73.忘れられた地下墳墓
他のメンバーはいなかったけれど、夜になるまでにモルギットがログインしたので、4人でクランクエストをやることにした。
夜の街は仕組みはわからないけれど、街灯が輝いて、近代的な感じがする。ただ建物は石造りなので、なんだかファンタジー感が漂っていた。
そんな中を地図に従って歩いていくと、やがて教会が見えてくる。
この世界の技術レベルは知らないけれど、ステンドグラスがとてもきれいで、厳かな雰囲気があった。
西洋風の教会の扉をノックすると、昼間に会った女性が顔を覗かせる。
「来てくれてありがとうございます。礼拝堂はあちらになります」
「こんばんは。よろしくお願いします」
僕が代表して挨拶をすると、女性が通路を案内してくれる。
やがて遠くの方から『ウガァ』とか『ウォ』みたいな声が聞こえてくる。
「ああ、今日も声が聞こえます」
女性は心配そうに廊下を歩いて行く。
そして少し進んだ先にあった大きな扉の前で、フイッと女性は足を止めた。
「こちらです」
女性は扉を開けてくれた。この礼拝堂には窓がなく、中は真っ暗だったので、女性がランプを手渡してくれた。
「よろしくおねがいします」
「ありがとう。頑張ります」
パンクがランプを腰から下げると、全員で中に入った。
「わぁ、雰囲気がありますね」
この教会のシンボルは、頭が鶏で体が人間という像だった。背中にドラゴンやコウモリ系の羽が生えているので、いわゆる鳥人間かもしれない。
大きめの台座にこのシンボルが乗っており、たくさんの椅子が長方形の部屋に並んでいる。おそらくはこのシンボルを眺めながら、多くの人が椅子に座って祈るのだろう。
ただ神聖っぽいこの部屋の中で、ずっと『ウガァ』とか『ウォ』と声が響いていた。
「声はするが、どこからだ?」
部屋の作りのせいか、声が反響している感じがするので、場所を特定するのが難しい。でもこの部屋を眺めれば、声がしそうなところはだいたい予想がついている。
「まあこのシンボルの近くだよね。きっと」
「この台座。床との間に隙間があるわよ」
僕が言うよりも早く、マーミンが台座を調べていた。僕が近づいて隙間に耳を当てると、そこから声が聞こえてくる気がする。
「やったな。それを塞げば依頼完了だ」
「それで良いのでしょうか? 声の元がわからないので、解決した感じがしないです」
確かに塞げばクエストクリアになりそうだ。でもモルギットの言うとおり、それで解決は少し怖い。
何より完全クリアには、さらなる原因究明が必要だろう。
「あっ、床にレールみたいな溝がある。これってアロイ・ガライみたいに、動くパターンじゃない?」
「本当だ。台座を押してみようぜ」
パンクと僕で、溝の方向へと台座を押してみる。でも予想通りに、台座が動くことはない。
「だよねぇ」
「まっ、わかってたけどな」
僕は他に何かないか、礼拝堂を眺めてみる。
窓がない長方形の部屋。たくさん並んだ椅子。正面に見えるシンボル。そうやって眺めていると、台座に文字が書いてあるプレートがハマっているのに気がついた。
「って、目の前に重要そうな情報があるじゃないか。このプレートの模様って文字だよね」
「んっ、本当だ。鶏頭人体操? なんだこれ」
鶏頭人体操のタイトルの後に、歌みたいなものが書いてあった。
右足くるくる回してね。足首回すの大事だよ。左も忘れちゃいけないよ。両手は万歳しましょうね。羽を広げて飛び立とう。羽を休めりゃ奈落行き。
「変な歌? だわね」
パンクが像の前で、自分の右足をくるくると回している。でも多分、プレイヤーが体操をしても意味はなさそうだ。
「でもこれって、この通りシンボルを動かせってことですよね」
そういえばモルギットも、自力でアロイ・ガライの謎を解いていた。こういうのが得意なのかもしれない。
パンクはコホンと咳払いをして、足首を回すのをやめた。そもそも羽がないから、僕らが体操をするのは無理だろう。
「多分そうなんだけど、ちょっと罠っぽい感じもあるよね。特に奈落行きのところ」
「つまりやるなってことだろ。ラルは難しく考えすぎなんだよ」
パンクはそう言うけれど、羽根を広げるべきか休めるべきか、判断する材料が今はない。もう少し悩めば、僕の考えもまとまりそうだ。
「うーん。奈落行きより、飛びだったほうが良いですよね」
「私はこういうの苦手だから、パンク以外に任せるわよ」
「なんで俺を省くんだよ」
「えー、だってそうでしょ?」
ニコッと笑うマーミンに、パンクはそれ以上何も言わない。自分でも苦手なのを理解しているのか、笑顔で怒りが消えたのかもしれない。
「やってみましょうか」
「待って。今わかった」
僕の言葉に、モルギットがキョトンとする。
「わかったって何がですか?」
「僕らが進むべき道だよ。僕らが行くべきは奈落なんだ。だから羽を休めるべきだ」
「ちょっと待って下さい。アロイ・ガライの例を考えれば、魔物が出る可能性が高いですよ」
モルギットの言うことも理解できる。でも奇妙な声は下からだ。つまり僕らが行くべきは下、つまり奈落に行かなくてはならない。
「下から声が聞こえるんだから、僕らは奈落に行くべきさ」
「あっ、そういうことだったんですね」
それでモルギットは納得してくれた。でもよくわからないのか、パンクが急かしてくる。
「どっちでも謎解きは任せるぜ。魔物の方は俺に任せてくれ」
「ではやりますね」
モルギットがシンボルの右足首を掴むと、キコキコと奇妙な音を立てながら、ゆっくりと右足首が回っていった。
「やっぱりだ。動くと思ったぜ」
パンクの言葉に誰も反応はしないけれど、モルギットは冷静に左足首を回し、さらにシンボルの両手をバンザイさせた。
「羽を休めます」
モルギットは背中の羽根を掴むと、キュッとたたんで休めていく。するとあれだけ重かった台座が、レールにそって動いていった。
「やった。下に階段があるぜ」
「定番よね。でも、声が大きくなったわ」
入口が開いたことで、声が大きく聞こえてくる。閉じられた先に人のような生物はいるはずがないから、叫んでいるのは魔物の可能性が高い。
「パンクを先頭でサクラが隣に、ラビィとマーミン、モルギットが真ん中で、僕が最後尾で行くよ」
「おーけー」
「わかった」
「はい」
隊列を組んで階段を下りると、なんだか気温が下がっていく気がした。
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階段の先は広めで直進している通路だった。ずっと奇妙な声が響き、なんとなく気分が悪くなってくる。
「一本道だな。進むぜ」
パンクの後ろから、僕たちはついていく。石造りの通路はなんだか寒気がして、声とあいまって怖い雰囲気がある。
何もない通路を歩いていくと、やがて十字路が見えてきた。
「広いな。確実に教会の敷地からは出ていそうだ。っで、どっちに行く?」
「そうだね。無難に右から行こうか」
「わかった」
パンクが十字路まで行き、右へと曲がった途端、『うっ』と声を上げる。
「地下墳墓ってやつか。石棺が並んでいるのに、蓋があいて中が見えるぞ」
右に曲がった先は、長方形の広間だった。そこに石棺が並び、ほとんど蓋が開いている。なにより恐ろしいのは、中で人らしきものが蠢いて見えることだった。
「これって敵なの?」
「いえ、操られた肉体って名前だから、誰かに操られているって考えて良いんじゃないかしら」
僕も名前を確認したら、たしかにそうなっている。ならば操っている何者かを排除すれば、今回のクエストは完全クリアになるはずだ。
「おい。宝石があるぜ」
パンクの言うとおり、石棺の側には綺羅びやかな宝石のアクセサリが落ちていた。
拾おうとするパンクを、僕はギリギリで制止する。
「ダメだよ。それを持って帰れば、間違いなくクエストは失敗する」
「落ちてるものは自分のものが、冒険者のルールだろ?」
でもパンクは納得していないようだ。
「まあ迷宮とか、盗賊団のアジトならわかるけれど、ここって地下墳墓って言ってたでしょ。つまりは副葬品なのだから、持って帰ったら泥棒だよ」
「あっ、たしかにな」
それでわかってくれたようだけれど、近くで蠢いている肉体がある状況で、石棺の側のアクセサリを拾おうとする精神力だけは褒めてあげたい。
「ここは行き止まりみたいだし、逆側を行きませんか?」
「そうだね。パンクよろしく」
「わかった」
再びパンクを先頭に、僕らは通路を歩いて行く。




