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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
戦力が足りない
52/176

52.スキルの進化

 予想はしていたけれど、最後のボスはアロイ・ゼロではなく、通常のアロイ・ガライだった。

 

 魔法特化のボスみたいで、ムーンシールドでダメージを軽減しなければ、ちょっと危険な感じだったけれど、基本的にやわいので、ピンチになることもなく倒すことができた。

 危険がなかったからという訳でもないけれど、ドロップは『執事のベスト』のレシピだった。

 

 おそらくフォルクシーで装備が直接ドロップし、アロイ・ガライでレシピがドロップするのだろう。

 

「そしてついに、この時がきたね」

「おめでとナァ」


 アロイ・ガライの部屋でスキルを確認すると、いくつかのスキルがカンストしていた。 

 無魔法、魔力の雫、魔力制御の3つが、ついに10レベルになったのだ。

 

 全てが同じというわけではないけれど、大抵のスキルは10レベルで進化する。


「んっ、魔力制御は進化しないのか。これで終わりってわけだね」


 3つの内、魔力制御だけは進化しないスキルのようだ。レベルも最大表示なので、これで十分ということだろう。

 

 そもそも魔力制御の効果は、魔法を使うときの使用魔法力を、増減させるというものだ。ただし、魔力制御レベルまでの魔法にしか効果がないから、10レベルあれば全てに適用できるってことなのかもしれない。

 

 無魔法は後にして、僕は『魔力の雫』の進化を試みる。

 

「使用SPは10だ。ベーシックな値だね」 

 

 進化しますかの問に、僕はイエスと答えた。

 

>>>>>>>

『魔力の雫』が進化しました。

『魔力の泉』を取得しました。

<<<<<<< 


 進化させたことで、魔力の雫以上に魔法力の最大値が上昇した。魔法力自然回復量は数値で見えないけれど、きっとそっちも上昇しているだろう。

 

「最後は無魔法だ」 

「たのしみだナァ」 

 

 無魔法の進化に必要なSPは15だった。ちょっと多いけれど、しばらく使っていないので、ポイント自体は余っているくらいだ。

 

 僕は進化しますかの問に、迷わずイエスと答えた。

 

>>>>>>>

『無魔法』が進化しました。

『虚無魔法』を取得しました。

『虚無魔法:ムーンボール』を取得しました。

<<<<<<< 


 虚無に進化しても、変わらず月のイメージのようだ。ムーンボールはきっと、月のような輝きで飛んで行くのだろう。

 

「ムーンボールは最初から15消費なのか。威力に期待できそうだね」 

「マスター、おめでとナァ」

「ウガァ」

「ありがとう。ラビィ、サクラ」


 でも残念なことが一つある。ラビイの水魔法もカンストしているのだが、進化することができない。

 

 どうやら召喚獣はSPを持たないので、そもそもそういう進化はしないようだ。

 

「多分、通常進化でいろいろ進化するんだよね」


 僕はそう言いながら、ラビィの頭をなでた。

 

「がんばるナァ」


 嬉しそうなラビィを見ていると、この姿も悪くないなと思うけれど、進化すれば間違いなく見た目は変わる。

 

(普通の進化でも、ラビットンは二回進化が必要だ。次もバニーガールにはならないかもしれない……)


 でもラビィはラビィだから、僕はきっと大切にできる。

 

 最近は友だちも増えたし、スキルの進化にも到達した。これだけ強くなったなら、ある程度の戦力は拡充できたのではないだろうか。

 

「ラビィやサクラの進化は自然に可能になるだろう。なんとか安全にファームできそうだし、ここからは『アロイ・ガライの迷宮』ファームだ」 

「がんばるナァ」

「ウガァ」


 待たせてしまったけれど、サクラの装備ファームでもある。最終的にはサクラの装備は変わるけれど、きっと楽しみにしているはずだ。


--------------------------


 あれから2日、『アロイ・ガライの迷宮』ファームをしているが、余り成果はでていない。

 

 一日10回が限度なので、20回攻略したわけだけど、新しくドロップした装備は『メイドの手袋』だけだった。

 

 部位が2つでは特殊な効果も出ないけれど、サクラはすでに装備をしている。普通に防御力が落ちているけれど、前のようなことがないように、サクラには前衛で戦ってもらっている。

 

 ひそかに骸骨やゴーストの卵ドロップも期待していたが、影も形も見つからない。それほど簡単ではないのは理解しているし、本当にドロップしたら困ってしまうかもしれないけれど、骸骨とかの卵には興味があった。

 

 とは言え、仮に新しい魔物と契約しても、同時に呼び出すことはできない。次の同時召喚が増えるレベルは20なので、遥か彼方といった感じだ。

 

「次のチャレンジは明日だね」 

「明日もがんばるナァ」

「ウガァ」


 アロイ・ガライのボス部屋を出て、暖炉の部屋に戻ると、どこかで見た戦士と魔法使いが天秤の前にいた。

 

「あっ、この前の人だ。こんにちはー」 

「こんにちは」 

 

 二人の言葉で思い出した。以前はもうひとり剣士がいて、この部屋で会ったパーティだ。

 

「こんにちは。今日は二人なんですね」

「あー、実はパーティを解散したんだ。あいつは攻略最前線のクランを作るとか言ってさ。俺らはそこまでガチ勢ではないって思ってたら、向こうから解散だって言われたよ」


 攻略に対して、温度差が合ったみたいだ。しかし、その剣士は気が早い。クランの実装は次のアップデートで実装される予定だ。

 

 まだ未実装のこの段階で、クラン設立に向けて動き出すというのは、単にせっかちなのか戦略があるのかのどちらかだろう。

 

「ゲームは楽しんでこそだから、苦しんじゃだめですよね」 

「全くだ。そう言えば名乗っていなかったな。俺はパーフェクトタンク。戦士だ」

「私は回復専門の魔法使い。モルギットです」


 よほどの自信があるのか、名前がパーフェクトタンクとはすごい。ある意味ロールプレイな気がするので、僕もそっち系の挨拶にしよう。

 

「僕はラル。召喚師にしてレアハンターのラルさ」 

「どうりで見たことのない装備をしてるんですね……」 

 

 イマイチのってきてくれなかったけれど、それはそれで問題はない。

 

「Tシャツもズボンもこの手袋も、なかなか手に入らないやつだけれど、性能はそうでもないよ」 

「装備も珍しいけれど、小鬼と契約している召喚師も初めてだ。俺が見たのは岩石人形ばっかりだな。でも毛が生えたやつとか半透明の岩石人形は、それなりに面白かったぞ」


 多分獣エッセンスを使ったのと、幻エッセンスを使った契約だろう。

 

「すごそうな岩石人形ですね」


 いつもそうだけれど、ラビィは召喚獣に見えないようだ。どうやらこの契約は一般的ではないらしい。

 

(とすれば、僕だけのバニーガールになるかも……。いや、すぐに広まってバトルラビット討伐祭りが起きるかもしれない) 

 

「っと、ちょうどこの天秤の謎がわかった気がしてな、試しに来ていたんだ。ラルは答えを知っているのだろうけれど、間違ったら危ないから離れていてくれ」 

「はい」


 僕は角の甲冑から離れ、出口の方へと移動した。

 

「モルギット」 

「任せて。天秤を釣り合わせればいいんでしょう?」 

 

 モルギットは天秤に近づくと、最初に乗っていた黒くて丸いボールをつまんだ。

 

「これをこうするんです」  

 

 そう言うとモルギットは、黒いボールを天秤から取り除いた。

 

 正解なので食器棚が移動していく。

 

「やったぞ!」 

「やりました!」 

「おめでとうございます」 

 

 二人はハイタッチで喜んでいた。鉄製の装備をつけるパーフェクトタンクと、素手のモルギットのハイタッチは、少しだけ見ていて痛そうに感じるけれど、実際は大丈夫みたいだ。

 

「よし。それじゃ行ってくるぜ」

「お気をつけて」

「行ってきます」

 

 二人は迷宮の入り口へ近づくと、スゥッと消えた。レベルが僕らと同じくらいなら、クリアは難しい気もするけれど、岩石人形の話もしていたし、きっと高レベルなのだろう。


「それじゃ僕らは、やり残している肝探しに行くよ」 

「がんばるナァ」 

「ウガァ」

 

 そうして僕らは、アロイ・ガライの館を出た。

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