69.隠された部屋
落ち着いてから、僕らは広間を探索した。でもここが行き止まりみたいで、他に通路が見当たらない。
「ここが家だったみたいですね」
「うーん。これで終わりっていうのも、なんとなく変だよね」
現れたネズミは、大きなネズミに射撃ネズミ、そして騎士ネズミの3種類だけだった。普通ならネズミキングとか、ネズミクイーンがいてもおかしくないだろう。
そうでなければ、騎士ネズミは何を守るために存在しているのかって話になる。
「騎士が守るべき王がいなかったじゃない? これって変だよ」
「ああ、たしかにそうですね。でも、行き止まり……不思議です」
あのでかい射撃ネズミが、ハズレポップだったのかと考えたけれど、クエストなのだから何度も挑戦する話ではない。
きっとまだ秘密があるはずだ。
「あれっ、ねぇ、この壁おかしくない?」
「はい? あ、色が違いますね」
他の壁は硬そうで暗い色なのに、この壁だけは大きな楕円形の形で、色が明るくなっている。
「塗り込めた感じ? もしかしてこの先があるのかも」
僕は壁を蹴ってみた。
「げっ、意外に硬い。サクラ、斬れる?」
「試してみます」
見た目は軟そうに見えるのに、サクラの刀も通じなかった。
「何か仕掛けがあるんでしょうか?」
「どうだろう。でも何かがあるのは確かだね」
色の変わった壁の周りを調べてみたけれど、ボタンらしきものもない。壁の出っ張りがボタンかもと、いろいろ触ってみたけれど、それでも何も見つからなかった。
「そういえばラルさんは、この洞窟に入る時に、何をしてたんですか?」
「ん? あっ、そうだ」
僕はインベントリから穀物を取り出した。
「もしかして誘導して、戦闘が楽になるかなって持ってきたんだ。この向こうにネズミがいるなら、おびき出せるかもしれない」
「いいアイディアですね」
僕は色の変わった壁の前に、穀物をばらまいた。
「離れて様子を見よう」
「はい」
陰に隠れることはできないので、僕らは少し離れたところから様子を見た。
カリカリカリカリッ。
しばらくすると、そんな音が聞こえてくる。
「何の音だろう?」
「壁を擦っているみたいです」
小声で僕らは会話する。ラズベリーに耳元で囁かれたので、不意に緊張してきた。
(慣れてないからドキドキする。でも美女じゃなく、美化機能を使ってるって思えば、少しは緊張がほぐれそうだ)
そんな事を考えている間にも、カリカリッと音は続いている。
「チュイーン」
突然、壁にぽっこりと穴が空き、ネズミの鼻と口元が飛び出して見えた。
「やっぱりいたんだ。でも騎士ネズミくらい大きいかも」
「守護ネズミ? なにかを守ってるみたいですね」
守護ネズミは穀物を見つけると、一気に穴を広げていく。その勢いで、ぼろぼろと色の変わった壁が崩れていった。
「戦闘開始だ」
僕らが近づくと、守護ネズミも反応する。開いた穴から、守護ネズミが3体も飛び出してきた。
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飛び出してきた3体は、三角形のような陣形で、僕らに向けて突進してくる。
「ウオォォォォン!」
キンちゃんが先制で咆哮すると、3体は目標を変更した。
「左に集中して数を減らすよ。ムーンボール!」
「ウィンドアロー!」
「ウォーターランスですの」
僕の無属性は大丈夫だったけれど、風と水には耐性があるのか、少しダメージエフェクトが少なく見えた。
この攻撃で目標を僕へと変更した守護ネズミに、サクラが飛び込んだ。
「ここです!」
弱点は物理なのか、僕の魔法以上に多角形の板が飛んでいた。だがさすがに守護ネズミという名前だけあって、簡単には倒れてくれない。
目標を変えた守護ネズミは、サクラに向かって噛み付いた。
だがそこにサクラはいない。ガチンっと守護ネズミの歯が鳴った。
すでに間合いをとったサクラは、次の攻撃へと備えている。
「ムーンスピア」
「アクアランスですの」
ダメージを受け、少し動きが悪くなった守護ネズミへ、サクラがさらに刀を振るう。
そこまでダメージを与えたら、やっと守護ネズミは多角形の板を撒き散らして消えていった。
(結構硬いけれど、驚愕ってほどでもない。なんとかなりそうだ)
「ラルさん!」
ラズベリーの声に周りを見渡すと、キンちゃんに向かっていた1体が、僕へと目標を変えていた。
(サクラに行かないのか)
少し離れたところでは、キンちゃんが1体をあしらうような感じで、しっかりと時間稼ぎをしている。
「ムーンシールド!」
向かってきた守護ネズミの突撃を、僕は魔法で和らげる。そのタイミングを狙ったかのように、次々魔法が飛んで行く。
「ウォーターランスですの」
「ウィンドアロー」
「ここです」
綺麗に飛んでいくダメージエフェウトを見ながら、僕は守護ネズミから距離を取る。ダメージで注目されたのか、今度はサクラに目標を変えていた。
近距離からの守護ネズミの頭突きを、サクラは剣でガードする。少し勢いに押されるが、サクラ自身にダメージはないようだ。
(修復できない武器だけど、ダメージを受けるよりはマシだよ)
躊躇なく防御に使ってくれたことを嬉しく思いながら、僕は戦況を分析する。
「ウィンドショット」
「アクアランスですの」
「いまです!」
キンちゃんが守護ネズミを分断してくれたので、個別撃破が可能だった。サクラの攻撃まで全て命中すると、2体目の守護ネズミも消えていく。
「残り一体だ。気を引き締めていこう」
気を引き締めろと言いながらも、こうなれば特にトラブルもないはずだ。戦況を細かく分析する必要もなく、やがて残りの1体も倒すことができた。
「よし。おつかれさま」
「お疲れ様です」
「やったですの」
「マスターのために」
「歯ごたえのない相手よ!」
長くなる戦闘はつかれるけれど、危険が少ないならそれに越したことはない。
「少し休んでから、守護ネズミがでてきたところを確認しよう」
「はい」
僕は硬い地面に座り込んだ。




