06.小鬼狩りの始まり
『小鬼の森』とか怖い名前の割には、それほど深い感じもなく、陽の光も入ってくる。でこぼこはしてもそれほど歩きにくくはない森の中を、僕は小鬼を探して歩いていた。
「いた!」
森の中を小鬼が一体、ぼんやりと歩いていた。灰色の肌をして腰をかがめたその姿は、一見すると人のようにも見える。だが額から生える小さな角が、魔物だということを教えてくれた。
僕は小さな木人形を倒した時のように、魔法力を3消費してムーンブラストを使用する。
青白い光の玉は小鬼の頭に直撃し、多角形の板を撒き散らした。
「おっ、一撃だ」
そのまま小鬼はすうっと消える。
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小鬼の角×1
人エッセンス×3
鬼エッセンス×2 を手に入れました
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戦闘ログにアイテムドロップが表示される。当然かもしれないけれど、卵はドロップしなかった。そう言えば腰布だけで胸が丸見えだったから、雄の小鬼だったのだろう。
「エッセンスって知らないアイテムだ」
ベータでも情報が出ていなかったから、おそらく正式から追加されたのだろう。説明を読むと、卵との契約時に使用することで、その魔物の可能性を無限に広げると書いてあった。これは人も鬼も、どちらのエッセンスでも変わらない。
「これってバトルラビットの進化に書いてあったあれかな。他にも可能性はあるよとかいうやつだ」
バトルラビットの最後の進化はラビットンという人型の魔物だった。そこに別の可能性とかあったから、僕は密かにバニーガール的なものを期待していた。
「もしかして人エッセンスを使えば、本当にバニーガールが仲間になるかも?」
とは言え情報が全然ないので、どうなるかはわからない。その可能性を模索するよりも、まずは小鬼を仲間にしたい。
「の前にレベルアップだよ。暗くなったら見えなくなっちゃう!」
僕はエッセンスのことは気にせずに、とにかく小鬼を倒すのだ。
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どうにか夜の前にレベルアップはできた。でもすでに森の中は赤く染まるほどに、完全に夕焼け状態になっている。
「スキルポイントはレベルアップで5だから、合計6になった。夜目の取得ポイントは2だから、十分過ぎるポイントだ」
でもスキル枠が10なので、これを取得すれば空きは2つだけだ。でも今更躊躇する気もない。
「取得っと」
夕方とは言え、まだ明るい。夜目の効果がどれくらいあるかわからなかった。
「うーん。夜目1って言うのが気になるよね。今のうちにポータルの方へ移動しておこう」
そうやって移動していると、どんどん日は落ちていく。ポータル側に来た時には、すでに真っ暗になっていた。
「ぐはぁ、ほぼ真っ暗じゃん。夜目はどうなってるんだよ」
明かりのない場所では、星明りでもなければ完全に何も見えない。薄っすらと見えるのは、夜目のおかげといえるだろう。でもだからといって、戦えそうなほど明るくも見えていない。
「仕方ない。取得してしまったし、ここで夜目を鍛えよう」
おあつらえ向きに、星も出ていない夜だった。おそらくは平原にいるであろう魔物探しでもすれば、少しはスキルが上昇するかもしれない。
「夜は雰囲気がかわるなぁ」
昼は暑く感じていた気温も、寒く感じるほどに下がっている。どこかからフクロウの鳴き声が聞こえるのも、恐怖の雰囲気を彩るのに十分だった。
「森を見てもよく見えないし、フクロウの姿もないよね。あ、フクロウって魔物なら契約できるかな」
そんなふうに森や草原を見ていたら、不意に少しだけ明るくなった気がした。
「あれ、もう夜明け?」
日が落ちてから数分しか経っていない。いくらなんでも夜明けはないだろう。
「あ、レベルが上がったのか」
夜目のレベルが2になっていた。やはり使っていれば、レベルが上がるらしい。
「よし、この調子でレベルを上げるぞ!」
僕は再び草原に目を凝らした。
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うっすら魔物が見えるようになったので、少しだけポータルから離れて平原の闇バッタを倒してみた。昼はバトルラビットだけと、夜は闇バッタという大きなバッタになるらしい。
ドロップは『バッタの足』と『虫エッセンス』で当然卵はないし、欲しいとも思わない。そして平原に朝日がのぼりそうな頃、僕の夜目は5になっていた。
「よし。ここまでくれば戦える。真昼のようにはならないけれど、これで十分だよね」
夜の間のスキル上げで、召喚師レベルが3、無魔法は4、魔力の雫や魔法制御も4になった。一応識別も3に上がったけれど、いまだに有効な使い方はわからない。
「一度街に帰って小鬼退治の報告だ。ついでにログアウトして休憩をしよう」
僕は夜が明ける前に、一度街へ戻ることにした。
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僕は再びログインしていた。ログアウト前にギルドへ報告を済ませて、すでに報酬を1000ウェド受け取っている。合計1500ウェドだけど、武器は5000ウェドと言っていたから、まだまだお金は足りない。
でもいまやるべきはお金稼ぎではなく、小鬼の卵を手に入れることだ。すでに明るくなった街の中を、僕はポータルへ向かって進んでいく。
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森に着いたので、早速小鬼狩りの開始だ。
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小鬼の角×1
人エッセンス×1
鬼エッセンス×3 を手に入れました
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当然のごとく卵は出ない。僕は森を歩き、次の小鬼を探す。幸い森のなかには、他にライバルはいない。何しろベータの時に、この森の奥に『小鬼の村』が見つかっている。そこの『小鬼の村長』がいい装備をドロップするので、『小鬼の村』ファームが主流になっているのだ。
ちなみにファームというのは、なんども繰り返し狩ることを農業に例えたゲーム特有の言葉だ。『レッドドラゴン』とか言うボスならば、『レッドドラゴン』ファームして、炎の剣を手に入れようぜ。みたいな使い方になる。
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小鬼の角×1
人エッセンス×2
鬼エッセンス×2 を手に入れました
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とか考えながら狩っているが、卵の気配が感じられない。僕は森の中をさまよって、次の小鬼を探していく。
「発見だ!」
ムーンブラストで一撃で倒す。一応僕は卵を探しながらも、スキルのレベル上げを気にしていた。おそらく召喚師のレベルは、このあたりでは4か5ぐらいで適正を超えるだろう。でもスキルに適正ゾーンはない。だからなるべくスキルを使って、スキルだけでもレベルを上げておきたいのだ。
「でもちょっと気持ち悪い。いや、我慢しないとスキルは上がらない」
ムーンブラストを連射して、魔法力を常に枯渇に近い状態を維持していた。これは僕の予想だけど、魔力の雫のスキルを上げるためには、魔法力に余裕があってはならない気がする。余裕がないからこそ経験値が入り、スキルが上昇するというのは、多分間違っていないはずだ。
「ただ枯渇に近づくと、普通に気分が悪くなるのが問題だね。でもスキルのために我慢さ!」
召喚獣のいない召喚師なんて、できることが限られている。だからせめて、スキルだけでも整えておきたい。
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小鬼の爪×1
人エッセンス×3
鬼エッセンス×5 を手に入れました
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ちょっと珍しいアイテムがドロップした。確率で言えばアンコモンってところだろう。具体的には『小鬼の角』はコモンドロップ。ドロップしないほうがおかしい確率だ。そしてアンコモンは十体で一回くらいドロップする確率だ。簡単に言えば10パーセントになるだろう。
レアになると1パーセントでドロップするかしないかだ。でも100狩ればドロップするくらいなら、ちょっと頑張れば余裕に思えた。
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小鬼の角×1
人エッセンス×5
鬼エッセンス×4 を手に入れました
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エッセンスは毎回出ているから、いわゆるコモンドロップだ。すでに結構な量があるけれど、まだ使う機会に恵まれない。
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小鬼の角×1
人エッセンス×2
鬼エッセンス×5 を手に入れました
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今でだいたい50くらいは狩っているだろう。でも確率的に言えば、ドロップしていなくてもおかしくはない。
「まだまだだ。100を超えてからが本当の勝負さ」
僕は森の中を小鬼を探して歩き回る。