74.奈落の鶏頭人
反対側も同じような部屋で、操られた肉体があった。ただ一部石棺から出てきていた肉体もあったので、時間をかければ全てがそうなってしまうかもしれない。
それを確認して十字路に戻ると、まだ行っていない通路を直進する。
「つまり時間をかければ、あの肉体が外に出るってわけか?」
「たぶんね。そうなるとクエスト失敗。原因を排除すれば、完全クリアじゃないかな」
そんな話をしながら進んでいると、またしても十字路になっている。
「もしかして同じ造りなのか?」
「だとすると面倒だよね。でもそれが狙いかも」
僕の言葉に、パンクが不思議そうな顔になる。
「同じと見せかけて、情報を隠しておく。それで同じだろうと無視したパーティは、情報が足りなくて返り討ちってことだよ」
「効率重視のパーティほど、引っかかりそうな罠ね。面倒だけど、調べていきましょう」「そうですね」
「わかった」
でも十字路の左右の通路から先に行ったけれど、特に変化はなく、さっきと同じような石棺が並んでいるだけだった。
「外れだな。先に進むぜ」
「了解」
さらに先に進んでいくと、左右にだけ進めるT字路にぶつかった。
「なぁ、明らかに左のほうが豪華だよな」
「そうだね」
右の方は普通だけど、左の通路には石を掘って飾りが付けてあった。
「左から行こうか」
「わかった」
飾りの付いた通路を進んでいくと、豪華な扉が見えてきた。両開きのその扉には、左右に文字が書かれたプレートが埋め込まれている。
「奈落の鶏頭人により、永遠に守られる? どういう意味だろう」
「言葉通りじゃないの? 奈落の鶏頭人に守られてるんでしょ、きっと」
マーミンの言うとおりだけれど、わざわざ文字があるのなら、なにかクエストに関係があるんじゃないかと思ってしまう。
でもいつも全部に意味があるわけでもないし、ちょっと考えすぎだったかもしれない。
「礼拝堂のシンボルが、奈落の鶏頭人だったんでしょうか」
「かもしれないね」
「っで、開けるのか?」
パンクが待ちきれないというようにそう言った。
僕は扉に耳をつけてみるが、特に奇妙な声は聞こえてこない。
「って、えぇ!」
耳を当てた扉が、奥の方へと開いていく。
危うく倒れそうになったけれど、僕は体勢を立て直す。部屋の中は金ピカの内装で、金色の棺が6つ置いてある。
「おっ、空だな」
パンクの言うとおり、棺の中は空だった。
「嫌なパターンよね」
マーミンがぼそっとつぶやいた。でも僕も同じ感想だ。この棺の中身は、おそらく敵になっているのだろう。
「この装飾からすると、偉い人が埋葬されていたんでしょうね。他と違って、文字も書いてありましたし」
「偉いだけで、強くないといいけどね……」
地位があるだけならまだしも、強い人6人とか、あまり考えたくはない。
「進めばわかるだろ。さっきの通路を行こうぜ」
「そうだね」
「行くわよ」
残っている通路は一つだけなので、何があろうと行くしかない。僕らは隊列を組み直して、再び通路を進んで行く。
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まっすぐに続いている通路に、不思議な彫刻が施され、さっきの部屋とはまた違った荘厳さが感じられる。
そんな通路をどんどんと進んでいくと、シンプルに飾られた両開きの扉に突き当たった。
「特に文字はなしか。っで、ここしか行くところはないよな?」
「隠し通路とかがないなら、ここで最後だわ」
モルギットは思案顔だけど、特に何かアイディアがあるわけではないようだ。パンクを見ると、早く扉を開けたくて、ウズウズとしているような感じだった。
「パンク、よろしく」
「おう。任せとけ」
パンクが扉を押すと、ギィっと扉が全開になる。そこは大きな部屋になっており、奥に鶏頭人の彫像みたいなものが見える。
それは台座に乗っており、少し高い位置に存在した。
(ん? 羽のつき方が逆さまだ。コウモリとかドラゴンタイプの羽だけど、上下が逆になっているみたい)
「広い部屋だが、あの像だけか?」
パンクがそう言うと、どこかからかローブ姿の誰かが次々部屋の中に現れる。
パンクとともに部屋になだれ込むと、ローブ姿の誰かは僕たちに向かってきた。
「我が名はパーフェクトタンク!」
6体のローブ姿の誰かは、名乗りによって、パンクへと注目した。
「我ハココニイル」
「えっ」
「多分、あの像が発した言葉です」
僕の驚きに、モルギットが答えてくれた。ローブ姿の誰かを確認すると、操られた強者となっていた。
(とすれば、操っているのは、あの像なのか?)
「よっとぉ。おらさっ」
操られた強者から、様々な属性の魔法がパンクへ飛んでいく。でもそれらの攻撃を、パンクはじっと耐えている。
「ラル。作戦は?」
マーミンの言葉に、少しだけ迷ってしまう。最近の戦闘は、なにかしらのギミックが多かった。
あの鶏頭人が黒幕だとするならば、倒せば解決するのだろうか。
「とにかくこっちからの攻撃はなしで」
「えっ。オーケー」
攻撃しないという選択に、マーミンは驚いたようだけれど、一応納得してくれた。
「ゴッデスヒール」
操られた強者は、たしかにパンクに襲いかかっている。でもあの像は一言発したっきり、動く様子もなかった。
(あの像を壊せば良いのか? いや、そもそも鶏頭人はなんでこんなことをしてるんだ?)
僕はクエスト内容を精査する。討伐対象はなかった。だからあの隙間を埋めればクエストクリアってことだと思ってた。
でも完全クリアの条件は秘密だから、単に表示されていないだけかもしれない。
ただ僕らに依頼してきた女性は、この地下の事は知らないようだった。もしも知っていたならば、声が地下から聞こえるとか、話の中身が変わるはずだ。
「まだまだ余裕だぜ。我が名はパーフェクトタンク」
パンクが注意を引いてくれている。
今まで手に入れた情報を思い出す。奈落の鶏頭人に守られる。つまり、この地下墳墓を守るのは、奈落の鶏頭人という意味だろう。
でも礼拝堂にあった鶏頭人の像は、目の前の像とは姿が違っていた。
(奈落の鶏頭人? まさか、鶏頭人は二人いるのか!)
少しづつわかってきた。
忘れられた奈落の鶏頭人。信仰を受けるのは、礼拝堂の鶏頭人だけ。必死にここを守っているのに、誰にも知られない苦痛。そして『我ハココニイル』という言葉。
奈落の鶏頭人の目的は、自分の存在を思い出させることに違いない。
ならば戦闘など意味がない。倒すのではなく、説得するのが今回のクエストの完全クリア条件のはずだ。
「奈落の鶏頭人。聞いてくれ。僕らはちゃんと存在を伝える。だからもう、こんなことをしなくても良いんだ」
「我ハココニイル」
「ラル?」
僕の説得に、奈落の鶏頭人が反応した。
「彼らを操って、地上に伝える必要はない。僕らがしっかりと伝え、信仰を取り戻してみせる」
「我ハココニイル」
同じ反応しかしてくれない。まだ何かが足りないのだろうか。
どうしようと悩んだ途端、像から声が聞こえた。
「ヒャクネンモホウチサレタウラミ、オモイシレ!」
6体の操られた強者が、スゥッと消えていく。それと同時に、像から抜け出るかのように、鶏頭人が現れた。
その姿は像と同じだが、炎のオーラを纏っている。
(説得失敗か? いや、説得したからこそ、これが現れたのかも)
「怒塊? とにかく怒ってるみたいだわ。心の狭いやつね」
「これを倒せば、怒りを鎮められるはずだ」
「オーケー」
「わかった」
「はい」
空中を滑るようにして、怒塊が僕らに迫ってくる。




