86.新たな契約
最近卵づいていると感じていたので、ミニタウロスの卵もすぐに手に入るんじゃないかって、勝手に思い込んでいた。
だからその流れを手放さぬよう、迷宮攻略とクエストに勤しんだ。
でも現実のドロップの壁は厚く、3日経過しても、僕にもラズベリーにもドロップはない。
なんだかいつもよりも疲れてしまったので、気分転換を兼ねて、僕は魔物契約卵部屋へと来ていた。
「まずは妖精の属性エッセンステストをしよう」
「はいですの」
僕が妖精の卵をセットすると、いつものように可愛らしい妖精が、半透明のドームの中で、ホログラムのように浮かんだ。
4属性全てのエッセンスを準備したので、まずは水エッセンスを最大から試してみる。
「おー、水の精霊みたいだね」
「水と仲良しですの」
キラキラとした姿が、青色のベールで包まれ、体がわずかに半透明になって見える。水に属するのが見ただけではっきりと分かり、水中でも自由に行動できそうだ。
ラビィもこう言っているし、ロッカテルナ湖では、きっと活躍してくれると思う。
でもその瞬間、僕の中に不吉な考えが浮かんだ。
(待てよ。水と仲良しってことは、火竜山だと使えないのか?)
あのゾーンは間違いなく熱いだろう。ロッカテルナ湖で大活躍する代わりに、火竜山で使えないのでは、あまりにももったいなさすぎだ。
「調整してみるか」
水エッセンスを少しづつ減らしていく。すると水エッセンスが49になるまでは、水の精霊みたいな姿を保っていた。
(水エッセンスがどこまで影響するかは不明だけれど、100の時よりは少ないのは予想できる。ここまで減らせば、逆に熱いのが苦手というのも軽減できるのだろうか)
他の属性も試してみたが、ルールは同じみたいで、全て49までになると、元の妖精の姿になった。
「幻エッセンスを50追加してみるか」
水と幻のエッセンスを半分づつ。僕はそれを試してみる。
「おっ、いい感じだ。薄っすらと透ける王女様が、水のベールをまとっている」
「強そうですの」
ラビィの評価も高そうだ。でもなぜか、これが最高と思う反面、何かが僕に警告をしている気がした。
(なんだろう。この組み合わせは最高に思える。僕は何を懸念しているんだ?)
水の王女を見ながら、僕は考える。僕が契約したい魔物は、汎用性のある魔物のはずだ。結局この魔物は水に属しているようにみえるから、火竜山では活躍できないかもしれない。
水の王女の姿があまりにも見事だったために、ついさっきまで気にしていたことを忘れていた。
(そうか。最終目標が火竜だとわかっているのに、火が苦手では心許ないってことだ)
そういう意味では、ラビィも暑いのは苦手そうだ。でも新しく契約する魔物に、あえて弱点的なものに気がつきながら、無視する理由もないだろう。
「ならどうするか……だ」
そこで僕にアイディアが浮かんだ。僕は水と火のエッセンスを、半分ずつセットした。
「これが答えだ」
そこには紫のオーラを纏った妖精がいた。先入観から火と水は合わないとか考えていたけれど、そんなことはなかったのだ。
「超強そうなのに、未来も楽しみですの」
ラビィが超とか言ったことに驚いたが、それよりも驚くべきことがある。
(水の王女よりも、強くなる可能性があるってことだよね)
しかもこのパターンは、水と火のエッセンスの影響を受けている。だからおそらくは、水の中でも火の中でも、不利にならずに動けるはずだ。
「これだ。これで契約するよ」
僕は設定をリセットし、妖精の卵を取り出した。
「わくわくですの」
「マスターのお心のままに」
妖精の卵へ向けて、僕は契約を開始する。そして水エッセンスを50、火エッセンスを50投入した。
「よし。これで契約だ」
契約スキルを使った途端、妖精の卵が輝き出した。水と火のエッセンスも光へと姿を変え、妖精の卵の中へと吸い込まれていく。
僕は強い光を直視しないように、強めに目をつぶった。それでもまぶたを通してくるのは知っていたので、さらに右腕で眼をガードする。
光がおさまったのを確認して目を開けると、そこにはさっき見たとおりの、紫色のオーラを纏った妖精がいた。
「ウピピィ」
残念ながら、会話できないタイプのようだ。でも意思はなんとなく伝わってくる。
「名前が欲しいって言ってますの」
ラビィはサクラの時もそうだったけれど、なぜか言葉がわかるようだ。でも僕もこれまでの経験があるから、名前が欲しいということには気がつくことができていた。
「君の名前はエリーだ」
僕は水の妖精にするつもりだったので、それに似合う名前を考えていた。水瓶座のアクエリアスから一部を取ってのエリー。エリってすると少しだけ和風感がでるので、ファンタジーっぽく伸ばしてみた。
「ウピピッ」
エリーは羽をパタパタとしながら、クルリとその場で一回転をした。なんとなく喜んでいる感が伝わってくる。
「喜んでますの。エリー、よろしくですの」
「エリー。よろしく頼みます」
「ウピッ」
すでに3体同時召喚をできるようになっているので、エリーは送還されることはなかった。
ステータスを確認すると、種族は紫妖精となっている。
魔法使い的な能力値で、最初から火魔法と水魔法を取得していた。そして固有技能に水中活動と熱耐性を持っている。
(期待通りかな。水魔法への耐性はわからないけれど、この能力なら火竜山でも活躍できるだろう)
ただ3体を同時召喚してみると、僅かな不安も生まれてくる。現在4体同時召喚ができるようになる方法は知られていない。
魔物との契約数に制限はないけれど、現状では3体同時召喚が最大なのだ。
(おそらく場所によって最適な召喚獣と入れ替えろってことだと思うけれど、その体制を整えられるのは、一体いつになるのやらだ)
そもそもこのドロップ率で、様々な召喚獣を持てというのは、かなり厳しい要求のはずだ。
戦い続けていれば、数は揃えられるかもしれない。ただ普通にプレイしていては、全部岩石人形になっていてもおかしくはない。
まあエッセンスがあるから、それでもバリエーションは作成できるだろう。でもできるならば、僕はいろいろな種族を仲間にしたいのだ。
「火竜を目標に据えながら、いろんな卵狙いでレベルアップかな」
「がんばるですの」
「はっ」
「ウッピィ」
エリーと契約した賑やかさを感じながら、僕はほんわかとした気分になっていた。




