09.初めての卵
武器屋を出て歩いていると、ふと自分の格好が気になった。初期装備のズボンに小鬼のTシャツ。背中にバスタードソードを背負う僕は、何者に見えるだろう。
「召喚師はマントかローブだよね。まあ焦っても仕方がないし、装備を買うためにお金もためておこう」
お金を貯めるならばクエストが一番だ。僕は今まで敬遠していた、バトルラビットの討伐をやることにする。。サービス開始から日にちが経っているから、もうプレイヤーも次の街へと移動しているはずだ。
多分空いているだろうな思いながら門まで来ると、そこには予想通りの光景が広がっていた。
「誰もいない……」
前に見たバトルラビットの瞬殺祭りが嘘のように、たくさんの魔物が平原にいた。
「狩り放題だね」
バトルラビットを倒しても、召喚師レベルは上がらないだろう。とりあえず剣の使い心地を確かめるために、一番近場のバトルラビットへと走る。
「それっ!」
アクティブではないので、必ず先制攻撃ができる。僕の横薙ぎの一撃で、バトルラビットは多角形の板になって消えた。
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うさぎのしっぽ×1
うさぎの卵×1
獣エッセンス×4 を手に入れました
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切れ味は抜群だった。クエストは10体を討伐なので、次のバトルラビットに視線を向ける。
「って、え?」
ドロップログの中に、何かを見つけた気がした。
「卵だよね。やった、やったぞ! うさぎの卵をドロップしたぞ!」
僕は思わず叫んで大きくジャンプする。小鬼を500以上も倒して出なかった理不尽なんかどうでもいい。うさぎの卵はチャレンジする予定だったし、これが僕の初めての卵なのだ。
とはいえあまりの興奮に、僕は何度もジャンプしていた。息が切れるほど走り回った後で、なんとなく疲れで落ち着いてくる。
「落ち着け。焦ってはダメだ。貴重な卵なんだ。まずは識別だ」
うさぎの卵。召喚師が契約でき、召喚師にしか扱えない。そんな情報が表示された。
「特別な情報はなさそうだ。でもなんだかドキドキする」
卵を手に入れるまで一週間以上もかかった。バトルラビットを狩った最初の一体というのが、ちょっともやっとしなくもないけれど、それ以上に卵がドロップしたことが嬉しかった。
「よし。契約するぞ」
召喚スキルの契約を使用した。するとエッセンスの使用確認が表示される。
「無限の可能性っていうやつだね。とりあえず全部入れてみるかな」
と思ったら、合計で100までしか入らない。つまり人を30なら鬼は70しか入らない。獣1、虫1、鬼1、人97とかでも大丈夫みたいなので、エッセンスの種類に制限はないようだ。
「バニーガール……」
バトルラビットの進化で存在するのは、ラビットンという毛むくじゃらの人型タイプだ。おそらく人に近づければ、毛が減ってくれるんじゃないだろうか。
「とすれば、僕が注入するエッセンスはこうだ!」
人エッセンスを100。きっと誰でもこうするはずだ。
「あらためて契約ぅ!」
スキルを使った瞬間、うさぎの卵が輝き出した。光り輝く小さな玉が、卵の中へ吸い込まれていく。
「まぶっ」
突然卵が大きな光を放った。まぶたを通す光がおさまり、スッと目を開けると、そこには見知らぬ美少女が立っていた。
「マスター。よろしくナァ」
服を身に着けない10歳くらいの少女。黒髪ポニーテールの頭の上に、二本の長い耳が生えている。でも人間と同じ耳も存在する。僕の頭のなかに兎人という言葉が浮かんだ。
「よ、よろしく」
顔は小さく、ちょっと眉が濃い気がするけれど、それが僕には可愛く見えた。ただ服を着ていないとは言え、大事なところには毛が生えている。バトルラビットの白い毛が、チューブトップとショートパンツの形になって生えていた。
「ファーがついた衣装みたい」
僕が期待していたのは、大人でセクシーなバニーガールだ。この美少女は肌の露出は多いけれど、セクシーとは程遠く、むしろ快活で元気な子供に見える。
(うん。可愛いからいいか。でもさすがに服は買っておこう)
美少女はコクリと首を傾げ、不思議そうな顔をする。
「どうかした?」
「名前が欲しいナァ」
そう言えばステータスを確認していなかった。
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名前:
職業:ラビットチャイルド1
魔法力:34
物攻:20
物防:22
魔攻:27
魔防:21
体力:19
筋力:17
魔力:23
敏捷:27
反応:26
幸運:15
魔技:水魔法1
:R1.アクアショット
:癒魔法1
:R1.ヒール
固有:突進
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どうやら本来は前衛の能力だったのに、エッセンスで後衛の能力を身に着けたらしい。プレイヤーのレベル1の平均能力は20なので、悪い能力値ではない。
「マスター?」
「っと、ごめん」
ステータスで考え込んでしまった。でもバトルラビットは仲間にする予定だったので、すでに名前は決めている。
「君の名前はラビィだ」
「ラビィ。あらためてよろしくナァ」
「うん。よろしくね」
ラビットとラブリィをあわせてラビィ。僕にしてはいいセンスだと思っている。
「まずは服を買いに行こう」
「わかったナァ」
僕らは街へ戻り、服屋さんを目指した。