人間じゃなくて魔物を追いなさいよ~!」


カイセ「……ありがとうございました! 冒険者ギルドのギルドマスター・アトラス殿は、本日城壁までは来られないとのことで手紙を預かっております。『100回目の連載、すごいじゃねえか!ありがとうよ!』とのことです」

ジッキ「さあ、冒険者ギルド職員からのお礼のご挨拶が終わりましたので、次は主要キャラですね。冒険者側からは『羊の闘志』バルカン殿から先ほど、パーティー代表として、矢文でメッセージが届きました。『ありがとうなぁ~!』とのことです。彼らはあのデブを追っかけるのに、ただいま走っております」


カイセ「孤児院パーティー・ルイくんがこちらに来てくれました」

ルイ「100回目ありがと~! マーサも院長先生も孤児院の皆も『ありがとう』っていってたよ!」


カイト「……へえ、100回ね。めでたいめでたい」(通りすがる)


ジッキ「?……何か黒い人が後ろを通ってきましたが、次に行きましょう。ありがとうございました! ん?また手紙が……こ、これは!ななな――あ、失礼。ま、魔国の王城からです……第100回を感謝する旨が書かれております。い、いったい……」


カイセ「どういうことでしょうか……。あ! 城門近くでは『キラキラ・ストロゥベル・リボン』たちがポーズを決めて感謝をしていますね。映像でお見せできないのが残念です」


ジッキ「そして、町の住人代表としてパテシ職人に来ていただいております」

パテシ「100回ありがとうございます。ぜひお店にも来てくださいね」


カイセ「宣伝しないでください……。そして、トリを務めるのはもちろんこの人……って、壁張り職人~!城壁上に集合って言っただろ~~?」


シャーロット(皆様! 100回も連載できたのは皆様のおかげです! ありがとうございま~す!)


ジッキ「壁張り~! 今、拡声魔道具ないから全然音を拾えてないんだよ~」


シャーロット「Σ(゜ロ゜;)」


カイセ「あとは……、誰も忘れてな……」

騎士団長「終わりましたか」

ジッキ「あ!(忘」


騎士団長「騎士団を代表してご挨拶させていただきます。連載100回目とは、ありがたいです。感謝していますよ。――さあ、二人とも仕事に戻りなさい」


ジッキ&カイセ「だ、団長! 忘れていたわけでは……ぎゃあ――!!」

サブマス「トリだけに、鳥団長……!( ´,_ゝ`)ぶっふふふ」



暗転



皆様、100回の連載を続けてこられたのは皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!!



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