57.森の小道で
そんな感じで武器を作成していると、キーン小鬼刀、攻撃力26+64、必要筋力40、キーン4レベル、シャープネス5が完成した。
鍛冶レベルも8になったし、とてもいい結果だった。
「サクラ、これからはキーン小鬼刀でよろしくね」
「ウガァ」
「おめでとナァ」
ちょうど鍛冶も終わって外に出ると、マーミンからメッセージが飛んできた。
マーミン:こんにちは。時間大丈夫なら、イモキン狩りに行かない?
ラル:こんにちは
フレンドリストを確認すると、ラズベリーもログインしていた。というか、僕のフレンドリストの人が全員ログインしている。
こんなことは珍しいので、せっかくだから皆で行ってみたい。
ラル:時間は大丈夫。フレが何人かログインしているから、一緒に行ってもいいかな?
マーミン:いいよ。ラズベリーには連絡済みよ
ラル:了解。例のポータルで待ち合わせをしよう。イモキンの森まではちょっと歩くから
マーミン:オーケー。また後でね
ラル:後でね
僕はログインしていた赤忍者、パンク、モルギットへ連絡した。幸いにも全員がオーケーだったので、森狼の村のポータルで待ち合わせした。
「新しいレアもでるかもね」
「楽しみだナァ」
「ウガァ」
そんなことを話しながら、チェルナーレの街の中をポータルへ向けて歩いて行く。
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森狼の村のポータルへ到着すると、すでに集まっていた僕以外の人が、楽しそうに話していた。
「おまたせ」
「よぉ、鉱山迷宮ぶりだな」
「こんにちはー」
「こんにちはでござる」
「こんにちは」
そんな感じでめいめい挨拶すると、僕らは東へと歩きだす。
「あっと、パーティ組まなきゃね」
そうやってパーティを組みながら街道を歩いていると、やけにマーミンとパンク、モルギットの三人が仲良さそうな感じがした。
「もしかしてマーミンとパンクとモルギットは知り合いだった?」
「そうよ。結構初期のころからパーティを組んでたわ」
「いろいろあって別れたけど、あれはちょっと悪かったと思ってる」
何があったのか知らないけれど、なぜかパンクが謝っていた。
「気にしてないわ。私の主義は頼られれば助け、敵対するものは無視だから。特に敵対していないパーフェクトタンクやモルギットには、嫌な気持ちもないわよ」
「そういってもらえると気が楽になるよ」
「私もです。あの時、何も言えなかったから」
「もういいのよ。また縁があってパーティを組むんだから、楽しくやりましょう」
少しだけ何があったのかなって思うけれど、目の前で解決したものをほじくり返す気にはならない。
「そうだ。赤さんは小鬼の調子はどう?」
赤忍者って言う呼び方が、なんだかフレっぽくない気がして、思い切って赤さんって呼んでみた。
「赤さんでござるか、いい呼ばれ方でござるな。よかったらみんなも赤さんでよろしくでござる」
ちょっと緊張したけれど、なんとか気にってくれたみたいだ。
ひとしきり『よろしく赤さん』で盛り上がる。それが落ち着いた後で、あらためて赤さんが口を開いた。
「小鬼は今のところ700くらいでござろうか。あと少しでござるな」
「そっか。頑張ってくれたんだね」
「ねぇ、もしかしてあの迷宮に一緒に行ってくれるの?」
「その予定でござる」
「あの迷宮?」
パンクがあの迷宮が気になったらしい。
「小鬼の村に迷宮があるんだ。ただ小鬼と仲良くならないと、入れない迷宮なんだよね」
パンクとモルギットが驚いていた。誰かが小鬼の村ファームを推奨したせいで、やっぱり知られていないらしい。
「そうなのか。ということは俺らも入れないな」
「森で小鬼を狩れば入れるけれど、モチベーションが必要よね」
マーミンの言うとおりだった。ただ行ったことがないと言うだけで、小鬼を1000体はヘビーなのだ。
BOTみたいなのも存在しないし、目的なしでは疲れてしまう。
「なんだかポカポカと気持ちいいでござるな」
話を変えるかのように、赤さんがポツリと呟いた。
森の中を流れる風が、暑くなりそうな中で安らぎを与えてくれる。自然に調整された空気が気持ちよく、赤さんの感想もよく分かる。
「ちょっと横になりたくなるよね」
「油断しちゃだめよ。魔物が襲ってくるかもよ」
街道で魔物にあったことはないから、おそらく出現しないのだろう。それでも一応油断せず、久しぶりの森の小道を楽しんだ。
「すでに気持ちよくなっているでござる」
赤さんが近くを歩くキンちゃんを見て言った。
そこには下半身を毛の中に埋め、うつらうつらと船を漕ぐラズベリーがいた。
「静かだと思ったら、居眠りしてたんだ」
「もふもふに包まれて、気持ちよさそうですね」
魔物退治だレベル上げだと、最近頑張っていたけれど、こういうまったりとした時間が、なんだか楽しくなってくる。
最近の頑張りのおかげで、15レベルは目前だ。なんレベルかの時に、やけに経験値バーが硬く感じるのがあった気がするけれど、スキルのレベルも8になってからは、いきなり上がりにくくなっていた。
おそらくは一定なのではなく、そういう地獄みたいな経験値バーの時があるのだろう。
(バーガーを食べて乗り切るべきだったのかな。まあ高レベルで最前線をってわけじゃないから、そこまで急ぐことでもないよね)
そんなふうに歩いていると、村の入口が見えてきた。
「あの村にある北の森の奥に、イモキンがいるはずさ」
「ポータルがないから、ちょっと面倒よね」
ここに用事があるとすれば、布装備の素材となる魔糸くらいだろう。僕は今のところ芋虫ドロップしか知らない。それでも前に来た時には、人が少なかったから、他にも入手方法があるのかもしれない。
もしそうだとするならば、人が来ない理由はよく分かる。
「そのおかげで空き空きで狩れるわけだし、良いことしかないよ」
「そうね。イモキン目指して頑張りましょう」
僕らは村からすぐに出て、北の森の奥へと進んでいった。




