62.ラビィの進化
あっという間に狼の村のポータルへ到着した。
「これは便利だねぇ」
「そうですね。トツゲキング召喚」
地面に魔法陣が浮き出し、そこからキンちゃんが現れる。
「ウワォォォォン。久しぶりだな」
「キンちゃん、こんにちは」
そう言うとラズベリーは、ズボッとキンちゃんの中へと埋まる。そしてひょっこりと上半身だけを突き出した。
(正式名称はトツゲキングだったんだ……)
「キンちゃん、久しぶりナァ」
「ウガァ」
「ふむ。ラビィもサクラも元気そうで何よりだ」
僕らは魔物言語を持っているので、召喚獣の会話も弾んでいる。村の方へと向かうと、森狼を発見したので、軽く攻撃してみた。
「ムーンボール!」
問題なくこの一撃で、森狼が消えていく。
「おっ、経験値がすごいね」
「えっ、あっ、前より一杯入ってます」
明らかに経験値バーが伸びていた。レベルアップ寸前だったので、しばらく狩っていればレベルが上がりそうだ。
僕らはそのまま南下して、森狼を倒して行く。すると10体倒したところで、クランポイントを1手に入れた。
「おっ、10体で1ポイントみたいだね」
「しかも私はレベルが上がっています」
ラズベリーはレベルアップしたようだ。僕も確認してみると、ついに15レベルになっている。
「やった。15レベルだ。ラビィも15レベルになったよ!」
「えっ、おめでとうございます」
「進化レベルだ。ラズベリー、悪いけど鬼の村に行くよ。そこなら誰にも見られず進化できる」
「私も行きます。進化を見たいです」
「やっと進化だナァ。きっと強くなるナァ」
「ウガァ」
そうして僕らは、鬼の村へと向かった。
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鬼の村の広場で、ラビィに装備を全部外してもらう。
久しぶりに無防備になったラビィは、相変わらずチューブトップとショートパンツの形に、真っ白な毛が生えていた。
「さて、進化するよ」
「準備はいいナァ」
「どんな風になるのか、すっごくドキドキします」
ラズベリーの召喚獣じゃないにしても、やっぱり進化は気になるみたいだ。
僕は高揚した気持ちを落ち着けるように、息をふぅっと吐くと、ラビィに進化を試してみる。
『進化先を選んでください』
予想外のメッセージが出た。表示された進化先は『ウォーラビット』と『ラビットガール』の2つだった。
(ウォーラビットはバトルラビットの通常進化系だ。進化するならば『ラビットガール』だろう)
進化を繰り返したら強くなるのかなと思ったけれど、ウォーラビットからラビットチャイルドに戻れる保証はないし、余計な事を試す気にもならない。
それよりも『ラビットガール』という名前にドキドキする。いわばバニーガールに名前が近い、僕の理想の進化かもしれない。
そう考えて『ラビットガール』を選択すると、『うさぎのしっぽ』を100と妖エッセンスを100。さらに獣エッセンスを300と人エッセンスを500要求された。
『よろしいですか?』と出ているが、僕の選択は決まっている。
(数はある。もちろん進化だ!)
進化を選択すると、ラビィの体が輝いていく。まるで光そのものになったかのように、輪郭だけがシルエットのようにして残っていた。
そしてその光の中へ、うさぎのしっぽやエッセンスが、こちらも綺羅びやかな光となって吸い込まれていく。
やがて光が弾けた時、そこには成長したラビィがいた。
「おまたせですの。新生ラビィをよろしくですの!」
以前のラビィよりも、間違いなく成長していた。背は高くなり、顔もちょっとおとなになっている。でも前のラビィが小学生とするのなら、今度のラビィは高校生くらいだろう。
胸も少し大きくなって、前よりもスタイルが良くなった気はするけれど、まだ僕の望む大人のバニーガールではなかった。
(今回はレオタードっぽく白い毛が生えている。それでもお腹のところだけ生えてなくて、おへそが見えるのがチャームポイントかな)
「よろしくラビィ」
「ウガァ」
「ふん。小娘も成長したか」
「うわぁ、よろしくおねがいします」
ちょっと気になることと言えば、言葉使いが変わっていることだ。ナァの語尾に慣れたせいか、ですのますの系に少し戸惑ってしまう。
でもついに進化ができたのだ。なんだかじんわりと感動してきた。
僕は外してもらった装備をラビィに渡す。サイズの問題はないようで、しっかりと装備できていた。
(少しおとなになったラビィか。悪くはないな)
そう言えばどれくらい強くなったのかと、ステータスを確認してみた。
種族はラビットガールに変更で、1レベルからはじまるようだ。水魔法が流水魔法に進化して、新たに『ウォーターランス』を覚えている。
さらに癒魔法も進化して、治癒魔法になっていた。『レタヒール』と言うのは、きっとヒールの上位魔法なのだろう。
「んっ、魔導?」
「そうですの。私は魔法を自動的に強化する魔導を持っていますの」
固有技能から突進が消えた代わりに、魔導というスキルが増えていた。プレイヤーの魔法使いで言うところの、魔術に相当する技能みたいだ。
そう言えばラズベリーがラビィをモフりたかったみたいだけれど、毛の生えている部位を見て自重したようだ。
「戦ってみましょうか?」
「そうだね。よろしく」
「頑張るですの」
「ウガァ」
「ふん。我に遅れぬようにな」
僕らは狼の村を出て、再び森へと向かった。
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戦う前にラビィのステータスをもう一度確認したが、ちゃんと今まで覚えていた魔法も残っているし、ステータスも減少してはいなかった。
魔導という技能を覚えたことで、後衛としてさらに活躍してくれそうだ。
そんなことを考えながら歩いていたら、不意に森狼が現れる。すると真っ先にラビィが反応した。
「ウォーターランスですの!」
槍の形をした水が、キラキラと輝きながら飛んでいく。森狼に当たって弾け、ダメージエフェクトとともに、きれいな水しぶきが飛んだ。
「余裕だね」
「余裕ですの」
ただクランメニューを見ていたら、僕の討伐カウントが上がっていなかった。
「ラズベリー。もしかして今のカウントされていない?」
「あっ、倒したのに、クランポイントの討伐に加算されていないみたいです」
ラズベリーの言葉で確信する。どうやらこのゾーンは15で適正を超えるようだ。
「仕方がないから、僕はロードラクル狩りに変更するよ」
「そうですね。私は森狼狩りを続けてみます」
「ごめんね。それじゃまたね」
「またー」
僕はパーティを解消し、ポータルへと向かった。




