52.スキルの進化
予想はしていたけれど、最後のボスはアロイ・ゼロではなく、通常のアロイ・ガライだった。
魔法特化のボスみたいで、ムーンシールドでダメージを軽減しなければ、ちょっと危険な感じだったけれど、基本的にやわいので、ピンチになることもなく倒すことができた。
危険がなかったからという訳でもないけれど、ドロップは『執事のベスト』のレシピだった。
おそらくフォルクシーで装備が直接ドロップし、アロイ・ガライでレシピがドロップするのだろう。
「そしてついに、この時がきたね」
「おめでとナァ」
アロイ・ガライの部屋でスキルを確認すると、いくつかのスキルがカンストしていた。
無魔法、魔力の雫、魔力制御の3つが、ついに10レベルになったのだ。
全てが同じというわけではないけれど、大抵のスキルは10レベルで進化する。
「んっ、魔力制御は進化しないのか。これで終わりってわけだね」
3つの内、魔力制御だけは進化しないスキルのようだ。レベルも最大表示なので、これで十分ということだろう。
そもそも魔力制御の効果は、魔法を使うときの使用魔法力を、増減させるというものだ。ただし、魔力制御レベルまでの魔法にしか効果がないから、10レベルあれば全てに適用できるってことなのかもしれない。
無魔法は後にして、僕は『魔力の雫』の進化を試みる。
「使用SPは10だ。ベーシックな値だね」
進化しますかの問に、僕はイエスと答えた。
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『魔力の雫』が進化しました。
『魔力の泉』を取得しました。
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進化させたことで、魔力の雫以上に魔法力の最大値が上昇した。魔法力自然回復量は数値で見えないけれど、きっとそっちも上昇しているだろう。
「最後は無魔法だ」
「たのしみだナァ」
無魔法の進化に必要なSPは15だった。ちょっと多いけれど、しばらく使っていないので、ポイント自体は余っているくらいだ。
僕は進化しますかの問に、迷わずイエスと答えた。
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『無魔法』が進化しました。
『虚無魔法』を取得しました。
『虚無魔法:ムーンボール』を取得しました。
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虚無に進化しても、変わらず月のイメージのようだ。ムーンボールはきっと、月のような輝きで飛んで行くのだろう。
「ムーンボールは最初から15消費なのか。威力に期待できそうだね」
「マスター、おめでとナァ」
「ウガァ」
「ありがとう。ラビィ、サクラ」
でも残念なことが一つある。ラビイの水魔法もカンストしているのだが、進化することができない。
どうやら召喚獣はSPを持たないので、そもそもそういう進化はしないようだ。
「多分、通常進化でいろいろ進化するんだよね」
僕はそう言いながら、ラビィの頭をなでた。
「がんばるナァ」
嬉しそうなラビィを見ていると、この姿も悪くないなと思うけれど、進化すれば間違いなく見た目は変わる。
(普通の進化でも、ラビットンは二回進化が必要だ。次もバニーガールにはならないかもしれない……)
でもラビィはラビィだから、僕はきっと大切にできる。
最近は友だちも増えたし、スキルの進化にも到達した。これだけ強くなったなら、ある程度の戦力は拡充できたのではないだろうか。
「ラビィやサクラの進化は自然に可能になるだろう。なんとか安全にファームできそうだし、ここからは『アロイ・ガライの迷宮』ファームだ」
「がんばるナァ」
「ウガァ」
待たせてしまったけれど、サクラの装備ファームでもある。最終的にはサクラの装備は変わるけれど、きっと楽しみにしているはずだ。
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あれから2日、『アロイ・ガライの迷宮』ファームをしているが、余り成果はでていない。
一日10回が限度なので、20回攻略したわけだけど、新しくドロップした装備は『メイドの手袋』だけだった。
部位が2つでは特殊な効果も出ないけれど、サクラはすでに装備をしている。普通に防御力が落ちているけれど、前のようなことがないように、サクラには前衛で戦ってもらっている。
ひそかに骸骨やゴーストの卵ドロップも期待していたが、影も形も見つからない。それほど簡単ではないのは理解しているし、本当にドロップしたら困ってしまうかもしれないけれど、骸骨とかの卵には興味があった。
とは言え、仮に新しい魔物と契約しても、同時に呼び出すことはできない。次の同時召喚が増えるレベルは20なので、遥か彼方といった感じだ。
「次のチャレンジは明日だね」
「明日もがんばるナァ」
「ウガァ」
アロイ・ガライのボス部屋を出て、暖炉の部屋に戻ると、どこかで見た戦士と魔法使いが天秤の前にいた。
「あっ、この前の人だ。こんにちはー」
「こんにちは」
二人の言葉で思い出した。以前はもうひとり剣士がいて、この部屋で会ったパーティだ。
「こんにちは。今日は二人なんですね」
「あー、実はパーティを解散したんだ。あいつは攻略最前線のクランを作るとか言ってさ。俺らはそこまでガチ勢ではないって思ってたら、向こうから解散だって言われたよ」
攻略に対して、温度差が合ったみたいだ。しかし、その剣士は気が早い。クランの実装は次のアップデートで実装される予定だ。
まだ未実装のこの段階で、クラン設立に向けて動き出すというのは、単にせっかちなのか戦略があるのかのどちらかだろう。
「ゲームは楽しんでこそだから、苦しんじゃだめですよね」
「全くだ。そう言えば名乗っていなかったな。俺はパーフェクトタンク。戦士だ」
「私は回復専門の魔法使い。モルギットです」
よほどの自信があるのか、名前がパーフェクトタンクとはすごい。ある意味ロールプレイな気がするので、僕もそっち系の挨拶にしよう。
「僕はラル。召喚師にしてレアハンターのラルさ」
「どうりで見たことのない装備をしてるんですね……」
イマイチのってきてくれなかったけれど、それはそれで問題はない。
「Tシャツもズボンもこの手袋も、なかなか手に入らないやつだけれど、性能はそうでもないよ」
「装備も珍しいけれど、小鬼と契約している召喚師も初めてだ。俺が見たのは岩石人形ばっかりだな。でも毛が生えたやつとか半透明の岩石人形は、それなりに面白かったぞ」
多分獣エッセンスを使ったのと、幻エッセンスを使った契約だろう。
「すごそうな岩石人形ですね」
いつもそうだけれど、ラビィは召喚獣に見えないようだ。どうやらこの契約は一般的ではないらしい。
(とすれば、僕だけのバニーガールになるかも……。いや、すぐに広まってバトルラビット討伐祭りが起きるかもしれない)
「っと、ちょうどこの天秤の謎がわかった気がしてな、試しに来ていたんだ。ラルは答えを知っているのだろうけれど、間違ったら危ないから離れていてくれ」
「はい」
僕は角の甲冑から離れ、出口の方へと移動した。
「モルギット」
「任せて。天秤を釣り合わせればいいんでしょう?」
モルギットは天秤に近づくと、最初に乗っていた黒くて丸いボールをつまんだ。
「これをこうするんです」
そう言うとモルギットは、黒いボールを天秤から取り除いた。
正解なので食器棚が移動していく。
「やったぞ!」
「やりました!」
「おめでとうございます」
二人はハイタッチで喜んでいた。鉄製の装備をつけるパーフェクトタンクと、素手のモルギットのハイタッチは、少しだけ見ていて痛そうに感じるけれど、実際は大丈夫みたいだ。
「よし。それじゃ行ってくるぜ」
「お気をつけて」
「行ってきます」
二人は迷宮の入り口へ近づくと、スゥッと消えた。レベルが僕らと同じくらいなら、クリアは難しい気もするけれど、岩石人形の話もしていたし、きっと高レベルなのだろう。
「それじゃ僕らは、やり残している肝探しに行くよ」
「がんばるナァ」
「ウガァ」
そうして僕らは、アロイ・ガライの館を出た。




