08.剣を買ってみた
僕がギルドの扉をくぐると、受付の美少女が声をかけてくれる。
「おかえりなさい。ラルさん」
「ただいま、マリー」
なんでかわからないけれど、なんどか報告する内に、あの美少女と仲良くなっていた。今ではギルドに戻ると『おかえりなさい』、依頼に出ると『いってらっしゃい』の関係だ。しかもマリーと呼び捨てにしてしまっている。
「依頼の報告ですね。こちら報酬の1000ウェドです。おつかれさまでした」
「ありがとう」
気分転換になんどか依頼報告に来たけれど、ランクが上がる気配はない。僕の場合は依頼重視ではないので、まだクリア回数が足りないのだ。
「そういえば剣を買わないのですか?」
「えっ、あ、そう言えばお金が7000ウェドもある……」
「でしたら買ったほうがいいですよ」
せっかく覚えた剣スキルも、まだ1のままだった。お金に余裕もあるし、ここは武器を買ってしまおう。
「ありがとう。すっかり忘れていたよ」
「ラルさんったら」
そんな風に微笑むマリーに、なんだか照れてしまう。現実で美少女に可愛く微笑まれる経験なんてないので、どうしていいかわからない。
「えっと、行ってきます」
「いってらっしゃい」
僕はなんとなく後ろ髪をひかれながら、前に教えてもらった武器屋さんへ向かった。
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ギルドから出て通りを歩くと、すぐに目的のお店は見つかった。中に入ると、所狭しと武器が並んでいる。剣や斧に槍。剣が多いのは使う人が多いからかもしれない。
「いらっしゃい」
僕のイメージにぴったりなヒゲモジャで筋骨隆々のおじさんがお店にいた。
「すいません。バスタードソードはありますか?」
「あるぞ。ビギナーズバスタードソードなら1000ウェドだ」
その金額に戸惑った。最低でも5000は必要とマリーは言っていたはずだ。僕はビギナーズバスタードソードの詳細を確認する。
(攻撃力が7か……)
ビギナーズと名前がついているだけあって、性能も大したことがないようだ。ただこの剣には必要筋力とかいうやつも、必要レベルなども存在していない。
「あの、5000ウェドで買えるバスタードソードはありますか?」
「あるぞ。いわゆるバスタードソードだ」
僕は詳細を確認する。攻撃力は21で、必要筋力が11だ。正直この必要筋力なら、クリアできないプレイヤーはいないだろう。
(攻撃力がビキナーズの三倍だ。マリーさんが5000ウェドかかるっていうのも、うなずける性能差だね)
買うとすれば間違いなく5000ウェドのほうだ。でもせっかく7000ウェドあるので、それも一応聞いてみる。
「7000ウェドだとどうですか?」
「品物がないな。それ以上となると、特別だったり魔法がかかっていたりする武器になるが、7000ウェドだと手が届かない。たとえばこいつは12000ウェドだ」
おじさんはバスタードソードを新しく取り出した。僕はすぐに詳細を確認する。
(シャープネスバスタードソード。攻撃力29か……。悪くはないし手が届きそうだけど、今はお金が足りない)
じっと剣を見つめる僕に、おじさんが声をかけてくる。
「まあ無理にこんな剣を買う必要はないぞ。普通のバスタードソードで十分だろう」
「魔法の装備を手に入れるには、どんな方法があるんですか?」
「ん? いろいろあるぞ。まずは店で買う。迷宮で手に入れる。そして自ら生産だな」
店で買うもわかる。迷宮も理解できる。でも生産って、魔法の装備が生産できるのだろうか。
「生産できるんですか?」
「できるぞ。正確にはできるやつもいる……だな。鍛冶は誰がやっても基本は変わらないだろうが、『付与』という技術があるんだ。これを使えば魔法の装備のできあがりってな」
僕はスキルの取得リストを見てみるが、そんなスキルは存在しない。アップデートの事前情報のつもりなのか、もしくはなんらかの条件があるのだろう。
「付与については詳しくはない。まあ可能性として言ってみただけだ。で、どうする?」
「この普通のバスタードソードをください」
「まいどあり! 耐久度に気をつけろよ」
そう言えば耐久度の項目があった。80ってなっていたけど、どれくらいでどれだけ減るのかわからないから、多いのか少ないのかはわからない。
「気をつけるよ」
僕はバスタードソードを背負うと、そのままお店を出た。