58.イモキン前の前哨戦
僕らはパンクを先頭に、森の中を奥へと進んでいく。
芋虫は特にレアを落とすこともなく、ちょっと過剰戦力気味に、安全に歩くことができた。
「まだ奥なの?」
「もう少しだね」
温すぎる状況に、マーミンが飽きてきたようだ。でも予定しているウェーブは、きっと危険が増しているはずだ。
パーティでダンジョンに行った場合、強さはそれほど変わらないけれど、数が増えていると教えてもらったことがある。
でも僕が戦ってみた限り、強さも間違いなく上昇している気がした。この前のダンジョンでは、ソロで戦う時間と同じくらいで、パーティで一体を倒したりしている。
ということは防御力が上がっているか、耐久力が上がっているかのどちらかだ。でも感覚的には苦労していないので、強さはそれほど変わっていないという感想になるのだろう。
「むむっ、誰かいるぞ」
キンちゃんが森の奥へと駆けていく。
「待って」
ラズベリーがそれを追いかけた。
僕らも遅れないように、ラズベリーを追いかける。
(おっ、この前のリスを発見)
「怪我してる。回復をお願いします」
「任せて。ヒール!」
ラズベリーがそう言うと、モルギットがすかさずヒールをかける。
「う、うぅ。あいつが来る! うわぁ、あいつが、魔王が来るぅ!」
やっぱりこの魔物がトリガーのようだ。
「あれ? このリスみたいな魔物は、何を言っているの?」
「魔物言語がないと、わからないみたいだね。魔王が来るって言ってるよ」
魔物言語を持たない人たちの、顔色がサッと変わる。
「魔王? そんなのがいるのか?」
「多分イモキンのことでござる」
赤さんは勘がいいのか、それだけで魔王の正体を見抜いていた。
「だ、だれ? 僕は助かったのか」
前にも体験したとおりのイベントが、目の前で展開されていく。
「ぼくらの村はもう終わりだ。もうみんな逃げ出した。僕が逃げられたのは奇跡かもしれない。悪夢のような魔王、芋虫キングが目覚めたんだ」
「やっぱり魔王はイモキンなのか」
「もうずっと前に倒されたはずなのに、突然村を襲ったんだ。あの芋虫の大群。逃げ遅れた仲間は糸で捕まって……。と、とにかく僕は逃げる。君たちもこれ以上、北に行ってはいけない。ここより北は、もう芋虫キングの領域なんだ」
「お前も気をつけてな」
「助けてくれてありがとう。いつかどこかで出会えたら、そのときは必ずお礼をするよ」
パンクの返答が理解できているのかはわからないけれど、リスみたいな魔物は南へと消えていった。
「これでイモキンと戦えるはずさ」
「こんな奥にイベントがあったんだな」
「魔糸はチェルナーレで買えるから、さっさと通過してたのよね」
マーミンの言葉に僕はドキリとする。
そう言えば村の人が『この村の特産は魔糸で街に売っている』とか言っていた。
(だからこのあたりにプレイヤーはいないのか)
僕は理由に納得し、ふっと顔を上げた。
「このまま奥でいいの?」
「パンクを先頭に、このまま北で大丈夫だよ」
僕らは再び隊列を組むと、そのまま北を目指した。
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そうやって北へと進むと、マップの表示が『北の森』から『芋虫の森』に変化した。
「ここだよ。この広場の中央あたりに移動すると、ウェーブが発生するんだ」
「魔物の連続出現でござるな」
「前は確か3回くらいで、最初は3体だと思ったけれど、あんまり覚えていないや」
僕の言葉に、みんなが笑顔になる。
「問題ないわ。パーティを組んだら回数や数も変わるかもしれないし、参考程度でいいのよ」
「うんうんでござる。ただ魔物が周囲からくるなら、隊列を変えた方がいいでござる」
赤さんの言うとおり、魔物は周囲からポップする。真ん中に後衛を集めて、前衛職の人に周りを固めてもらおう。
「パンクとキンちゃんとサクラで三方向をケアしよう。残りは真ん中から周囲にアタックだ」
「はい」
「オーケー」
「了解だ」
準備を整えると、なんだか興奮してきた。フルメンバーでのウェーブは初めてだし、何が起こるのかと考えるだけでワクワクする。
「それじゃ、始めるぜ」
パンクが広場中央へと移動する。
すると軽く地面が揺れる。その揺れが収まると、周囲から芋虫が姿を見せた。
「いきなり8体だ! ムーンブラスト!」
「ファイアショット!」
以前のウェーブでは一撃で倒せている。念のため全力で撃っているので、おそらく一撃のはずだ。
青白い光が芋虫にぶつかると、予想通りに多角形の板を撒き散らして消えた。
そして赤い火が5つ、芋虫に次々と着弾していく。
その一撃で当然のように、芋虫は消えていった。
「残り2だ」
と言っている間にサクラが一体を倒し、赤さんが矢で芋虫を射抜いた。
(おお、初めて見た。弓も格好いいな)
矢が当たった瞬間にダメージエフェクトが舞い、芋虫は消えてゆく。
「次のウェーブに備えて」
「スキル温存は正しかったな」
と同時に、森からバキッと木を折る音が聞こえてきた。
「んっ、上位がいるかも。注意して」
木を折りながら出現するのは、イモキンか芋虫の騎士だけだ。ウェーブが2回目なのを考えると、おそらく芋虫の騎士だろう。
「数は8だけど、騎士が2体いる」
「我が名はパーフェクトタンク!」
パンクの名乗りで、全ての芋虫がパンクの方を向いた。
「ストーンニードル!」
「ムーンスピア」
「アクアランスナァ」
「三本射ちでござる」
「我に任せよ」
いい感じにターゲットがばらけている。僕らはそれぞれの攻撃で、芋虫を確実に倒していった。青白い光、燃え上がる火にキラキラと輝く水。バトルフィールドが華やかになる。
「ゴッデスヒール」
雑魚芋虫は一掃できたけれど、芋虫の騎士がまるまる2体残っている。パワータイプの魔物2体を相手に、パンクも多少苦戦しているのかもしれない。
「ファイアランス!」
「ウィンドアロー」
「ムーンブラスト!」
「アクアショットナァ」
マーミンは高レベルで遠距離のアタッカーだから、複数攻撃も単体攻撃も強い。
僕らが複数魔法を当てても倒しきれない芋虫の騎士を、ファイアランスの一撃で葬っていた。
(威力が違いすぎる。あっ、弱点属性か……)
いくらマーミンでも耐久力重視の魔物を、一撃は難しいだろう。でも弱点属性ならば、不思議でもなんでもなかった。
「まだ倒さないで」
キンちゃんが攻撃しそうだったので、僕はそれを制止する。最後に残った芋虫の騎士を倒すのは、まだ若干早いのだ。
「えっ、どういうことですか?」
ラズベリーが聞いてくる。マーミンや赤さんは、僕が何も言わなくても、攻撃することをしなかった。特に赤さんは弓で追撃すれば、最後の芋虫の騎士を倒せていただろう。
でもそれをしないのには理由がある。
「名乗りのリキャストタイムがまだあるから、次のウェーブに行く前に念のため復活させておこう」
倒した瞬間、次の魔物が襲ってくるかもしれない。その時に名乗りが使えないとなれば、間違いなく混乱した戦闘になってしまう。
「あっ、そうなのですね」
「おいさっ。そろそろ頼む」
盾で芋虫の騎士の攻撃をいなしながら、パンクが合図をくれた。
「おまかせでござる」
ヒュンッと矢が飛んでいく。それは芋虫の騎士の首っぽい場所に当たると、多角形の板を撒き散らした。




