49.邪妖精の迷宮、ナイトメア
ナイトメアに来てみると、魔物が少し変わっていた。
「歯ごたえありそうね」
マーミンは楽しそうにしているが、とにかく分析が重要だ。まずはハードにいたミニタウロスが、タウロスガードという魔物に変わっている。
人間の大人くらいのサイズなので、ハードボスのタウロスよりも、弱い設定なのかもしれない。と言うか、ボスより強かったら驚きだ。
「タウロスガードって、ガードってついてるから、きっと硬いんだろうね」
「そう思います」
ただタウロスガードの後ろに見えるのは、いつもの邪妖精だった。数が5体に増えているので、ちょっと厄介になっている。
「前衛が3で後衛が5か……」
「レアハンターが怖気づいたの?」
そうつぶやくと、マーミンがこの程度で何をビビってるのって感じで言ってきた。
「伝説の魔女に不可能がないように、レアハンターにも不可能はないのさ。僕は作戦を考えていただけだよ」
「お願いします」
ラズベリーが作戦の説明を求めてくるが、まだ考えがまとまっていない。
「えっとね……」
そう時間稼ぎをしながら、僕は考えをまとめていった。
「後衛の5体は、マーミンの魔法で瞬殺だ。前衛はキンちゃんが注意を引いている内に、みんなの魔法を集中させて1体づつ倒す」
「ハードのときと一緒ね。オーケー」
「了解です」
言われてみれば、ハードのときとあまり変わらない。違いがあるとすれば、キンちゃんが抱える魔物の数が多くなることくらいだろう。
「我に任せよ!」
作戦が決まった途端、キンちゃんがタウロスガードへ向けて駆けていく。
「ウオォォォォン!」
咆哮で注意は引けたみたいだけど、さすがに動けなくなる魔物はいなかった。
「ファイアショット!」
5つの火の塊が、後衛それぞれに着弾する。花火のような美しさに、思わず僕は見とれてしまう。
「っと、左からだ。ムーンスピア」
マーミンの魔法で後衛は殲滅できていた。後は予定通りに、僕らも1体づつ倒していこう。
「アクアランスナァ!」
「ウィンドアロー!」
タウロスガードの名前に相応しく、魔法だけでは倒しきれないみたいだ。
「ウガァ」
そこへサクラが近づいて、小鬼小刀を一閃する。そのサクラの一撃で、タウロスガードは多角形の板を撒き散らして消えた。
「ファイアランス!」
今度はマーミンが右のタウロスガードへ魔法を放つ。それと同時に、中央のタウロスガードが、キンちゃんへと斧を振り下ろした。
「その程度で我に当てられると思うなど笑止千万!」
キンちゃんは壁を蹴り、さらに天井を蹴って、上からタウロスガードへ襲いかかる。
多角的な攻撃に弱いのか、と言うよりは攻撃した瞬間のすきをついて、キンちゃんの爪がタウロスガードを深く引っ掻いた。
「ストーンニードル!」
すでに右のタウロスガードは、ファイアランスの一撃で消滅している。マーミンは中央のタウロスガードへ向けて、土の下位魔法を放っていた。
マーミンは魔法使いだから、下位の魔法でも威力がでる。でも僕に補正はないので、いまさらムーンブラストを使う気にもなれなかった。
「ウガァ」
キンちゃん、マーミン、サクラの連続攻撃で、タウロスガードはダメージエフェクトをきらめかせて消えていく。
なんとかナイトメアでも、問題なく戦える感じだ。
「どうやら余裕のようね」
疲れた様子もなく、マーミンがそう言った。でも僕には一つ心配があった。
「マーミン、その先は行かないでね。いきなり罠があるよ」
「それは行けってことね」
マーミンはあれ程言ったのに、気にせず罠へと飛び込んだ。
「ムーンシールド!」
「ふんっ」
慌ててシールドを張ったけれど、この罠は矢ではなかった。マーミンが乗った床がパカリと開き、床に大きな穴が開いている。
ローブの首あたりをキンちゃんに咥えられたマーミンが、穴の上でブランブランとしていた。
「落とし穴か!」
「キンちゃん、えらい!」
「穴の底は槍が何本か立ってるわ。落ちたら串刺しね」
ぶら下がりながらも、マーミンは穴の底を冷静に見ていた。
キンちゃんが罠のない通路へと、マーミンを咥えながら戻ってくる。
「愚か者め」
っと、キンちゃんは言っているが、マーミンには通じない。
「ありがとう、キンちゃん」
というのも、キンちゃんには通じない。でもお礼を言っているのはわかったのか、照れたようにそっぽを向いてしまう。
(毛で顔が見えないけど、多分照れてるよね)
「キンちゃんは照れてるみたいです。マーミンさんも気を悪くしないでくださいね」
「ん、大丈夫よ。この伝説の魔女をはめるとは、大した罠ね!」
どうやら調子を取り戻したようだ。
それは良いとして、迂回する通路がないから、どうにも進むことができそうにない。
「出直そうか。戦闘は余裕でも、罠がどうにもならないよ」
「逃げるのは嫌だけれど、今回は前向きに戻るってことにしておくわ」
「はい」
罠解除に挑戦してと言われなくてよかった。失敗して落とし穴に落ちるとか、そんな予想しか頭に浮かばない。
「すぐそこでよかったよ」
ある意味最初の戦闘後だから、手間も対してかかっていない。ドロップもコモンだったけど、そこも今回は気にしないでおこう。
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迷宮からでると、早速マーミンが対策を練りだした。
「罠さえなんとかなれば、ナイトメアもクリアできそうよね。どうしたら良いのかしら」
マーミンが思案顔になる。僕らは邪魔しないように、その顔を見つめていた。
フッとマーミンが顔をあげると、僕の顔を見つめ返してきた。
「ラルはなにかない?」
ないのかよ! っと言いそうだったが、僕はそれをっ口の中にとどめた。マーミンの表情から考えるに、今回はボケた感じではなかったからだ。
「僕が考える方法は2つ。一つは罠解除を覚えること。でも斥候にはかなわないし、ナイトメアで通じるかもわからない」
「たしかにそうね」
「スキルが無駄になったら、もったいないですよね」
誰でも考えることなので、特に意見はないだろう。
そして僕はもう一つの方法を説明する。
「もう一つは斥候の仲間を作ることだね」
「だよねー」
「そ、それもそうですよね……」
なんとなく格好つけて説明しちゃったけれど、冷静に考えたらどっちも普通に思いつくアイディアだった。
「でも優秀な斥候は、固定でパーティを組んでるわよね」
「そうだよね」
となると、特にいいアイディアもでない。さすがに何かの召喚獣でなんとかなるとも思えないし、普通に斥候のフレンドを作ったほうが楽しいし早い気がする。
「あっ、話は変わるけれど、今度クエストを手伝って欲しいんだ」
「本当に変わったわねって、どんなクエストなの?」
僕はレジェンドクエストを受けた経緯や、内容について説明した。
「あの森にそんな秘密があるとはね。ほぼ行かないゾーンだから」
「鉱山に行くほうが多いから?」
マーミンはコクリと頷いた。
「そうよ。後は『黒騎士の修練場』ね。普通の森フィールドじゃ、クエストでお金は稼げるけれど、経験値のために狩りまくるとかは効果が薄いのよ」
得られるアイテムも少ないし、なんだか納得してしまう。でもレアポップもいるはずだし、全員が全員というわけでもないんだろう。
「私はいつでも手伝いますよ。キンちゃんの手伝いもしてもらいましたし、あっ、マントをお返しします」
「もちろん私もオーケーよ。伝説の魔女は頼られれば、絶対に協力してあげるわ」
「ありがとう。今日はログアウトするから、次回によろしくね。あとマントだけど、次の機会にドロップを探してみない?」
僕の言葉に、ラズベリーよりもマーミンが食いついてきた。
「前に話してた芋虫キング?」
「そう。そのイモキンさ」
「だからイモキンマントなんですね」
マントがどこまで効果があるか微妙だけれど、今までのドロップから考えれば、ラズベリーのドロップはよかった気がする。
それにあのリスがトリガーでイモキンがでてくるなら、比較的手に入りやすいアイテムと言えるだろう。
「それじゃまたね」
「おつかれー」
「またよろしくおねがいします」
そんな声を聞きながら、僕はログアウトした。




